【連載記事】『ボーはおそれている』 劇のシーンが一番重要! 徹底考察その6

本作の感想でよく見かけたのが「劇のシーンが長すぎて退屈」という意見なのだが、確かにこの劇のシーンは明らかにテンポも遅く、一見映画のストーリーと無関係な演劇を延々見せられているように感じるので無理もないだろう
しかしそれこそがアリアスターがこの映画に仕掛けた邪悪な意図であり、よくよく考えるとこの劇のシーンは映画のストーリーと無関係ではなく、むしろ一番ストーリーに関係していると言っても過言ではない
本記事ではこの劇について解説していく

ボーの考える劇

舞台劇を見ていたはずのボーは途中から自分が主人公となった劇を想像する。あの劇の内容は一見ボーと無関係に思えるが実はこれまでのボーの人生とこれからボーの身に起こることがほのめかされている
劇とこれまでのボーの人生との関連性の一部は解説その3でも説明しているのでそちらもご覧いただきたい

その3で解説した以外の関連性として挙げられるのが、ボーが家族を探し求めて老衰のため倒れこむと謎の仮面をかぶった女性に罪を告白するよう言われるシーン
実はあのシーンで背景にいくつか木が映っているのだが、その木の幹に無数の目が描かれている
そして老衰したボーが倒れこむ傍には水たまりがある
実はこのシーンは映画のラストシーンの水上裁判の伏線になっているのだ
劇の中ではボーは女性に促されるまま自身が臆病だったことを認め、土が良質な水に変わり、ラッパの音に目覚めると息子がいる村に飛ばされていたことに気づく
それに対して映画のラストシーンの水上裁判ではボーは必死に自身の無実を主張する
その結果ボーは許されることはなく、ラッパの音ともにボーは水に沈んでしまう

ボーが見ている劇

実はボーが考える劇だけではなく、本来ボーが見ていた劇もこれからボーの身に起こる出来事の伏線となっている
ボーが舞台に近づくと舞台の稽古をしているのだが、ラストシーンの水上裁判でボーが水に沈められる前に鳴るラッパと同じ音が鳴り、「主人公は気づくのが遅すぎた」というセリフの後主人公が「これは葬儀だ!」と言うがこれはまさしくラストの水上裁判の伏線になっている
さらにボーが妄想から覚め、舞台上で行われている本来の劇の様子が映し出されるが、そこでは頭上に浮かんでいる神のような男に主人公が「全て捧げてきたはずだ」と言うも神は「まだまだ足りない」というようなことを言っていたが、これもラストの水上裁判のボーとモナの関係を表していると捉えられる

ダンカン

ボーが女性によって劇団員に紹介された後、「観客と演者の境界を曖昧にしたい」と言われコスチュームを着るよう促されるがそのシーンで「私はダンカン」と突如自己紹介をする老人に声を掛けられる
この人物がボーと関わるのはこのセリフだけなのであるが実はこの人物は重要な役割を果たしている
実はダンカンはシェイクスピアの「マクベス」という劇に出てくるスコットランド王の名前なのである
マクベスのあらすじはwikiを参照していただきたい

この劇の中にマクベスがダンカン王を殺害するシーンがあり、その際ダンカン王の血は金色であったと後にマクベスが語るのである
これはダンカン王が神に近い存在であることを示唆しており、この映画においてモナは全てを操るいわゆる神のような存在なので、ダンカン王をモナ、マクベスがボーだとすると映画の最後でボーがモナを殺したシーンと似ていることが分かる
またボーが実家にたどり着いたとき画面左側の芝生の上に3人の真っ黒い服を着てゆらゆら揺れている女性たちがいるが、あれはマクベスに出てくる、マクベスに対し予言をした3人の魔女のことなのではないかと考えられる
そしてこのダンカンという劇団員はエンドロールクレジットを見ると分かるのだがダンカンを含めて3役演じていることが分かるのである

ダンカン、雲の上の神、劇のボーの妻を演じていることが分かる

雲の上の神はボーが妄想から覚めて舞台上で行われている劇で主人公を責めていた神のことで、劇のボーの妻は解説その3でのボーの想像する劇で出てくるボーの奥さんはモナのことを表しているんじゃないかという考察で取り上げた「彼女が時々男に見える」という説明の時に出てきた男のことなので、実はあの時の男はダンカンだったことが分かるのである

ダンカン

先ほどマクベスとの関係性からダンカン=モナだと説明したが、わざわざダンカンをこの2役に当てはめているのはこの2役が両方ともモナのことを表しているという隠された監督からのメッセージとなっている

ダンカンという名前を一瞬だけ出すだけでここまでの読み込みを観客に要求するのは少し無理があるようにも思えるがそこまでしても監督は本作の真意を隠したかったのだろうか

父親の正体

これは正確度がかなり低く断言はできないのだが、ボーの父親は劇が始まる前に観客席に急に出てくるスーツを着た男なのではないかという考察があった
根拠としてはその男の隣にモナを表すダンカンが座るのでボーは自分が生まれる前の若い父親の姿が見えたのではないかというものだったが少し弱い気はする
が、ダンカンの隣に座っているというのは何か意味があるような気がするのでもしかすると当たっているのかもしれない

次回予告

次からは何回かにわたって本作最大の謎であるエレーンについて考察していく

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