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奥信濃への道 第11走:陸と河川の裏表

吐く息は白く、呼吸の度に後ろに流れていく。
みぞれ混じりの雪は上がり、氷点下が間近に迫った気温にビビったのか、いつもより一枚多く着込んできたことを少し後悔しながら胸元にあるはずのジッパーの引き手を手探りで探す。暗い足元を気にしながら探す引き手は中々見つからない。
やっとの思いで引いたジャケットのジッパーは瞬時に解放され冷気が一気に上半身を包んでいく。隅田川沿いの公園は天気のせいか人もまばらで走りやすく思いの外ペースが良い。
「この気温で暑く感じるのだから、ジャケットの出番は無いな」
使用用途に暮れたジャケットの事はジッパーの解放とともに暫くの間忘れることにしよう。

週末は忙しかった、おかげで中4日開けてのランニングとなったが、良い休脚だったのか脚は軽い。先日引き返してしまった勝鬨橋を目指して河口へ向かう。遠くに見える東京タワーのライトアップは下半分のみ点灯している。今朝からテレビでキャスターが必死に報道していた供給電力切迫の影響だろうか、東京タワーに限らずいつもケバケバしく煌っている隅田川の橋も今日は暗い。とても不思議な感覚だが心は穏やか、少しぐらい暗くてちょうど良いんだ、いつもこの街は明るすぎる。

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勝鬨橋を渡り、川を折り返して再び門仲へ向けて走り出すと河川を屋形船が遡上してくる。「そうか蔓延防止期間は解除されたのか」乗客までは確認できなかったが、陸の暗さと反する程に煌々とライトアップして航行する屋形船はまるで今まで自粛で溜まりに溜まったフラストレーションを発散しているかのように上流へ消えていった。
いつだったか、隅田川の花火大会では屋形船が河川規制解除と同時に場所取りのためにレースの如く全力で航行すると聞いた。その日常が戻ってくるかは解らない。しかし一度でも観れるものなら観てみたい。

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ふとそんな事を思い出した冬の終わり、三寒四温の空気を一杯に感じながらの10kmはいつもより、あっという間だった。

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