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奥信濃への道 第12走:夜へ急ぐ人

「そうか、これは大正時代の風景に近いわけだ」

そう彼が語ると目を前にやる。
ライトアップが消された隅田川に架かる橋は、橋脚上の照明だけが灯されて水面を少しばかり照らすだけ。明る過ぎる街において、少し位落ち着いた雰囲気がこの隅田川沿いに流れている。私はこれが好きだ。
今日は20kmは走りたいんだよね。そう伝えると彼は白髯橋まで行こうという。いつもは浅草に最寄りの吾妻橋で折り返している私にとって、それより北側はランニングで行くのは未経験。彼はやたらと道における足場の快適さを主張してくる。氏曰く両国より北側は水門も無く、橋脚側に階段で登る箇所も少ないとのこと。
実際に初めて吾妻橋を超えて北上しだが、どこまでも続く蛇のように畝っている首都高速の下を走りやすい路面が続いている。
確かにこれは良い。週末の予定などを話していればあっという間に白鬚橋に到着、すぐさま踵を返し再び南下する。

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20kmを目標としていたため、このまま帰宅しては距離不足と感じ、両国で彼と分かれた後は対岸に移り永代橋をも超えていく。松尾芭蕉が見下ろす川沿いを走り、亀島川水門を渡り佃大橋で家の方向へ向きを変える。タワマンが乱立する石川島をぐるっと回り、相生橋で門仲へ戻る。
そしてアパートの前でおあつらえたようにピッタリ20km、素晴らしい。

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20kmと言う距離に若干の脚の違和感はあったが、その夜は何ということはなかった。ただ気持ち良い風と気温、そして一緒に走る仲間のおかげで一瞬の出来事のように過ぎ、充実感だけが包んでいた。

翌朝、膝に違和感が襲うことも、この時は知らずに。

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