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ラジオリスナーの熱量は高ければ高いほど良いのか問題のお話

今回もラジオ番組の評価基準の話なんですけども、大まかに言って2つの系統があると思っています。

一つはデータです。

基本は聴取率や人数、あとはメールの数など、番組への直接的な反響もここに入りますね。

もう一つは、番組に対するリスナーの熱量とでも申しましょうか、気合とでも申しましょうか。例えば一人のリスナーが番組を聞いたとして、データの上では番組へのアクセス数が「1」に過ぎないんですけど、そこにどれだけの思いがあるのか、という尺度です。どうしても数ばかりに目が行きがちですけど、この「リスナーの熱量」という観点を忘れてはいけません。

ラジオ番組を「聞く」という行為にはグラデーションがあります。

何か他のことをしながらの「ながら聞き」もありますし、正座しながら「集中して聞く」場合もあります。番組を聞きたいから、お仕事を休む人もいるかもしれない。もっと極端な例だと、その番組が好きすぎて放送局の近くに引っ越す人もいるかもしれませんよね。

引っ越しは極端ですけども、熱量は人を変えます。私が思う良い番組というのは、聞いて良かったー! だけではなく、聞いた人の行動や習慣、考え方まで変えるきっかけになるような番組です。

今までたくさんのラジオ番組を作ってきましたけど、リスナーの熱量を生み出すのは非常に難しい作業です。でも一度うまく火をつけることができたら、あとはリスナーさんの熱量とこちらの熱量がぶつかりあって、なんというか「勝手にうまくいくこと」が多い印象があります。番組の出し手と受け手が一緒になって場を作って盛り上げていく感じなんですけど、主客一体っていうんですかね、こういうの。ここまでの番組になると数字もついてくることが多くて、とても良いサイクルが生まれます。ラジオ番組を作る上で、リスナーの熱量を上げていく仕組みや環境を整備することは、優先して取り組むべき課題だと思います。

ただその一方で、全ての番組でリスナーの熱量を上げることを目指すべきなのか? という問題もあります。

この世はなべて需要と供給です。

毎日毎日集中してラジオを聞くと人間は疲れてしまうので、何も考えずに聞けるような番組を作ること「も」必要だと、最近は思うようになりました。身も蓋もない意見かもしれませんが、熱量を出すのって疲れません?? 言い方は悪いですけど、現代の制作物はいかに熱狂を生み出すかレースみたいなところもありまして、正直ついていけない方もいらっしゃると思うんですよ。別の言い方をすれば「ラジオを聞くのに熱量とかイミワカンナイ」というリスナー層です。そういった方たちに向けた番組を作ることも決して悪いことではありません。

ただ、どうもこの「リスナーの熱量が低くても別によいのでは?」という考え方はあまり理解されることが少なくて、根本的な部分で食い違うことも多いんですよね。

確かに熱をもって番組を聞いていただくことは大変ありがたいんですが、リスナーに熱量を求めない番組もそれなりに需要はあると思うんですよね・・・。企画書に「熱量ありません! 地味な番組です!」と書きにくい気持ちはわかりますし、そもそも熱量の低い人がわざわざ毎回ラジオを聞いてくださるか、という根本的な問題もありますし・・・。でもなー、やる気のありすぎる番組ってちょっと苦手なんですよねー。まぁこの辺は完全に好みの話なので、これはひとまず置いておきましょう。

ただ、こういった議論の是非はともかく、ラジオ番組を作る上で、リスナーにどの程度まで熱量を要求すべきなのかという点については、関係者で共有しておくべきです。この部分にミスマッチがあると番組のコントロールが一気に難しくなります。

良くある例で特にキツイのは、リスナーの熱量を出したいという思いだけが先行して内容がついてこないタイプの番組です。これは自身の反省も含めての言説になりますが、実際のところ出演者が盛り上げようとすればするほど、聞いている側は冷める、みたいなラジオ番組は結構多くて「まずは少し落ち着け」とよく思っています。具体的に言いますと、テレビのバラエティ番組やワイドショーのノリをラジオでそのままやると大体失敗しますし、あとあまり大きな声では言いにくいんですが、環境系の番組や自己啓発、自己実現を目指す番組とか、いわゆる意識が高すぎる番組も厳しい結果になることが多いですね。ま、どれもスポンサーはつきやすいんですけども。

で、こういったミスマッチを防ぐための方法ですが、リスナーがどんな顔で番組を聞いているかを常に想像することです。

スタジオからはリスナーの顔が見えませんので、聞いている方がどんな状況になっているのか想像するしかありません。アイドルやタレント、ライブメインの歌手の方とか、普段からお客さんと直接相対している方は、こういったリスナーの心情を想像してコントロールすることが比較的上手いんですが、不慣れな方は中々コツをつかめないように思います。やはり人前で何かをやる、そしてリアクションを直接受けるという場数は大事ですよ。やりたいことをやってる間は半人前、求められることができるようになったら一人前、なんてよく言いますけど、割りと正解だと思います。

そうそう、関連してですけど、最近はよく「刺す」という表現を使いますよね。音楽を聞いて感動したときに「この曲は刺さった!」なんて言い方をします。

でも、この「刺す」という考え方が広まりすぎてしまって、刺すのを狙ってることが見え見えの制作物が多くなっている気がします。一言で言うとあざといヤツ、ですね。

こうなってくると、刺さない方がむしろ刺さる、というようなとんちみたいなことも発生します。「熱量」にしろ「刺す」にしろ、状況に応じてうまくコントロールしていってくださいね。

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