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宇宙機の帯電、放電(概要)

ここでは、宇宙機への帯電、放電事象について説明しています。衛星、宇宙機への設計に携わっていない方においては、宇宙空間で帯電、放電が発生することを知らない方も多いとは思います。また、小型衛星での設計でも帯電、放電対策がそこまでしっかりと考慮されているか、といわれれば、されていない衛星もあると思っています。一方、事実として衛星、宇宙機の軌道上不具合のうち、最も多いのが、この帯電、放電事象による衛星機能の喪失です。ここでは、帯電、放電事象の発生原理とその対策の概要について示します。

1,宇宙機の帯電、放電の発生原理

宇宙機が滞在する宇宙環境では、多くの方が知っての通り、宇宙放射線が降り注いでいます。中でも電子線は、電子にエネルギーが付与されたものであり、1.6E-19C(クーロン)の電荷を帯びています。例えば、その電子線がある物体の中にとどまった場合、物体内部に電気が溜まることとなります。以下の図のような系で考えてみましょう。衛星構体に接着剤で固定されているカメラ(金属)があります。ちなみにこの接着剤は非導電性の接着剤のため、電気を通しません。

放電1

太陽活動が活発な時期では、以下のように多大な電子線が降り注ぐこととなり、それが衛星構体やカメラに降り注ぎます。

放電2

例えば、この状態が一定時間続いたとして、カメラの中に相当の電子が溜まったとします。一方、衛星構体にも同じように電子線が降り注ぎますので、電気が溜まることとなりますが、カメラとは面積も密度も異なります。また、太陽光が当たれば光電効果の影響で電子が放出されることもあり、一箇所に溜まる電荷量は、そこまで高い結果とはなりません。今回は、衛星構体においても、同じ量の電子が溜まっていることを想定してみましょう。そうすると以下の図のような状態となります。

放電3

このように、衛星構体と比較して、カメラには多くの電子が局所的に留まっていることがわかります。ここで、接着剤は、非常に低効率の高い非導電性接着剤であるため、カメラに溜まった電子に逃げ場はなく、どんどんどんどん電子が溜まっていきます。そうして、いずれ限界を超えた時に、電子はバチッと衛星構体に放電するのです。

放電4

これにが宇宙空間における帯電、放電の原理です。局所的な帯電により、逃げ場を失った電子が安定を求めて、衛星構体に放電し、電位的に安定することとなります。ここで、電位的に安定したので、万事OKと思いきやそれは違います。放電することで一時的に衛星のGNDが非常に高い電圧となります。GNDの電圧が想定を超えて変動した結果、例えば、機器内部の部品を破壊してしまったり、コンピューターが誤動作したりと、衛星は通常通りの動作を行うことができません。

2,宇宙機の帯電、放電対策

以上に示した通り、衛星の帯電、放電事象については説明してきました。では、このような事象を無くすためにはどのような対策をする必要があるのでしょうか。答えは非常に簡単です。今回、例としたカメラのような電荷が局所的に溜まる要因を排除することです。今回は特別に非導電性の接着剤での固定とさせていただきましたが、これがネジ結合であれば、電荷は、ネジを通じて衛星構体に流れるため、今回のような局所的な帯電は発生せず、結果として放電も発生しません。または、導電性のある接着剤を適用しても同じように帯電せず、今回、例に示したような結果にはなりません。

一方、衛星に搭載している部品、材料全てを上記のように対策できる訳ではありません。例えば、スイッチやリレー内部の金属端子やシステム試験で使ったハーネスなどです。それらについては、例えば、面積が小さい、電子線が届かないような衛星内部にあるなど、解析によって帯電しないことを確認することで、対策不要とする方法もあります。その解析方法については、別に機会にて詳細に説明したいと考えております。

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