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「男女格差、日本は世界80位に」って何の男女格差?

はじめに

 いつもお目通し頂きありがとうございます。タイムリーに白饅頭先生が仰った通り、共同通信社様の煽りタイトルに釣られて彼らのPVを増やすのは悔しいのですが、この記事により「はい、また男女格差が広がりましたー」「はいヘルジャパーン」と言われっ放しの方が悔しいので、急いでキーボードを叩くことにしました。

 それにしても、この記事を読んだだけでは何の男女格差が世界80位になったのか?、また、経済的権利とは何なのか?が分からないどころか、世界銀行がまとめた年次報告書はどこにあるのか?タイトルは?と疑問ばかりが残ります。

それでもジェンダーギャップ指数レポートと同様に「ほらな、世界の男女格差80位の国だもの」とジャパンディスカウントに使うは十分、これでは共同通信社様の思う壺です。

本noteの目的

 従いまして本noteの目的は下記になります。

・世界銀行がまとめた年次報告書を紹介します
・構成要件を確認します
・日本の順位の妥当性について考察します
・報道が正しかったかどうかについて論考します

1. 女性の仕事と法律 (Women,Business and the Law)とは何か?

 世界銀行が190ヵ国を調査し、女性の経済的機会や法整備の有無を比較します。少なくとも「男女格差」なるタイトルではありません。

Women, Business and the Law 2021 (PDF)

内容は8つの指針(Indicator)35の設問(Question)からなり、指針

移動→職場→賃金→結婚→子育て→起業支援→資産→年金

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女性の一生涯を意識した構成になっています。

次いで8つの指針に連動した35の設問を紹介します。それぞれ1設問づつYes/No方式で判定します。指針毎のスコア(Indicator Score)を100とするので1設問当りの配点は20点または25点となります。

全ての調査が終了したら指針毎のスコアを合計し、それを指針数の8で割り平均値を求めます。フルスコアは800点÷8=100点です。例題では(100+100+100+100+40+75+100+100)÷8=89.4(≒89.375)となります。

設問の中には更に複数の小設問が設けられている場合もあります(全ての小設問でYesを獲得しなければ得点を得られません)。

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 以降、名前が大変長いので女性の仕事と法律をWBL(Women,Business and the Law)、世界経済フォーラムが編纂したジェンダーギャップ指数をGGI(=Gender Gap Index )と呼びます。

2. 日本のスコアと将来像

 以下が日本の指針毎の採点表です。似たような画像が続きますが、
上(P85の表記)が2021年版
下(P46、2020の表記)が2020年版

で、いずれも81.9点。設問毎の判定に変化はありません。

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下記に指針毎に分類した35の設問を表にしました。Noとされた設問を赤字で表記しましたので、この6設問について来年度以降の期待も込めて考察していきましょう。

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○職場ー3. 雇用においてセクハラに関する法律はありますか?
 WBL2021
では「当該法律なし」となっていますが、2020年6月から労働施策総合推進法の改正(所謂パワハラ禁止法)や男女雇用機会均等法育児・介護休業法の改正(所謂セクハラ・マタハラ禁止法)で、これまでは配慮義務や措置義務だったものが「法律」となります。

WBL2021では残念ながらNoと判定されてしまいましたが、タイムラグを含めても近い将来1~2年程度でYesになる事が期待されます。

○職場ー4. 雇用においてセクハラへの刑事罰や公的な救済策はありますか?
 
この職場ー4には2つの小設問があり、いずれもYesにならなければ得点は得られません。1つ目はセクハラへの刑事罰、2つ目は被害者の公的救済策の有無です。1つ目についてはWBLは刑事罰を求めていますが、上記職場ー3の法改正ではそのように定義されておりませんので、近々にはYesになりそうにありません。

WBL2022以降でも恐らくNoのままでしょう。

○賃金ー1. 同一労働・同一賃金が法律で義務付けられていますか?
 
こちらもWBL2021ではNoの判定でしたが、2020年4月から施行されるパートタイム・有期雇用労働法の改正(中小企業は2021年4月から)により、来年度以降Yesに転じる可能性があります。

WBL2022以降ではYesの得点が期待出来る設問です。

○賃金ー3. 女性は男性と同様に危険とみなされる職業に就くことができますか?
 
この設問、Yesの判定ではありますが一言付け加えるならば、法律上就く事が可能かどうかと、実際に就いているかどうかは異なります。ゴミ収集や廃品回収・選別業、道路舗装工事、水道管・ガス管の交換工事などでは日本では見かけませんので、下記賃金ー4と含めて判断が難しい所です。

○賃金ー4. 女性は男性と同様に工業系の職業に就くことができますか?
 WBL2021
にはNoの法的根拠として労働基準法64条の2が指摘されていますので参考資料として提示(後述)しますが、みなさんはどうお感じになりますでしょうか?

Noと判断された鉱山勤務を筆頭に、構造建築工場建築農業開発エネルギー開発水源開発運送、と強靭さが求められる職業が並びます。

GGIにも労働力の男女比のサブインデックスがありますが、これをYesにして鉱山や石切場で女性を労働者として迎い入れる事が果たして良い事でしょうか?上記賃金ー3hazardous(有害な)、arduous(困難で根気の必要な)、と分類される職業にも、女性が男性と平等に従事する事が望ましい事かは立ち止まって熟考すべき点だと考えます。

いずれにしても、8つの小設問全てがYesではなければ加点はありませんので、恐らくWBL2022以降でもこの設問はYesにならないと思います。

もしこの妊産婦の例外規定の為にNoと判定され、坑内労働が可になったらYesに転じるとしたら、WBLもなかなか闇が深いと警戒を強めねばなりませんが。え?ここがYesの国は妊産婦の坑内作業もOKって事ですか?

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○結婚ー5. 女性は男性と同様に再婚する権利がありますか?
 こちらは先ごろ、離婚後6カ月を経過した後でないと再婚できない再婚禁止期間が100日に短縮されたものですが、日本でこの期間が0になる事はなさそうです。

WBL2022以降でもNoのままで加点は得られないでしょうが、立法根拠からは日本ではこの法律が廃止される事はなさそうです。この法律がこれまで多くの成人男女と子供達を守り、また将来に渡って多くの人々を守り続けるでしょうから。

○起業支援-1. 法律で性別の違いによる融資差別が禁止されていますか?
 
これは実際に世界銀行のコーディネーターに確認しなければなりません。ここ数年で日本では女性の起業が余りに優遇され過ぎており、男性差別と認定されてNoであるのか、それとも「男女の違いで融資の判断をしてはならない」と言う明確な法律がない為にNoなのか、根拠を明らかにする必要があるでしょう。

WBLが求めているのは「法律による融資差別の禁止」ですから、後者だとすれば早急にお題目だけの法律であっても審議して可決したならばYesに転じる事が可能です。

しかしここで気をつけねばならないのは「法律による融資差別の禁止」を法制化・厳格化する事が女性起業家を増やしたいと言う現在の政府のエンパワーメントをも禁止しかねない事です。どれだけの権威のある報告書か知りませんが、このスコアを上げるために女性支援政策が打ち切られるのは本末転倒です。

ただ、現在女性の起業支援策が豊富なアメリカが100点を獲得している事からも、差別を法律上禁止さえしていればエンパワーメント部分については不問の公算が高そうです。期待を込めてWBL2022ではYesとしてみました。

 以上、WBL2021の詳細を確認すると共に、WBL2022以降でYesに転じそうな設問を考察してみました。WBL2021では81.9点でしたが、将来的には91.3点までは期待出来そうです。

一方、どんなに加点があっても日本特有の法律は覆らず、91.3点を超えて得点するのは難しそうな雰囲気が残ったのも事実です。しかしながら、ここまでお読みの皆様なら、100点満点を目指す必要が無さそうだともお感じになったのではないでしょうか。

3. 日本の得点と順位の妥当性

 順位の算定方式は、同スコア同順位の次順は国数がカウントされてしまいます。例えば100点が100カ国あったケースでは、次スコア99点の国は101位となります。GGIと同様に2位ではありません。

従って、今回のように中身を精査せずに順位だけを報道してしまうとGGIのように順位だけが独り歩きしてジャパンディスカウントに利用されたり、ミスリードを引き起こしてしまいます。

既に説明した通り、1設問は20点または25点で最終的に8で割りますから、2.5~3.125点/設問となり、ワンミスが命取りになるシステムで同着も多いです。そうであるならば、国別順位とするよりは「○位グループ」と表現するのが妥当ではないでしょうか。

1位グループ(ノーミス)、第2グループ(1~3ミス)…と分類するならば日本(81.9ポイント=6ミス)は第3グループ(4~6ミス)に属し、著しく悪いとは言えません。

また期待値として91.3ポイントを予測できたので、近い将来第2グループに属す可能性が考えられます。そして、1位グループに属するのは無理な事も分かります。

報道で男女格差80位だけが独り歩きすると、何の事だかサッパリ分かりませんが、こうして考えれば日本は2位~3位グループの間で得点は妥当と判断する事が出来るでしょう。そうした考えの元で1位から眺めてみれば「ヘルジャパン 男女格差で 80位」と川柳を詠む必要もなくなります。

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4. 国別得点と順位の比較

 次に、サハラ以南のアフリカ諸国のスコアもご覧ください。モーリシャス(91.9)から、日本と同レベルのスコアのザンビア(81.3)、タンザニア(同)、ケニア(80.6)、ルワンダ(同)までご覧頂ければ、このレポートが女性の幸福度やQOLの優劣を示さない事もお分かり頂けるでしょう。

WBL女性が生涯で直面するであろう条件差や法律の有無をYes/Noで比較したに過ぎませんから、これを男女格差80位と言うタイトライズしてしまうのは余りにも大雑把で乱暴です。

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5. 結論ー「男女格差、日本は世界80位に」って何だったの?

 一言で申すなら、共同通信社様の釣りタイトルでした。記事を読んだ所で中身はサッパリ分かりません。以下、このnoteで得られたであろう知見を列挙します。

○「女性の仕事と法律 (Women,Business and the Law) 2021」で80位
○ 国別の比較方式は概ね妥当だが、順位は余りアテにはならない
WBL2021では日本は凡そ第3グループに属している
○ 将来改善が期待され、第2グループに属する可能性がある
○ 但し1位グループ(フルスコア)にはなれない
○ また日本は法律上、無理に第一グループを目指す必要がない
○ デタラメなGGIと比較すると、至って普通の調査に見える

 以上の知見を元に、改めて共同通信社様の記事を読んでみましょう。

○ 経済的権利低下?
 ー74位から80位になったものの、Yes/Noの判定は昨年度と同一でスコアも81.9ポイントですから日本の女性の権利は日本国内において何ら低下していません。

○ 経済的な権利を巡る男女格差を調査した年次報告書を公表した?
 ーこの報告書は女性が生涯で直面する諸条件や法律の有無を男女別・国別に比較したものであり、大局的な権利や男女格差を示したものではありません。

○ 根深い差別解消に向けた取り組みが進んでいないことが浮き彫りになった?
 
ーそこまで根深い差別がありましたか?

 以上になりますが、既にオールドメディアと呼ばれるような媒体が発信した情報を鵜呑みにするのは危険だな、と改めて感じながらnoteを閉じたいと思います。この度も最後までおつきあい下さいましてありがとうございました。

出典

World Bank Group:Women, Business and the Law 2021(PDF)
World Bank Group:Women, Business and the Law 2020(PDF)
Global Gender Gap Report 2020(PDF)
共同通信社:男女格差、日本は世界80位にー経済的権利巡り低下、世銀調査
厚生労働省:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)
厚生労働省:同一労働同一賃金特集ページ厚生労働省:労働基準法のあらまし(女性関係)(PDF)
再婚禁止期間を定める民法733条の合憲性
最高裁平成27年12月16日大法廷判決 弁護士 森貞 涼介(PDF)

男女共同参画局:女性応援ポータルサイト


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