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「大丈夫」


電車に乗って吊革につかまって
立っていると
目の前の座席で本を読んでいた
おじいさんが

「大丈夫ですよ」

そう声かけてきた
私はなんだこのじいさん
と思った
だから無視をしたし
おじいさんの隣のおばさんは
私の顔と横にいるおじいさんを
交互に見た
そりゃそうだろうとも
場所を移りたかった
しかし混んでいて
動きが取れない
おじいさんはというと
また静かに本を読みはじめていた
まるで何事も無かったかのように
私の存在も無かったかのように
まぁそれならそれでいいさ
しかしまだ時々おばさんは
私をチラ見する
もう良いじゃないのおばさん

目的の駅に着いた
友達と待ち合わせして
ランチに行く
10分早く着いた
駅前のロータリーで待っていると
向こうから走ってくる友達の姿が

「ごめーん
待ったぁ?」

「どうして走るのよ
まだ10分前だよ
私も今着いたところだし」

「えっ
そうなの?
私時計見てなかったから
遅刻したかと思っちゃった」

「おっちょこちょいだね」

二人は笑いながら
予約してあるイタリアンへと向かった
ここは先月雑誌で見付けて
是非行ってみたいと思ったお店だった
偶々お友達の地元だったし
ちょうど良かった
お店はこじんまりしているけど
とても気持ちの良い感じのお店だった
二人でランチのコースを頂き
ワインもボトル二本も開けちゃった
流石にちょっと酔っ払ってフワフワしている
デザートを食べていると
お友達が

「ねぇねぇ
この後
占いに行かない?
この近くによく当たる
占い師さんがいるんだよ
時々テレビとかも出ていて
評判なんだよ
一緒に今年の運勢見てもらおうよ」

普段占いなどしない私も
お酒の所為もあって

「うん
じゃあ行ってみよう」

という事になった

「でどんな占いなの?」

「なんかねぇ
カード使ってするみたい」

「タロット?」

「違うけど
そんな感じなんじゃない?」

「適当だなぁ」

話しながら歩いている間に
到着した

「ここよ」

全然占いって感じじゃ無い

「ここなの?」

「うん
そうだよ」

「ここ普通の喫茶店じゃない」

「そう普通の喫茶店なんだけど
ここのマスターが
凄いのよ」

「ふぅーんそうなんだぁ」

「とにかく
入るわよ」

入口を入ると
カランコロンと小さなカウベルが鳴った

中から

「いらっしゃいませ」

の声が

私たちは占いをしてもらうので
テーブル席ではなく
カウンターに座った
すると
店のマスターが

「あっ先ほどはどうも」

そう話しかけてきた
マスターの顔を見ると
思い出した

「さっきの電車の人?」

「そうです
先ほどは本当に失礼致しました」

「えっ
電車でどうしたの?」

「あのね
さっき電車でここに来る時にね
私の前に座ってらっしゃったの」

「それだけで?
よく覚えているものね」

「それが
マスターが声をかけてきたのよ」

「そうなんです
突然で本当にごめんなさい」

「なんて?」

「大丈夫ですよって」

「なになに?
マスター
それってなによ」

「いやいや
そのままですよ
大丈夫は大丈夫です」

「マスターって
いつもそんな感じで
声かけてるの?」

「いやいや
普段はそんな事はしないさ
そんなの気持ち悪いものね」

分かっているんだ
でも何が大丈夫なんだろ?
二人は今年の運勢を見てもらった
まぁまぁ
二人とも平凡な一年のようだ
それはそれで何よりだ
でも大丈夫ってなんだろ?
やっぱりその事は気になる
そろそろ帰ろうと思って
トイレに行った
出てきたら友達もトイレに
その時マスターから
紙を渡された

「帰ってから読んで下さい」

私は思った
何かあるな

「ありがとうございます」

二人はお礼を言って
喫茶店を後にした
友達は私を駅まで送ってくれた

「今日はありがとう
イタリアンに占いに
盛りだくさん
楽しかったわ
またメールするね
バイバイ」

電車に乗りながら
先ほどの紙の事が気になって
仕方がなかった
今見たい気分だが
帰ってからって言われたし
それまで我慢しよう

家に着いた
やっと読める
何が書いてあるんだろう?

あなた
今年とても劇的な出会いがあります
でも残念ながら
その人とはそんなに長くは要られません
でも大丈夫です
あなたはその出会いによって
ものすごく大切なモノを手に入れます

なんだろ?
なんだかドキドキするけど
なんだろ?

7年の月日が経った
今日は息子の入学式
ピカピカのランドセル
どんどんあなたに似てきましたよ
この子をありがとう
これからも
見守って下さいね

ほな!

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