【リズム】 #1002


私は此処に
倒れている
路面が濡れている


私は横を向いている
チラリとアスファルトを見ると
自分から
何かが流れ出しているのが分かる




私はサオリ
何でもない
普通の社会人だ
旅行関係の専門学校に通ったけど
就職したのは
プラスチックの容器を製造している会社
面接では
前向きな事を言っていたけど
そんな業界には全く興味がない
社会人になるために必死なだけだった


大手では無く
小さな会社でも無く
業界でも中くらいの会社

そこのメインの事業部でもなく
プラスチックのOEMをしている部署

同僚や先輩
そして上司
みんなパッとしない
きっと私もパッとしないなんだろう




タモツとは
遠距離恋愛中だが
東京という都会で乾いた心は
肌を求め
時々他の男と寝た


それは
気持ちいいわけでも
心が満たされるわけでもない
ただ時々はそういう事がしたくなるだけ


後悔は無い
虚しさも最近は無い
だからと言って
喜びも大してない





専門学校の時の同級生と久しぶりに会った
3人でおでん屋さんに行った
女というのは
それぞれが
それぞれに
別々の事を話していて
それでいて
会話が成立していたりする


1人は恋愛の話をしているのに
もう1人は仕事の話
そして私は2人にツッコミながら
大きな口を開けて笑う係



世の中の 
殆どの人が
私を知らなくて
それでもって
何不自由なく暮らしている
私も
殆どの人を知らない

だから
私など地球からしたら
チリのひとつに過ぎない


コンパに誘われた
パッとしない会社の同僚にだ


ホントにどうでも良いようなコンパだったのに
2次会のカラオケにまで行ってしまった


1人の男に馴れ馴れしく
肩を抱かれ
周りからヒューヒュー言われた
全然良い気がしない


そんな風に思っているからなのか
お酒が進み
珍しく
かなり酔っ払ってしまった



ヤバい
今日は男とそういう気分でも無いし
酔って少し気持ち悪いので
先に抜けてきた


そしたら
案の定
肩を抱いてきた男が追ってきた


しつこかった
振り切って
走ったら
酔ってるから
足に来てたみたいで
ふらついて転けそうになった
その瞬間
私はタクシーにひかれた




私は此処に
倒れている
路面が濡れている
雫が顔に当たる

私は横を向いている
チラリとアスファルトを見ると
自分から
何かが流れ出しているのが分かる




次に目を覚ましたら
病院の中だった
何も覚えていない



私は入院中に考えた


無理して
社会に溶け込もうとして
必死に生きるのは
もうやめようって



退院して
会社をやめた
貯金はそれなりにあった
東京もやめた
タモツもやめた

マンションを解約し
一旦地元に戻った
時間を見つけては
日本中を旅した

沢山の文化に触れ
沢山の景色に触れ
沢山の物に触れ
沢山の人に触れた

日本とはなんと素晴らしい国なんだ
私は生まれてきて
初めて感じた



これからは
丁寧に生きよう
その答えが導かれたので
実家を離れ
1番気に入った高知へ引っ越した



中心部にも程近い
田舎町に家を借りた
周りは
田や畑ばかりで
隣の家まで30mくらいあった
自分の家にも小さな畑がある
まだ何もしていない
でも何かを育てるつもり


まだ
仕事はしていない


毎日
7時に起きて
朝食を作り
ゆっくりと食べ


その後は
家に居たら読書
出かけたら
気になるお店に行く
イベントがあれば
それにも行く


それから
1ヶ月に1回は日曜市にも行く
とても楽しい
野菜が売ってたり
食べ物や飲み物を売ってたり
名物のイモ天を売ってたり
骨董品や木工
なんでもあり


今は心が休まり
自分という生き物の
自分らしいリズムで生活している
もう社会を気にする事なく




ほな!

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