「勝手に神の子」



はるか大昔
マリアという娼婦が居ました
とても貧しく
そういう仕事でしか生きていくことができませんでした
この頃はまだ女性の地位が低過ぎた
今のように避妊具など一般にはありません
そのままで性行為をする訳ですから
一番怖いのは性病ですね
しかしラッキーな事にマリアは性病にはかからなかった
その代わり
誰の子供か分からない赤子を身ごもった
それを知った常連客であった
大工のヨセフは言った
「その子は俺の子供の可能性も高いから
俺ん所へ来いよ
結婚しよう」

そしてめでたく
マリアとヨセフは結婚した
慎ましくも幸せな日々の始まりだ
ただ大工と言っても
そんなにポンポンと仕事があるわけではないから
ヨセフは仕事を求めて
よく旅に出る
家族を養うのには当然のことだ
その間マリアは出来るだけ節約した生活を送っている
マリアは7人の子供に恵まれた
長男はイエスと名付けられた
この頃のごく一般的な名前だ
次男はヤコブ
ヨセフの父から名前を
三男はヨセフ
ヨセフの名前を
その他男の子と2人の女の子

ヨセフはよく働き次第にイエスも
ヨセフに付いて大工仕事を手伝うようになった
ちょうどイエスが20歳の頃
ヨセフは過労のため病に伏し
亡くなってしまった
残された家族の為
イエスは大工として身を立てた
若いイエスは大工の仕事の為の
旅の中で色々なものを見
色々な経験をし
その頃としてはかなりアッパーな若者であった
ある時イエスは若者たちの交流の場である男に出会った
その男はイエスを気に入り
ある男を紹介したいと提案してきた
イエスもまたその男を気に入り
その提案に応じた
次の日イエスと男はある男の元へと赴いた
ある男は仮の名をシモンと名乗った
シモンはかなりな老人であった
色々な道具を取り扱う商店を営んでいた
シモンはイエスと話
イエスを気に入ったようだ
シモンは言った
「今はここには無いものだが
明日ここに持ってくるから
見せたいものがある
だから
明日またここへいらっしゃい」

イエスは快諾した
同行した男は明日は仕事なので
一緒には来れないと
イエスは1人で来ることにした

次の日
イエスは1人でシモンの所へ行った
シモンは笑顔で向かい入れてくれた
「さぁ
奥の部屋へお入りなさい」
イエスは言われるがまま
奥の部屋へと入った
小さな部屋には所狭しと沢山の道具が積み上げられていた
部屋というより
殆んど倉庫といった感じであろうか
真ん中にテーブルと椅子が四脚
シモンとイエスは向かい合わせで座った

シモンは
「わしはお前が気に入った
だからお前にやりたい物がある
気に入ってくれると嬉しいのだが」

そう言って出してきたのが
指輪だった
なんの変哲も無い単なる指輪だ
凝った装飾も宝石も付いていない
イエスは不思議に思った
何処でもありそうな
この様な指輪を改めて渡すとは

「イエスよ
なんの変哲も無い指輪だと
思っただろう
しかしこれは大変な代物だ
私もこれを若い時にある人から
授かった
しかしなぁ
わしには身が重すぎた
だからな数ヶ月で身に付けるのを
やめてしまった
だがこの指輪はきっと
それに見合う人間がいつか
来るだろうと思って
仕舞ってあったんのだよ
そしてやっとお前が現れた」

イエスはまだキョトンとしている

「イエスよ
これはな
わしら人間は本当は手にしてはならない物なのだよ
これは天使アザゼルの持ち物の1つだったそうだ
これを身に付けると
神の力が宿る
しかし
派手に使うな
派手に使うと
神に見つかってしまう
ここぞという時に使うのだ
分かったな

指輪ははめるな
見つからない所に身にまとえ
分かったな」

そう言って
シモンからイエスは指輪をもらい受けた
渡した後のシモンは何か
安堵にも似たような
清々しい顔になっていた
イエスは確信した
恐らくこれは本物なのだろう

イエスは試しに
目の前で転んで怪我をした
男の子の怪我を触り
「私を信じるなら
その怪我を治してあげるよ」

男の子は素直に
この見知らぬ青年に
「うん」
とだけ言った

そしてイエスは男の子の傷口に手をやった
たちまち男の子の怪我は治ってしまった
男の子は走って立ち去り
イエスは呆然とした
なんだこれは
恐ろしい
イエスは家に帰って
誰にも分からない場所にこの指輪を
隠した
次の日からまた
イエスの旅は始まった
旅をしながら
自分を見つめ
他者を見つめ
世の中を見つめ
ユダヤ教の心理を学び

家族の為
人の為
世の中の為に
自分は何ができるのだろうか
そういう事を考えるようになった
今できる事は大工だ
でも大工という仕事を通して
人々の生活や心を垣間見る
20代のイエスは考えたり
新しい事を実践している人がいたら
そこへ赴いたりした
そして30歳を目前とした時に
洗礼者ヨハネに出会った
ヨハネは今で言う反社会的なロックンローラーである
ユダヤ教を批判し
金持ちを批判し
攻撃的な口調で怒鳴る
イエスも最初は心地良かった
でも次第にその荒々しさに嫌気がしてきた
そして思った
こんな奴にでも
こんなに沢山の人がついてくる
それならば私が導いたって
きっと人々は集まるだろう
そう感じた
そしてその頃イエスと仲の良かった
ペテロとアンデレが付いてきた
イエスは色々な村で教えを説いたが
誰も見向きもしなかった
そんな簡単なものではなかった
そうかヨハネはあのロック調のあれが人を惹き付けたのか
私は凡人だから何も無いな
そしてイエスは落ち込んだ
酒浸りの毎日を送った
しかしある事に気付いた
あっ
私いい物持ってた
そう
あの指輪だ
あれを使ってみよう
イエスは急ぎ家に
そしてマリアに告げた
「母さん
私はインディーズでは無く
メジャーになります
きっと暮らしは楽になります
だから
もう少しお待ちください」

そう言って出て行った
イエスは目が不自由な男の目を治してやった
「私の名はイエス
私を信じるなら
そなたの目に光を灯そう」

男は
「見えるんなら信じるぜ」

イエスは男の目に手をかざした
すると男の目は見えるようになり
歓喜の声をあげた
そこでイエスは言った

「これは内緒にしておいて欲しい」

男はそれに従うよう誓った
イエスは思った
しめしめ
言うなと言われた人間は
絶対に話したくなるぞ
しかし甘かった
彼は本当に口が固かった
全くもって誰もイエスの所へは来ない
仕方がないので街を村をブラブラしてまた目の不自由な人を探した
別に目の不自由な人に拘らなくてもいいのに
何故かイエスはそこに拘った
そしてイエスはまた目の不自由な人を見つけた

「もしもし
あなた
もしあなたが
私イエスを信じてくれるのであれば
その目を治してあげるよ」

男は言った
「見えるんなら信じるぜ」

イエスはまた目の手をかざした
男は目が見えるようになった
歓喜の声をあげた
そしてイエスは言った

「これは決して人には話してはならぬ」

男は誓った
この男は大成功であった
もう喋る喋る
次の日から
わんさかとイエスの元に怪我や病気の人々が集まってきた
ヤッホーイ
イエスは言う
「神の子であるイエスを信じるのであれば
汝の災いも立ち去るだろう
立ち去った後は
横にいるペテロの持った
献金箱にお金をインして下さい
では誰から始めましょうか
あとそれから
この事はくれぐれも内密に
誰にも話してはなりませんよ」

もうイエスは浮き足立っている
ああ私は注目されている
私は人気者だ
気持ちが良いぞ
民が私に平伏しているぞ
最高じゃないか

この快感に取り憑かれた
イエスはバンバン奇跡を起こしていく
そしてイエスの誰かの受け売りの
MCで咽び泣く人々
イエスは瞬く間に人気急上昇に
そのうちワールドツアーにも出られるのでは
イエスの周りにはいつも人だかり
だからイエスはユダというマネージャーを入れ他にもスケジュール管理の者やセキュリティ担当の者
イベントプロデュースする者
その他諸々のスタッフ12人を引き連れ各地でライブを行った
ライブの二次会ではワインで盛り上がった
泥酔したイエスはグルービーを連れ部屋へ消える事もしばしば
そして奇跡セックスをしてグルービーの絶叫が聞こえるのも度々
然し乍ら
イエスにも陰りが
奇跡をし過ぎたせいで
皆さんとても健康になられ
集客力も無くなってきた
このままだと借金が増え
倒産どころか破産してしまう
えらい事になる
そこで
自分だけでも助かろう
立ち上がった者がいた
それがユダだった
ユダは弁護士を通じて財務省や通産省などの要人と会い
イエスのこれまでの行いや
傍若無人振りを訴えた
今や国家の景気にまで影響するアーティストであるイエスをこのままにしておくわけにはいかない
政府は動く事に
しかも同じような思いがある存在が
それは神である
神は自分の名前を持ち出し
神の道具を勝手に使い
世の中を無茶苦茶にしたイエスに怒りを感じた
奴は裁かれねばならない
そして
とうとうその日が
彼は十字架を持たされ鞭を打たれ人々の前に見世物にされた
国家はこのイベントでかなりの収益を上げている
特設スタンドのチケットは物凄く高音が付いたが
即完売
特設ステージ前列のエリアは家を一軒建てれる程の高値が付いた
街道の立ち見席もそこそこの値段ではけた
神は十字架の重さを更に重くし
後ろから鞭打つ鞭を甲鉄のように硬くした
イエスだけには歩く時間の体感を1年に及ぶ感覚にした

イエスは神の道具を
自分の私利私欲に使い
世の中を混乱させた
その報いを今
受けている
苦しむイエス
後悔するイエス

嗚呼イエス

このお話は
イエス・キリストやキリスト教とは
一切関係ございません
関係を感じてしまうと言う方は
恐らくイエス・キリストはこういう人だったんだなと思っているのでしょう
本物のイエス・キリストはもっと人間的でもっと偉大でもっと素晴らしい人だと作者は個人的に思っております

ほな!

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