【世界】 #a

待って
待って下さい

はい？
あなたは誰ですか

私はあなたの影ですよ
あなたもうちょっとで
私を置いていくところでしたよ

そんなバカな
影って絶対に僕から
離れるわけ無いじゃないか

それがね
ここではそうでも無いのですよ
うっかりすると
あなたと私は離れ離れになってしまう

まさか

そのまさかなのですよ

でもどうして

ここはね
自分の気持ちとリンクしやすい
場所なんです
だから周りの人
大切な人に対して
当たり前になり
あぐらをかいてしまったりしたら
知らず知らずの内に
人離れするでしょ

はぁ

それと一緒なのですよ
最近のあなたは
ちょっとそういう所が
出てきたの
誰だってあります
でもここではダメ
ちゃんと周りの人や
大切な人の事を考え
心を改めキレイにしないと
私たちは離れ離れに

そんな事
言われてもなぁ…
自分は自分だから
分かんないよ
どうしたら良いんだよ

それをよくよく考えてみて
感じてみて

でも
離れ離れになったら
どうなるんだい？

そうねぇ
もう二度と
この世界から出られなくなるわね

ええー
でも
この世界って
だいたい何なのだよ

この世界はあなたの脳みその
一番真ん中にある街だよ

真ん中に街なんてあるのかい？

そう実はあるの
今あなたはそこに居るの

じゃあ
自分の中に自分が居るって事は
自分が見てるここも自分なのかい？

そうなの
でもさっき言ったみたいに
影を落としちゃうと
もう二度とここからは出れないのよ
まだチャンスはあるわ
だってまだ私たちはくっ付いているから
離れたらお終いよ

分かったよ
考えてみるよ
感じてみるよ

この世界の外側にある
実体である僕は
どうやら昏睡状態らしい
生命維持装置でなんとか
生きている

目の前には
両親と妻が

どうしてこんな事に

思い出したぞ
会社が倒産して
借金を抱え
それまでの友人が離れて行き
愛人には手切れ金を請求され
愛人の事
倒産の事で
妻と離婚かどうかで泥沼
自暴自棄になった僕は
そうだ
また思い出したぞ
僕は車ごと川へ転落したんだ

外の世界の自分はどうやら
現状を理解したようだ
だが
体が動かない
目が開かないし
声も出せない

中の世界の僕は
まだ何か分かっていない
どうして人が離れて行くと言うのだ

影は心配そうに僕の横に座る

ゆっくりでいいから
思い出してごらんよ
外の世界で何があったの

僕は一つずつ思い出してきた
倒産の事
借金の事
愛人の事
妻の事

なんか分かった？

何と無く
分かってきたような気がする

なに教えて

ああ
僕ベンチャーで立ち上げた会社が
上手く行き過ぎたんだよ
会社の部下や取引先
それに友人や家族の支えがなければ
ああなって無かったのに
全部自分の手柄だと思っていた
偉そうになっていたんだ
天狗になっていたんだ
だから皆んなが離れて行ったんだ
そうなると僕だけでは会社も回らず
あっという間に倒産
調子乗って作った愛人も僕のステータスと付き合っていただけ
一番大切な妻をお座なりにしてしまっていた

思い出したね

そうか忘れていたよ大切な事に
愛なんだ
愛だよ
感謝なんだよ
こんな簡単な事
何処に忘れて来てしまったんだ

それは多分
急にお金を沢山得て
名声名誉も手にしたからなんじゃないかい
でも思い出せたのならきっと
この世界から出れると思うよ

その瞬間だ
ふぁっと心と体が楽になった

心電図の波が真っ直ぐになった

ほな！