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政治家レイシズムデータベース2022年4月

 反レイシズム情報センター(ARIC)です。
 ARICでは、政治家はじめ公人によるヘイトスピーチやレイシズムの記録を行い、データベース化しています。

 このnoteでの「政治家レイシズムデータベース」では、毎月追加したデータの中から、特に深刻なケースをこのnote記事上でピックアップしていきます。

 今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。

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 今回収集したデータのなかでは、前回のnote記事で取り上げたのと同様、ウクライナからの「避難民」受け入れに関連づけ、その他の地域からの難民を排斥する主張が目立った。現在の日本によるウクライナ「避難民」受け入れがレイシズムと一体になっていることの問題は同記事で取り上げているので、未読の方はそちらを参照いただきたい。

政治家レイシズムデータベース2022年3月(note)

 さて、4月に新しく浮上した事件としては、ウクライナ政府に対する極右政治家らのはたらきかけによる歴史修正の問題が挙げられる。ウクライナ政府がTwitter上にて、「Fascism and Nazism were defeated in 1945」という文字と共に昭和天皇をムッソリーニ、ヒトラーと並べた動画を投稿していたことについて、極右政治家らが抗議を行なっていた。特に、自民党の佐藤正久氏は24日、外務省に対応を取るよう申し入れている旨をTwitter上に投稿(1)し、同日動画が削除されたことを報告した(2)。

 第二次世界大戦時に枢軸国としてイタリア・ファシズムとドイツ・ナチズムと協力していた日本における最高責任者であった昭和天皇が並べられることは不自然なことではない。にもかかわらずウクライナ政府が日本に対して配慮し、動画を削除したことは、日本の第二次大戦時の問題を矮小化する歴史否定が海外において影響力をもたらしてしまったかつてない深刻なケースであるといえる。

 ここで重要な点は、今回の事件に関して、日本を「ファシズム」にあてはまるかどうかという議論から出発するのではなく、それが他の歴史否定に与える影響を考えなければならないということである。今回の事件は、政治家による日本の歴史に関する海外へのはたらきかけが「成功体験」となってしまったことを意味しており、それが更なる歴史否定の海外発信を促進する危険性を高めているのだ。

 例えば、これまでにも差別発言がたびたび問題となってきた自民党の杉田水脈氏(3)は、自身のブログで下記のように主張している。

欧米の方々は正しい日本の歴史なぞ、知りません。
欧米では、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)と「南京大虐殺」や「慰安婦の強制連行・性奴隷」は同列で扱われ、「それは事実と異なる」と発言すると「リビジョニスト=歴史修正主義者」「ネガシオニスト=否定主義者」と見做され、激しいバッシングになります。(ヨーロッパではホロコーストを否定すると犯罪者として逮捕されることもあります)私もフランスやオーストラリアで「日本のrevisionist」と言われ、講演を妨害するされました。
このことは、これまで日本の正しい歴史を広報して来なかった、間違ったことを言われても反論せず放置して来た日本政府と、国連等を舞台に事実に基づかない「日本悪玉説」を国際宣伝してきた【日本人】が大勢のいたことに起因します。
まずは日本の教育を見直し、一人でも多くの日本人が正しい歴史を知ること、そして一人ひとりが誤った歴史を語る外国人に反論できるようになること、これが大切です。これからも私はここを訊すため頑張ります。

杉田水脈オフィシャルブログ、2022/4/28
「ウクライナ政府がTwitterに不適切な動画を投稿したことについての議論」

 杉田氏は、「慰安婦」問題や南京大虐殺に関する国際的な認識について、「欧米の方々」が「正しい日本の歴史」を知らないということに還元し、その上で「慰安婦」問題や南京大虐殺の問題性の否定を組み込んでいるようだ。しかし実際には、国際的な認識が日本の歴史の無理解によるなどと捉えること自体傲慢にほかならず、例えば昨年問題となったハーバード大教授・マーク・ラムザイヤー氏の「慰安婦」論文について海外の研究者が示した反応では、むしろ「慰安婦」問題を「強制であったかどうか」といった話に矮小化せずに、性差別の問題としており、日本の歴史否定論者よりもはるかに問題の核心を捉えている(4)。

 杉田氏が海外での「歴史戦」を強調してきたことは今に始まったことではないが、ウクライナ政府のTwitter投稿をめぐる一件が好機として捉えられていることは間違いなく、そうした連鎖をいかに食い止めるのかが今後焦点となるのではないか。

終わりに

 これまでの政治家レイシズムデータベースのブログでは、歴史否定を差別の促進という観点から捉えなければならないことを強調してきた。それを前提としつつ、今回のウクライナ政府のTwitter投稿の件は、歴史をめぐる極右政治家による海外(特に欧米)への働きかけとその「成果」が国内の歴史否定・差別をいかに促すのかという点に着目して考えなければならない。
 欧米への「歴史戦」関連では、近年ドイツにおける「少女像」が日本政府・極右議員からの猛烈に反発を受けているが、同様の観点から今後も注視する必要があるだろう。

(1)https://twitter.com/SatoMasahisa/status/1518196217255428097
(2)https://twitter.com/SatoMasahisa/status/1518217863127273472
(3)杉田水脈氏のこれまでの発言については、政治家レイシズムデータベースの記録を参照いただきたい。
リンク:https://antiracism-info.com/database/dbc_name/sugitamio
(4)「インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・アンド・エコノミクス掲載「太平洋戦争における性契約」について憂慮する経済学者による連名書状」(日本語訳)
リンク:http://chwe.net/irle/letter/japanese.shtml

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*新聞・雑誌記事、動画、書籍等でレイシズムの疑いがある公人による発言を見かけた場合は、ARICのHPから通報フォームにてご連絡ください。Twitterで「#政治家レイシズム」のハッシュタグをつけてリツイートしてくださっても結構です。

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