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「“今”のAKB48」について

 2021年も残すところあと1日ばかりとなり、街や職場からは年末特有の慌ただしさのようなものを感じます。コロナの感染状況もだいぶ落ち着き、今回の年末年始は2年ぶりに例年通りの年末年始を送れそうな気がしています。

 2021年のAKB48、もう少し言うと2020年年末からのAKB48はコロナの所謂第3波の影響を受けたところから始まりました。メンバーの感染により15周年記念公演が延期となり、代わりに行われた15周年記念配信にて1月にTDCホールでの開催が発表されたAKB48 15th Anniversary 15時間LIVEも緊急事態宣言の発令を受けて中止となりました。AKB48グループにとって年の初めの恒例行事となっていた、リクエストアワーをはじめとするTDCホールでのコンサートがやれなくなったことは、2020年末の紅白歌合戦落選からの流れも相まって2021年のAKB48の2020年に続く足踏みを予感させる出来事でした。そうこうしている間に最新のシングルである「失恋ありがとう」の発売から一年が経過し、以前であれば桜や卒業をテーマにしたシングルが発売され、コンサートが開催される春が近づくにつれて不安やもどかしさは日を追うごとに強くなっていきました。

 そんな2021年春のAKB48で存在感を出していたのがチーム8福島県代表でありグループ最年少の長谷川百々花でした。福島県が被災地の一つである東日本大震災から10年という節目の年ということもあり、3月11日に行われた劇場配信や震災から10年にちなんだ歌番組に出演し、彼女の整ったルックスも相まって一躍2021年のAKB48の主役に躍り出る程の勢いでした…が、そんな勢いも束の間、彼女は活動辞退となり、2021年のAKB48は新年度を前に再び足踏みを強いられるような形となってしまいました。

 このような衝撃的な出来事が起こった新年度目前に発表されたのがコロナで1年以上延期になっていたチーム8全国ツアーのラスト3公演と峯岸みなみ卒業コンサートでした。ついでに本来の予定には無かったAKB48単独コンサートも発表されました。2020年の春からずっと続けていた足踏みからようやく踏み出せるような、そんな気持ちで新年度が始まりました。

 春以降コロナの感染者数は所謂第4波に入り、再びの延期も危ぶまれましたが無事ぴあアリーナMMにて峯岸みなみ卒業コンサートが開かれました。峯岸みなみは最後の1期生ということもあり、このコンサートに所謂全盛期のメンバーが揃い踏みするのはある程度予想ができていた人が多いと思います。私もそれを予想して会場に向かいましたが、その中で一つ引っかかるものがありました。それが峯岸チーム4についてです。かつて私の推しメンが卒業生である髙島祐利奈だったこともあり、私のアケカス人生において、13期、そして峯岸チーム4は大きな存在の一つだったのです。

 所謂“研究生武道館”が行われ、“LOVE修行”がリリースされた2013年の研究生というシーンはAKB48の歴史において大きな意味を持つものの一つであると考えています。しかしながらこれは当時の推しメンがそのシーンの当事者であったからそう見えるだけであって、峯岸みなみ本人からすればそれよりももっと大切なものは同期であり同じユニット“ノースリーブス”のメンバーである高橋みなみや小嶋陽菜の存在に比べてしまっては到底勝ち目の無いものであり、今回の卒業コンサートにおいても、あくまで触れられるのは後者との繋がりなんだろうなと思っていました。そしていざ開演した峯岸みなみ卒業コンサートにて、彼女の初ソロ曲である“私は私”を1コーラス歌った後に流れたのは峯岸チーム4初のオリジナル曲である“清純フィロソフィー”でした。清純フィロソフィーでは歌い出しから当時の峯岸チーム4のエース格であった小嶋真子や西野未姫が登場し、続けての歌パートでは会場のビジョンに峯岸チーム4の卒業メンバーが映し出され、その中には髙島祐利奈の姿もありました。もう二度と見ることは無いだろうと思っていた峯岸チーム4が揃った(北澤早紀は舞台出演により欠席でしたが)姿を見た時には本当に感動しましたし、AKB48のオタクを長年こと続けることの意義というものを久しぶりに感じさせられました。

 その後のコンサートは峯岸みなみ本人が様々な想いを込めてメンバーや曲を選んだ曲が続き、誰もが想像していたノースリーブスの2人の登場、そして秋元才加、宮澤佐江、北原里英、指原莉乃、河西智美、篠田麻里子、板野友美、大島優子と歴代の卒業メンバーの登場が続きました。所謂全盛期のAKB48を幼い頃のテレビで見てAKB48に入ってきた現役メンバーに対し、OGと同じステージに立たせるという経験を自身の卒業コンサートを通してに提供するという、最後の1期生としての最後の大仕事を彼女は成し遂げたのだなと思った、そんな卒業コンサートでした。

 翌日の昼に同じ会場で行われたコンサートは、こちらも1年以上延期となっていたAKB48チーム8 全国ツアー ~47の素敵な街へ~のツアーファイナル神奈川県公演でした。チーム8の全国ツアーは2014年の12月に始まり、6年半の月日を経て完走を果たしました。チーム8はAKB48の歴史においてかなり特殊な存在だと思います。2014年のリクエストアワーにてトヨタ自動車のサポートにてチームの結成が発表され、4月のMEGAWEBでのお披露目以降はAKB48本体とは離れて活動し、AKB48の選抜が出演することは到底無いような地方のイベントに出演し、所謂ドサ周り的な活動をメインとしチームの活動を始めました。チーム8が結成された頃のAKB48は、国立競技場でのコンサートや36枚目シングルのラブラドール・レトリバーの発売、味の素スタジアムでの総選挙と大島優子卒業コンサートの開催など、グループの最高到達点とも言えるような活動を行っている最中でした。そのような時代において、チーム8にはあまり興味の無い地元の住民が見に来るお祭りや、アクセスの悪いサーキットで行われるTOYOTA GAZOO Racingのイベントに出演し、AKB48本体が味わうことのないアウェー感を全国各地に足を運ぶチーム8のファン所謂エイターと共に味わい、様々な経験を積んできました。チーム8が全国ツアーにて47都道府県をおおよそ全国ツアーを回り切るのに費やす長さとは思えない6年半かけて回っている間に、AKB48を取り巻く環境も大きく変わりました。グループとしてのコンサートへの動員のピークが過ぎ、今までほど大きな会場でコンサートができず、かといってグループのブランドや採算の都合から小規模なホールクラスでのコンサートもできずといったどっちつかずな状況が続きました。そのような時代に全国各地のコンサートホールでコンサートを続けていたのがチーム8の全国ツアーでした。チーム8の全国ツアーは“AKB48のコンサート”の火を灯し続ける存在であったと思います。そんなチーム8全国ツアーのファイナルがAKB48の最後の一期生の卒業コンサートと一晩を跨いで連続して開催されたということは全国ツアーを回った6年半の間にチーム8の存在がAKB48にとってそれだけ大きなものになったということを意味している証明となっていた出来事であったと思っています。

 全国ツアー神奈川公演の内容はいい意味で全国ツアー神奈川公演以上の意味を含まないものでした。今年の3月をもってトヨタのサポートが切れ、全国ツアー完走と共に解散してしまうのでは無いかという心配も抱いていましたが、そのような心配を感じさせず、神奈川県代表の小田えりならしい爽やかなコンサートでした。そして、このコンサートで発表になったのが本田仁美の復帰です。復帰するならここだろうとは思っていましたが、いざソロで涙の表面張力をやる彼女の姿を見ると大きくなって帰ってきたなと感じ、だからこそここでそのまま卒業を発表してもおかしくないと思いました。なので最後に卒業発表のドッキリを仕掛けたところでは本当に卒業すると思いましたし、逆に卒業しないでチーム8、そしてAKB48は彼女の存在を適切に扱えるのだろうかと多少の不安も感じながら会場を出たのを覚えています。

 その日の夜はAKB48単独コンサートでした。パンデミック直前のTDCホールで行われた“AKB48単独コンサート~15年目の挑戦者~”以来約1年半ぶりのコンサートに対し、私は期待と共に不安を感じていました。ここまでの2公演は卒業コンサートや全国ツアーファイナルなどグループにとって節目となるイベントとしての要素を含んでおり、特に前日の峯岸みなみ卒業コンサートでは今のAKB48が切ることができるカードを全て切ってしまったようなコンサートであったため、今のAKB48にこれ以上の出来ることが本当にあるのか?という不安を抱きながら会場へ入り着席しました。

 お馴染みかつ久しぶりのovertureが流れ、そこから目の前で起こったのはMC無しの48曲連続ノンストップのコンサートでした。AKB48のコンサートの歴史はコンサートと言いつつMCや企画などで“話題”に逃げ純粋なステージの上でのパフォーマンスの勝負から避けようとしてきた歴史でもあります。そのような歴史の上で1年以上AKB48のコンサートから遠ざかっていた身体に次々とぶつかってくるAKB48の楽曲たちは、パンデミックにより動きが止まっていた身体と心を再び動かすにはあまりに十分で、終演後にはパンデミック以前通りどころかパンデミック以前以上のAKB48に対するエネルギーが呼び起こされた気がしました。

 このコンサートの最後にサプライズ発表されたのがテレ東での新番組の開始と“チャンスの順番”以来10年以上ぶりのAKB48単独シングルの発売でした。AKB48のシングルは10枚目の“大声ダイヤモンド”以降、上記のチャンスの順番を除き選抜メンバーに姉妹グループのメンバーが加わっていました。姉妹グループの数が増えるに従いAKB48のシングルの選抜メンバーとして参加する姉妹グループのメンバーの数も増えいつしか“AKB48のシングル”は実質的に“AKB48グループ”のシングルとなりAKB48のシングルでありながらAKB48のメンバーはほぼ選抜に入れないという状況となっていきました。AKB48のシングルを実質的なAKB48グループのシングルとすることで顔ぶれが豪華になり、また48グループの全メンバーが握手会に参加することでシングルの売上を見かけ上のトップとし、48グループの大将という矜持を保とうとしてきました。しかしながら、それによって秋葉原を拠点として活動するグループとしてのAKB48としての箱としての強度は弱まり続け、気付けばグループとしての自信や存在感は48グループの中で最も弱くなってすらいました。“AKB48単独シングル”は秋葉原を拠点として活動する一つのグループとしてこの流れを断ち切るために最も重要で最も実現が難しいとされる切り札でした。MC無しのセットリストからの単独シングルの発表は、AKB48が“逃げる”ことをやめたことの象徴的な出来事のように感じさせられ、AKB48にとっていよいよ新時代が到来することを予感させました。

 ぴあアリーナMMでの単独コンサートの特筆すべき点は柏木由紀が演出を手掛けたことです。コンサートの翌日には彼女のYouTubeチャンネルでコンサートのセットリストや演出の生解説が配信されました。前年のTDCホールでの単独コンサートで休憩時間が多かったことに寂しさを感じたのでメンバーみんなができるだけ多くステージに立てるようにしたなどといったこだわりが語られ、これ対し、コンサート等の経験が少ない若手メンバーがとても嬉しそうにコンサートの感想を語っていたのが印象的でした。配信の中では #今こそAKB なるハッシュタグも考案され、そのハッシュタグをメンバーがSNSで投稿することにより前日のコンサートの勢いそのままに過去数年見たことがないようなグループとしての一体感が生まれたように感じました。

 ぴあアリーナMMでのコンサートの翌月にはTDCホールで“AKB48 THE AUDISHOW”が開催されました。演劇として会場のキャパシティの100%入れつつライブパートが存在するという構成はグレーゾーンを感じさせましたが、演劇内においてバッドボーイズのMCで行われた“番長オーディション”は在りし日のAKBINGO!を彷彿とさせるメンバー個人を注目させる内容のものでした。ぴあアリーナMMでの48曲MC無しノンストップライブはグループの情熱を感じさせられた一方で当然ながら話すのが得意なメンバーは活躍の場を奪われた形となってしまっていたため、上手くバランスが取れたイベントだったのではないかと思います。

 7月からは“乃木坂に、越されました~AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!~”の放送が始まりました。初回撮影を終え企画を知らされたメンバーのコメントが話題になったものの、結果的にその企画はお蔵入りとなり初回放送は謎のダイジェスト映像となり、2回目放送からはMCが西村博之(ひろゆき)となり、いささか迷走感のある番組のスタートとなりました。コロナの感染再拡大によりロケ企画の実施が困難になったこともあり、番組は志半ばで休止となってしまいましたが、この番組は今のAKB48の頑張るべき所が見えたので良かったのではないかと思っています。ひろゆきはそのキャラクターからもメンバーのコメントに対し否定的な意見をぶつけ、メンバーはそれに対し自分の言葉で上手く返せたり返せなかったりします。ひろゆきの否定的な意見は芯を食っているものもあればただの揚げ足取りなものもありますが、これは今の世間の人々から投げかけられるものと重なる部分もあると思います。世間の人々から投げかけられる様々な意見に対し、自分の考えを持ち、それを時にはスルーし、時には自分の言葉で反論するという姿勢は、これからの時代にメディアに出る人間にとって大事な能力の一つであり、この番組がそれを醸成できる環境であったことはメンバーにとっても小さくない経験であったと言えるでしょう。AKB48に限らず女性アイドルグループはそれを指揮するプロデューサーが居り、メンバーは“大人”に言われたことをやる存在というのがこれまでの風潮でした。しかしながら時代の流れるスピードは次第に早くなり、時代の流れに適応するためには周りの人間に言われたことをやるだけでなく、ステージやファンとの触れ合いを通して自分の肌で時代の流れを感じ、それに適応していく必要があります。その力を養う訓練として“論破”してくるひろゆきに対し自分の考えをぶつけ返す機会があるこの番組は、出演したメンバーに対してこれからの時代にメディアに出演する者として大切なものを学べた番組となったと感じています。

 5月のコンサートで発売が発表されたAKB48単独シングルは7月17日に初披露されました。「音楽の日」で初披露された“根も葉もRumor”は10年以上ぶりの単独シングルとして相応しい内容の物でした。所謂“AKBらしい曲”は大声ダイヤモンドや言い訳Maybeといったようなアップテンポでライブで盛り上がれる楽曲という印象が強いですが、初めてオリコン1位を獲得したRIVERや初めてミリオンを達成したBeginner等グループの大きな節目になる楽曲は上記の“AKBっぽい曲”とは方向性が異なり当時のダンスの最高難度を更新してきた歴史でもあります。根も葉もRumorも顔最高難度の振り付けですが、過去のダンス曲には無いものがありました。それが暑苦しさの中に感じる“爽やかさ”です。上記の“乃木坂に、越されました~AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!~”において現AKB48グループ総監督である向井地美音はAKB48は“青春を体現するもの”と語っていましたが、それを詰め込んだものが新曲として出てきたのです。最高難度の振り付けを達成するために選抜メンバーは今までに無いくらいの厳しいレッスンを繰り返し、一つのものを作り上げました。そしてその最高難度の振り付けを担当したのが三重高校ダンス部顧問の神田橋純先生です。レッスンにおいては三重高校ダンス部OGの方のサポートを受け、MVには三重高校ダンス部のメンバーが出演します。リアルタイムで青春を送っているダンス部のメンバーとAKB48が共演することにより“青春を体現”するAKB48が視覚的にも青春そのものとなり、今のAKB48のコンセプトを確固たるものとしたのです。

 根も葉もRumorの選抜メンバーには5月のチーム8全国ツアーファイナルでAKB48に復帰した本田仁美も居ました。彼女は2年半のIZ*ONEでの活動を通し、AKB48で活動しているだけでは得ないような幅広いファン層を獲得していました。基本的にK-POPのアイドルはパフォーマンスのクオリティが高いということもあり、IZ*ONEの活動中に新たに彼女が獲得したファンの中には今更AKB48に戻って活動するのはもったいないという物の言い方をする人も居ました。この言われ様は当然いい気分がしない一方で一理ある意見だと常々思っていました。少なくともAKB48の一つの楽曲を作り上げるクオリティは、メンバーというよりも楽曲を作っている周りの人間の仕事の進め方の面でK-POPのアイドルのそれと比べるとお粗末な部分も多いというのが現状でした。そんな彼女を迎え入れる手段としてAKB48が取ったのが、“AKB48を彼女が戻ってくるのに相応しい場所にする”ということです。根も葉もRumorを通して一曲の新曲と真剣に向き合い、作り上げたAKB48は韓国帰りの本田仁美が戻ってくるのがおかしくない、胸を張れるグループになれたのです。根も葉もRumorのプロモーションにおいて所謂“バズった”動画がDance Practice動画です。この動画がアップロードされたのは本田仁美の提言がきっかけだったといいます。また、根も葉もRumorのレッスンでは彼女が様々な意見を出していったという話をしているメンバーも居ました。当初復帰後のビジョンが見えなかった本田仁美の復帰ですがその不安は杞憂に終わり、根も葉もRumorを通してAKB48に受け入れられ、それだけでなくAKB48を正しい姿へ引っ張っていく、グループにとって無くてはならない存在となったのです。

 新曲「根も葉もRumor」を引っさげて行った最初のコンサートが日比谷野外大音楽堂で9月12日に行われた「MX夏まつり AKB48 2021年 最後のサマーパーティー!」です。このコンサートの出演メンバーについて一つのサプライズがありました。それが小林蘭の出演です。彼女は上記のテレ東の番組においても存在感を発揮し、得意のダンスを活かしてSNSに根も葉もRumorの振り付けを投稿するなど自分発の活動を積極的に行ってきました。そんな彼女の抜選は、2代目総監督の横山由依が研究生時代に自主的に当時の新公演であるA6thを覚え、当時多忙を極めていた正規メンバーである篠田麻里子のサポートを行い、それらの功績が認められて葛西臨海公園で行われた“東京秋祭り”で昇格が発表された一連の流れと重なって見えました。

 日比谷野外大音楽堂でのコンサートでは、メンバーの学年ごとのユニットブロックがあり、それの一曲目が村山彩希、久保怜音、千葉恵里、西川怜の僕の太陽でした。久保、千葉、西川の3人は研究生時代の2016-17年にかけて僕の太陽公演に出演しており、当時若手として劇場で僕の太陽公演をしていたメンバーが主力を担う時代になったというをことを実感し、感慨深くなりました。このコンサートのもう一つの印象的なシーンが本編ラストの大声ダイヤモンド歌唱前の小栗有以のMCです。前回AKB48が日比谷野外大音楽堂でコンサートを行ったのは2008年8月、桜の花びらたち2008にて当時所属していたレコード会社との契約が切れ新たなシングルが発売できない時期の出来事で、そこで発売を発表したシングルが大声ダイヤモンドでした。状況は違えど、彼女の顔つきは1年半ぶりのシングルを発売し、新しい時代に突入していくんだという覚悟を感じさせるものでした。そして最後に発表されたのか2代目総監督である横山由依の卒業です。AKB48が今第何章なのかはわかりませんが、所謂全盛期に突入した後に正規メンバーに昇格し、そこから主要メンバーの一人に登り詰めた彼女の卒業は、あの当時の出来事の全てが一段落ついたということを実感しました。3代目の向井地美音はコンサート最後のMCで「今日のメンバーを見たときにいつの間にか顔ぶれが変わっていて、ずっと言われていた世代交代は進んでいたんだなと思った。そんな今のAKBをお届けできるのはずっとAKBを守ってきてくれた横山さんが居たから」と話し、上記の僕の太陽や大声ダイヤモンドと相まって、今まで10年以上AKB48を見てきた中で一番時計の針が確実に動いていることを実感した瞬間だったのではないかと思います。

 11月には「横山由依卒業コンサート~深夜バスに乗って~」がパシフィコ横浜で開催されました。彼女がかつて研究生候補生時代に京都から深夜バスでレッスンに通っていたことにちなんでいます。ゲストとして大島優子、北原里英、指原莉乃が登場しNot yetのメンバーが揃った場面では、総監督就任以降グループのリーダーとしての立場を果たしていた彼女が久し振りに後輩の顔つきに戻っているの見て、どこか懐かしい気持ちになりました。映像で登場した初代総監督である高橋みなみ、前総監督である横山由依、そして現総監督の向井地美音の3人が揃い歌い出しの掛け声を行ったRIVERはAKB48というグループが過去、現在、未来の時代を繋ぐものであるということの象徴のようにも見えました。横山由依は最後のスピーチにて「今のAKBで卒業できることが嬉しい」と語っていました。何をやっていも所謂全盛期から勢いは弱まり、何をしてもい上手く行かずそれが空回りして更に上手く行かなくなるという、グループにとって最も苦しい時期に総監督という風当たりの強位立場を務めた彼女が、こう口に出して言えるようになった今の姿で彼女を送り出せたということを、とても嬉しく、また感慨深くなったのでした。

 2021年12月8日、AKB48は16歳の誕生日を迎えました。昨年はコロナの影響から15周年記念公演が延期になり、そのまま実施できずに16周年公演が開催されました。そういうとこだぞ、AKB48。まあええわ。16周年記念公演では最新シングルの寝も葉もRumorやそのカップリング曲、チームごとの楽曲などが披露されその後に4年ぶりの組閣が発表されました。前回の組閣の時に正規メンバーへ昇格した16期生である田口愛佳と浅井七海がキャプテンに就任するなど、世代交代を感じさせる内容となりました。また、チームAとしてだけでなく今やAKB48の顔の1人となっている小栗有以のチームB所属や可愛い久保怜音のチームK移籍など、大きな動きを見せた動きもあり、来年以降のAKB48がまた新しい動きを見せようとしている予感を感じさせるものも見られました。16周年記念公演では、新たに17期研究生のオーディションも発表されました。昨年頭から始まったパンデミック以降、足踏みを続けることを余儀なくされたAKB48は、今年1年かけ、次の時代に向け歩みを始めることができたのです。

 この一年は、「AKB48らしさ」や「AKB48のあるべき姿」について考えさせられた一年でした。従来のAKB48は「チームB推し」の歌詞にもいある通り、「何でもアリ」をグループの特徴の一つとし、選抜総選挙やじゃんけん大会など新しい方法で選抜メンバーを選び、それが話題になることで知名度を上げ、ファンを獲得してきたグループです。そのような背景を持つグループにおいては個人の存在感を増していくことが大切であり、そこの活躍によってグループの看板的イベントである選抜総選挙の順位を上げていったメンバーも少なくありませんでした。個人の工夫によって存在感を出すことは大切なことではありますが、AKB48に関わる人間全員がそこを重視した結果、様々なところに綻びが生じ、全てが上手くいかない、そもそもグループの活動をうまく行かせようと思っている人が居るのかもよくわからないという状況へ陥っていき、所謂全盛期は過ぎ去っていったのです。そんな中パンデミックにより握手会の実施が困難になり、それに伴い一歌手として最も大切なシングルのリリースもできなくなりました。一年半というグループ史上最長の間隔を経て発売されたシングルは、選抜メンバーだけでなく選抜に漏れたメンバーもそれぞれがそれぞれの立ち位置で史上最高難易度のダンスと向き合い、歌番組やコンサート、劇場公演などのあらゆるシーンで一曲が終わった時にやり遂げた顔を見せてくれました。また、根も葉もRumorのセンターを務める岡田奈々は、AKB48のあるべき姿はどれだけいい曲を届けるかであると月刊エンタメのインタビューで語りました。本来歌手としてそれが当たり前と言ってしまえばそれまでなのですが、その当たり前を所属メンバー全員がやっているAKB48というのは、10年以上ファンを続けていて初めて見た光景でした。AKB48が今このようなAKB48となれた理由は、向井地美音も話すように苦しい時代であったAKB48を当時の総監督である横山由依が守り続けてくれたからであり、その横山由依が提言し続け行うことができた2019年の「楽しいばかりがAKB」全国ツアーであり、コロナ禍でのOUC48の活動であり、ぴあアリーナMMでの単独コンサートであると思います。それらを通し皆で力を合わせて一つのものを作り上げていく、AKB48を盛り上げていくという意識が強まり、10年9ヶ月ぶりの単独シングルとして花開きました。

 ほぼ1年前の新年のCDTVが終了後、柏木由紀は上記のツイートを投稿しました。ここから始まった1年を通し、「AKB48らしい」とは何なのか?を身をもって具現化してくれたのが2021年のAKB48です。「何でもアリのAKB」をAKBらしさとし、話題になる過激なことをし続けるのを命題としていたAKB48は、苦労の時代を経て、あるべき理想の姿に向かって皆で頑張るグループとなり、これがAKB48らしさであると胸を張って言えるようになりました。根も葉もRumorは日本レコード大賞優秀作品賞に選ばれ、先ほど生放送にて2021年の、そしてこれまでのグループが歩んできた歴史の集大成とも言えるようなパフォーマンスを披露しました。残念ながら目標としていた紅白歌合戦の出場は叶いませんでしたが、根も葉もRumorに携わった全てのAKB48のメンバーが手応えを感じ、この感覚をファンと共有し共に盛り上がっていけるグループになれた一年であると思っています。この空気感を纏った状態で始まる新年、新体制、そしてそこに新たに入ってくる17期生に対して期待を込め、この期待感こそが、私なりの2021年の年末における“今のAKB48”像であるとさせていただき、この無駄に長い雑文の締めとさせていただきたいと思います。

2021年12月30日

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