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レーシングカーのダンパーをセッティングする方法

はじめに

こんにちは、岡本です。久しぶりのnote投稿になりました。

最近リアルレースで色々なメーカーさんのサスペンションを試す機会が多くなり、自分の中でもっとダンパーについて知っておきたいなと思うことが増えてきました。

これまではマシンのセッティングに関しても、自分のフィーリングに基づいてセットアップすることばかりでしたが、もっと運転手として向上するためにはエンジニアリング的な視点からもマシンをセットアップする必要性を感じていて、まずは、最も理解できていなかったダンパーについて色々勉強してみました。(とはいっても全部ネット情報ですが…😅)

このnoteはダンパーの理想的なセッティング方法について書いてあります。

ここに書かれていることは、海外のエンジニアリング記事などを参考にして自分が勉強になったことや実際に検証してみて得られた結果などを備忘録的な感じで書き残していますので、もしこのnoteを見てくれた方は、書かれていること全てを鵜呑みにせずに「ほーん」くらいの感じで見ていただけると嬉しいです笑

今回は、「ダンパーとは?」という点についてから始まり「セッティングの考え方」、「データロガーのヒストグラムから理想的なダンパーセッティングをする方法」などに触れていきたいと思います。

記事の後半部分のデータロガーを使ったダンパーセッティング方法の検証には、レーシングシミュレーターを使用して行っています。

ソフトはアセットコルサコンペティツィオーネを使用して、データロガーにはMoTecを使用しています。

シミュレーターでの検証ですが、実車においても同様の考え方でダンパーをセッティングできるはずです。

レーシングカーにおけるダンパーとは

ダンパーの役割

ダンパーは、車のサスペンションシステムの重要な部分ですが、ダンパーが持つ役割はどんなものがあるのか、いくつか考えられるものを挙げてみます。

  1. 路面の凸凹を吸収して乗り心地を向上させる

  2. ブレーキ、コーナーリング、加速時の車の姿勢を制御する

  3. 空力を制御する

まずは、一般道でも馴染みがあり日常的に体感できる「①路面のデコボコを吸収して乗り心地を向上させる」という役割がイメージしやすいかと思います。

ダンパーはサスペンションのスプリングバネが「縮んだり」「伸びたり」する際にエネルギーを吸収(減衰)して、車がスムーズに走れるようにしてくれます。

もしダンパーがない状態でサスペンションのスプリングバネだけで走行した場合、車はポヨンポヨンと跳ねまくって、まともに運転できる状態ではなくなってしまいます。

ダンパーはスポンジのように衝撃を吸収し、車が安定して走れるように助けてくれます。

(初心者向けのわかりやすい例え話を見つけたので共有させていただきます。「水が入ったコップにビー玉を落とした場合」と「はちみつが入ったコップにビー玉を落とした場合」をイメージしてみてください。水が入ったコップはビー玉を落とすとすぐにコップの底に到達すると考えられますが、この状態がダンパーが効いていないという状態です。逆にはちみつが入ったコップにビー玉を落とすと、ビー玉はゆっくりとしたスピードでコップの底に到達すると思います。これがダンパーが効いている=減衰している、といった状態となります。)

もちろんレーシングな場面においても乗り心地は重要ですが、高速走行下でのダンパーに関しては、「②ブレーキ、コーナーリング、加速時の車の姿勢を制御する」という役割が一番重要になります。

「②ブレーキ、コーナーリング、加速時の車の姿勢を制御する」とほぼ同義ですが、「③空力を制御する」という役割も非常に重要になってきます。

ダンパーが車に与える影響

ダンパーは車の動きに関わっており、きちんと機能するとコーナーを曲がるときやブレーキをかけたときに車を安定させることができます。

ダンパーは路面とタイヤの接地を安定させてくれる働きがあり、車のハンドリングにも大きく関わってきます。

ダンパー&スプリングが柔らかいとタイヤはサーキット路面に追従して一貫した接地面を得ることができますが、コーナリングのことを考えるとステアリングの応答性が低下してしまうため、「グリップ力」と「ステアリング応答性」のバランスが非常に重要になります。

また、GT3マシン以上の箱車やフォーミュラカーでは空力が重要になるため、コーナリング時にいかに理想的な車の姿勢を変化させないか、ということも考えなければいけません。

空力マシンでの姿勢制御は、バンプストップ(=パッカー)、サードスプリング、などでコントロールするのがまず重要となります。

ダンパーが空力マシンで与える影響を考えると、

ブレーキングでノーズダイブ→空力パーツが路面と最も接近しグランドエフェクト効果を発揮→ブレーキリリースで徐々にノーズが元の位置に戻る→ノーズが戻るスピードが早すぎる→ダウンフォースを失う(=ジャッキアップ現象)

このジャッキアップ現象や、アンダーフロアの底打ちなどが、空力マシンにおいてのダンパーが与える影響の一つと考えて問題ないと思います。

ダンパーの動きを見る方法

サスペンションダンパーを理想的にセッティングするには、ダンパーがどのように動いているのかを把握しておく必要があります。

ダンパーの動きを視覚的に見るためには「サスペンションヒストグラム」というグラフを使います。

このグラフは、ダンパーがどの速度でどれだけの時間動いたかを示します。

例えば、ダンパーが0~25mm/sの速度で動いた時間が一番長い場合、その部分のグラフが一番高くなります。

このヒストグラムを見ることで、ダンパーがバランスよく動いているかどうかを確認することができます。

理想的なダンパーはこのヒストグラムが0mm/sを中心軸として、左右対称となる形が理想的とされています。

もし、ヒストグラムの形が左右対称でない場合、ダンパーのセッティングを調整する必要があるかもしれません。

しかし、このヒストグラムはあくまでセットアップの目安として活用するのがいいかもしれません。

結局のところ、ヒストグラムの形を左右対称にすることに固執するよりも、実際のダンパーの変更に対して運転手がどのように感じるか、そしてそれがタイムにどう影響したのかが重要になります。(どう頑張っても左右対称にならなかったり、車の特性上、理想的なヒストグラムが得られないマシンもあります)

このヒストグラムを使用して最適なダンパーセッティングをする方法は後半に詳しく説明していきます。

ちなみにこのヒストグラムはAiMやMoTecといったデータロガーソフトで解析することができます。

今回は、アセットコルサコンペティツィオーネを使用したためMoTecで解析しました。

実車においても、サスペンションストロークセンサーを取り付ければ、ロガーソフトでヒストグラムを表示させることができます。

ダンパーのセッティング

ダンパーの種類

ダンパーのセッティングについてですが、まずはダンパーで調整できる項目を確認しておきましょう。

ダンパーは前述で説明した通り、サスペンションの「縮み側(バウンド)」と「伸び側(リバウンド)」を制御するモノとなっています。

ダンパーを自分でセッティングする際にも、この「縮み」と「伸び」を考えなくてはいけません。

ダンパーを調整する時に、縮み&伸びが一緒に変化するダンパーが一般的となっています。=1way(柔らかくor固くすると、縮み側&伸び側に両方に影響)

しかし、ダンパーによっては、この縮み&伸びを別々に変更できるものがあったりもします。=2ways

それなら調整幅が広い2waysのダンパーの方が良いの?という疑問がありますが、必ずしもそうとはいえません。

実車レースで、スーパーFJというミドルフォーミュラの入門カテゴリのレースがあるのですが、僕はそのレースをトータル6年くらい経験しました。

そのスーパーFJでは、ダンパーのチョイスが自由となっており(以前のSFみたいに)1wayダンパーと2waysダンパーが混在した中でレースをしていました。

もちろん自分も両方のダンパーを試したことがあるのですが、マシンの個体によってそれぞれのダンパーが合う合わないもありましたし、ドライバーによっても「1wayの方が良い」「2waysの方が良い」というフィードバックがあることからも、一概に調整幅の多い2waysの方が良いパフォーマンスを発揮するというわけでは無いことがわかります。(調整幅が広いことからしっかりと使いこなせるかどうかという点も重要になります)

結局のところダンパーのパフォーマンスは、中身のオイルの仕様やダンパーの構造によるところが大きく、そのダンパーの仕様が自分の車に合うかどうかを予測&吟味する必要があります。

少し話が逸れましたが、つまりはダンパーには色々なタイプがあります。

調整幅が広いダンパー

色々なダンパーがあると述べてきましたが、現在GT3カテゴリー以上で使用されているダンパーは4waysでの調整が一般的となっています。

以下は4waysの調整項目です。

  1. ロースピード縮み

  2. ハイスピード縮み

  3. ロースピード伸び

  4. ハイスピード伸び

ダンパーの縮み側&伸び側の調整に加えて、「ロースピード(LS)&ハイスピード(HS)」の調整が追加されています。

縮み側&伸び側に関しては、ここまでで説明してきたのでなんとなく理解してもらえたと思いますが、LSとHSについても説明しておきます。

  • ロースピード(LS)
    ブレーキ、コーナリング、加速、で影響

  • ハイスピード(HS)
    路面の大きなギャップ、スピードバンプ、縁石、で影響

基本的にはLS側の調整でマシンをセットアップすることにはなりますが、モンツァや富士のようなスピードバンプや縁石をガンガン多用していきたいサーキットではHS側での調整も重要になってきます。

さらに、最近のレーシングカーでは「ブローオフバルブ」が付いているダンパーもあり、縁石などの強いインパクトが発生した時にガス圧を抜いてマシンが跳ねないようにしてくれるものがあります。

セッティングの考え方

まずレーシングカーの足回りをセットアップする際に、適切なセッティングの順番というものがあります。

基本的には、「スプリングレート→ライドハイト→スタビライザー→アライメント→ダンパー」という順番で進めるのが理想的です。

マシンの特性によるものや空力が大きく影響するものに関しては、必ずしもこの順番というわけではありませんが、ダンパーはマシンセットアップにおいて2次的、3次的なセットアップ項目に過ぎないということをお伝えします。

スプリングやアライメントといった足回りセッティング項目よりも、ラップタイムに影響を与える効果が小さく、セッティングの微調整的な扱いで考えておいた方がいいかもしれません。

ダンパーのセッティングを考える際は、「マシンが、コーナーのどのタイミングで、どのような操作を行なっている時か」という点に着目することが重要になります。

例えば、「コーナーのクリップで荷重が一番かかっている時のアンダーステアを修正したい。」といったシーンにおいては、ダンパーを変更しても間違った方向にセッティングが進んでしまう可能性があります。

前述した通り、ダンパーはブレーキ、コーナリング、加速というそれぞれの動作の初期段階に影響し、さらに路面のギャップや縁石でも影響します。

ですので、繰り返しになりますが、ダンパーをセッティングする際は「コーナーのどのタイミングで、どのような操作を行なっていると時か」ということを頭の中で整理しながらエンジニアに状況を説明する必要があります。

以下に、ケースバイケースのダンパーセッティング方法を説明します。ほんの一例にすぎませんので、実際にマシンに起こっている状況はもっと複雑です。

「コーナーのどのタイミングで、どのような操作を行なっていると時か」ということを頭でイメージして、「ブレーキのオン/リリースの時の問題か」「ステアリングの切り始め/戻しの時の問題か」「アクセルはON/パーシャル/OFFか」といった状況をロガーやオンボードから綿密に観察した上で、ダンパーの変更をすることをおすすめします。

コーナーの進入

コーナーの進入において、マシンのバランスに変更を加えたい場合は以下のようにダンパーセッティングを変更します。

  • アンダーステアの場合
    フロントの(ロースピード)縮み:柔らかく
    リアの(ロースピード)伸び:柔らかく

  • オーバーステアの場合
    フロントの(ロースピード)縮み:固く
    リアの(ロースピード)伸び:固く

コーナーの脱出

コーナーの脱出、おもにアクセルを入れた時のマシンバランスに変更を加えたい場合は以下のようにダンパーセッティングを変更します。

  • アンダーステアの場合
    フロントの(ロースピード)伸び:固く
    リアの(ロースピード)縮み:固く

  • オーバーステアの場合
    フロントの(ロースピード)伸び:柔らかく
    リアの(ロースピード)伸び:柔らかく

以上が、ケースバイケースのダンパーセッティングとなります。
しかし、ここまではマシンのセットアップについて考えたことがある方なら誰でも知っている内容だと思います。

それに前述した通り、実際にマシンに起こっている状況はもっと複雑で、言語化してケースバイケースに当てはめることができるほど単純なものではありません。

ですので、何度もお話ししている通り、「コーナーのどのタイミングで、どのような操作を行なっていると時か」ということを頭の中で正確に理解して、トライアンドエラーを繰り返してダンパーセッティングを詰めていく必要があります。

ここからは、ダンパーのセッティングをデータロガーを使用して、もっとエンジニア的な視点、フィーリングで行うセットアップではなく、数字に基づいて行うダンパーセッティング方法を解説していきます。

データロガーは「コーナーのどのタイミングで、どのような操作を行なっていると時か」というものを、視覚的に示してくれるものです。

マシンに起こっている問題点を、ドライバーとエンジニアの頭の中で共有することができる最高のアイテムです。

マシンから降りて興奮状態になったドライバーが、頭で整理して発する言葉よりも、視覚的に示すデータロガーの方が遥かに信憑性があり車のセットアップも正しい方向に進みやすいです。

逆に、ドライバーはデータロガーには現れないもっと解像度の高いマシンフィールを感じ取る必要があり、それを言語化することができればもっと良いマシン作りができるんじゃないかと最近思っています…(頑張らなきゃ…)

データロガーはセンサーから拾い上げた情報を、様々なグラフや計算にして表示してくれます。

そこで、ダンパーをセットアップする際には、ヒストグラムというグラフを使用することで、理想的なダンパーセッティングを手助けしてくれます。

ここからはダンパーヒストグラムの見方とヒストグラムから最適なダンパーセッティングをする方法を説明していきます。

ヒストグラムから理想的なセッティングをする方法

ACCを使用して、アストンGT4/ミサノを走ったヒストグラムデータです。

ヒストグラムの見方

▲▲のヒストグラムは、アセットコルサコンペティツィオーネのサスペンションヒストグラムのデータです。

ヒストグラムが何を示しているのか?というと、記事の冒頭でも少し触れましたが「1ラップにおいてダンパーがどの速度でどれだけの時間動いたか」を示します。

横軸がダンパーが動く速度を示しており、縦軸が%を示しています。
ですので、すべてのビンのパーセントを合計すると100%になります。

例えば、ダンパーが0~25mm/sの速度で動いた時間が一番長い場合、その部分のグラフが一番高くなります。

このヒストグラムを見ることで、ダンパーがバランスよく動いているかどうかを確認することができます。

理想的なダンパーはこのヒストグラムが0mm/sを中心軸として、左右対称となる形が理想的とされています。

ヒストグラムは、0mm/sを中心軸として、±200mm/sの速度が示されており、プラス側(右側)がダンパーの縮み側、、マイナス側(左側)がダンパーの伸び側となります。

このヒストグラムでは±5mm/s毎に1つのビンが形成されており、ビンの高さが高いほど、「その速度域をラップ1周において、より多く使用している」ということになります。

Googleの画像検索で出てくるヒストグラム。これはバイクのダンパーヒストグラムですが、理想的なダンパーのバランスは画像のように、縮み側と伸び側が左右対称なものとされています。

▼▼以下の具タフは、アセットコルサコンペティツィオーネを使用して、アストンマーチンGT4/ミサノを使用してラップしたヒストグラムデータとなります。

グラフ①

GT4マシンを使用した理由はエアロによる空力をあまり考慮しなくて良いという理由からです。(ダンパーは縮み側と伸び側を制御する2ways方式でした。)

マシンセッティングは、ACCのデフォルトで用意されている「アグレッシブ」を使用して走行してみました。

赤グラフ→左前(LF)
青グラフ→右前(RF)
ピンクグラフ→左後(LR)
水色グラフ→右後(RR)

グラフをよく見ると、±25mm/sを境目に、背景の色がグレー色/ブラック色で分かれていると思います。

これは、±25mm/sという速度を境目にして、ダンパーのロースピード側の仕事域とハイスピード側の仕事域で分けられています。

背景グレー色→ロースピード
背景ブラック色→ハイスピード

グラフ①のアストンGT4/ミサノのダンパーLF側、セッティングは「アグレッシブ」

グラフを注目してみると、グラフの上部に「低%」と「高%」と示されているのがわかると思います。

これが、ダンパーのロースピード(LS)側とハイスピード(HS)側を意味しています。

  • LS縮み側→37.8%

  • HS縮み側→14.0%

  • LS伸び側→32.7%

  • HS伸び側→15.5%

というのがわかると思います。

これは、サーキット1周あたり、それぞれのダンパーの項目が何%仕事したのかということを示しています。(合計するともちろん100%になります)

ダンパーをきちんとセットアップしてあげることによって、この%を適切なレンジへ設定することを目指します。

理想的なダンパーの仕事量は、

  • LS側→理想34%(32〜40%くらいのレンジ)

  • HS側→理想16%(12〜20%くらいのレンジ)

この辺りをターゲットにしてダンパーをセッティングすることをおすすめします。

さらに、中心ビンの最も高さの高いビンが10〜12%に到達するのが目安となっています。

なぜ±25mm/sがLS側とHS側の境目になるの?
±25mm/sがロースピード側(LS側)の範囲とされる理由は、ダンパーがドライバーの入力(ステアリング、ブレーキング、加速)に対して最も敏感に反応する速度帯だからです。この範囲では、車両の安定性やハンドリングに大きな影響を与えるため、正確な調整が重要となります。LS範囲内でのダンパーの動作は、主にコーナリングやブレーキングの初期段階での車の動きを制御し、乗り心地とグリップのバランスを取る役割を果たします。このため、±25mm/sがロースピード側の範囲として設定され、車両の挙動解析において重要視されます。さらに、ダンパーには「ニーポイント(Knee)」と呼ばれる箇所があります。これは、ダンパーの減衰力が特定の速度を超えると急激に変化する点を示しています。ロースピードの範囲は、このニーポイントの直前に設定されることが多いです。

ダンパーをセッティングしてヒストグラムの変化を見る

ここまでで、ダンパーヒストグラムの見方がある程度理解してもらえたかと思います。

もう一度理想的なダンパーヒストグラムををまとめました。

・0mm/sの中心ビンを境に左右対称
・中心ビンの高さが最も高くなっている(10〜12%)
・LS側→理想34%(32〜40%くらいのレンジ)
・HS側→理想16%(12〜20%くらいのレンジ)

それでは実際に、ダンパーを変更して理想的なダンパーを設定してみましょう。

グラフ①

これは、前述でも登場していた、アセットコルサコンペティツィオーネでアストンマーチンGT4/ミサノの組み合わせで走行したヒストグラムデータです。

マシンのセットアップはデフォルトで準備されている「アグレッシブ」セットアップを適用して自分で走ってみたデータとなります。

前述で説明した、理想的なダンパーヒストグラムと照らし合わせると、フロント側のグラフは左右対称でかなり理想に近い形状になっていますが、リア側を見ると、若干、縮み側にグラフが偏っており、さらに中心ビンも低くて「減衰不足」というのが読み取れます。

これを調整して理想的な、ダンパーヒストグラムにしてみましょう。

少し補足すると、ダンパーの縮み側と伸び側のバランスがとれていないと、このヒストグラムのように、グラフに偏りが発生してしまいます。

ダンパーのバランスがとれていないと、冒頭でも少し説明しましたが、「ジャッキアップ現象」や「ジャッキダウン現象」が発生します。

特に、空力が重要な車では、このバランスが重要になるため、適切なダンパーセッティングが必要になります。今回のアストンGT4&ミサノのグラフではリア側に縮み側にわずかに偏りがあるため、ジャッキアップ現象が発生している可能性があります。

ジャッキアップ現象とジャッキダウン現象とは?
冒頭でも少しご紹介しましたが、ブレーキングでノーズダイブ→ブレーキリリースで徐々にノーズが元の位置に戻る→ノーズの戻るスピードが早すぎる→グリップを失う(=ジャッキアップ現象)
この逆で、ブレーキングでノーズダイブ→ブレーキリリースで徐々にノーズが元の位置に戻る→ノーズの戻るスピードが遅すぎる→スプリングバネが元の位置に戻る前に再び縮み側が働く→グリップを失う(=ジャッキダウン現象)

グラフ② アストンGT4/ミサノでリア側ダンパー調整後のグラフ

実際に、リア側のダンパーを調整しみました。

縮み側と伸び側のダンパーを固めて(=減衰を強めて)、ヒストグラムを適切な形状に調整してみました。

まだ縮み側に少し偏りが発生しており、左右対称…とはいえないかもしれませんがだいぶ理想的なヒストグラムに近づいてきた気がします。

この時はあまり時間がなかったため、これ以上追及できませんでしたが、縮み側の偏りを改善するために、もう少し伸び側を固めるor縮み側を柔らかくすると理想的な形状に近づくはずです。

このようにしてダンパーをセッティングしてヒストグラムの形状を適切に変化させます。

もし、伸び側に偏りが発生した場合は、逆に伸び側を柔らかくor縮み側を固めれば良い結果が得られるはずです。

また、もしダンパーを固めても、ビンの高さが出ない場合はスプリングレート不足が考えられます。

この時のアストンGT4はリアのバネがすでに最高設定になっていたため、ダンパーを調整することによって改善しました。

参考までに、ダンパー調整前と調整後のラップタイムを記載しておきます。

ダンパー調整前:1.43.855
ダンパー調整後:1.42.950

想像よりもタイムが向上してしまいました.…

あくまでも参考程度にしてください。ダンパーだけでこんなにタイムが向上することは滅多にありません。

もちろん、ある程度練習してからタイム計測しましたが、コースとクルマの習熟度が影響している思います。

ただ、車の動きは改善されており、姿勢制御がかなりしやすくなりました。

理想的なヒストグラムを追及し過ぎない

ここまで、理想的なヒストグラムとは?理想的なヒストグラムに近づける方法を説明してきましたが、最も重要な点は「ヒストグラムを追及しすぎない」ということです。

結局のところ、クルマづくりにおいて重要な点は、セットアップによる「フィーリングの向上」と「ラップタイムの改善」です。

ヒストグラムを理想的な形状にすることを目指すことばかりに固執すると、間違った方向にセッティングが進んでしまう場合もあります。

あくまでもひとつの目安として、まずはターゲットの形状を目指しながら調整して、その過程ではフィーリングとラップタイムを重視しながらセットアップしてください。

そしてまた迷ったら、ヒストグラムに帰る…といったこと繰り返していく作業で良いセッティングを見つけていただけたらと思います。

少し補足すると、今回はアストンGT4をテスト車両として使用しましたが、その理由が「エアロパッケージによる空力を考慮する必要がない」と説明しました。

セットアップは空力の要素が入ってくると途端に複雑さが増すのですが、最近のGT3マシンでは空力が重要視されています。

メルセデスAMG Evo GT3/バルセロナ、という組み合わせでも走行してみましたので、そのダンパーヒストグラムもご紹介します。

グラフ③ メルセデスAMG Evo GT3/バルセロナで走行した時のグラフ

こちらのヒストグラムは、ある程度ダンパーを理想的なセッティングに「調整した後」のデータとなります。

理想的なヒストグラムの形状と照らし合わせると、かなり近いグラフデータに仕上げることができたのですが、縮み側の25mm/s付近のビンに注目していただきたいです。

縮み側の25mm/sのビンだけが、周辺の他のビンと比較して、不自然に少しだけ高さが持ち上がっているのがわかると思います。

これがまさに、空力によって車体が押しつけられたことを示しており、ダウンフォースを減らすと、ここの高さ低くなることが予想できます。

さらに、MR車などはエンジンが後方にある特性上、スプリングを固める必要があったり、足が動かしにくいといったことも車によっては考えられるため、理想的なダンパーヒストグラムが得られないといったことありえます。

つまり、理想的なヒストグラムに固執するのではなくて、空力パッケージやエンジン搭載位置といった車の特性などにも注目して、あくまでもヒストグラムは指標として活用するのがベストだということです。

おわりに

以上、ダンパーの理想的なセッティング方法について、説明してきました。
ちょっと時間がなくて、校閲作業ができていないので、誤字脱字、誤った情報などを書いてしまっていた場合は教えていただきたいです。

このnoteは自分で勉強した内容を備忘録的な感じで、まさに「ノート」していますので、リアルレースでもシムレースでも、自分で見返して活用していきたいと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました!

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