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第129回ケンタッキーダービー(2003年) [競馬ヒストリー研究(43)]

日本時間の5月8日早朝には、日本からクラウンプライドが出走するケンタッキーダービーが行われる。改めて説明するまでもなく、”The Most Exciting Two Minutes in Sports”(=スポーツの中で最も偉大な2分間)と称されるケンタッキーダービーと言えば、競馬ファンのみならず全米の注目を集めるアメリカ競馬最大のビッグイベントである。

歴代優勝馬にはNorthern DancerやSecretariat、Sunday Silenceなど日本の競馬ファンにも馴染みある伝説級の名馬も名を連ねている。3歳の日本調教馬がこの時期に欧米へ遠征する例はかなり少ない中、GI格付を得ている諸外国のダービーに相当する競走の内、唯一日本馬の出走歴があるレースでもある。

1875年という、日本で言えば横浜の外国人居留地で行われたいわゆる「居留地競馬」を模して各地で洋式競馬が始められていたような時期に創設されたレースだけに、ケンタッキーダービーを巡る歴史やジンクス、ドラマなどは数多く存在するが、その中でも「アメリカンドリーム」を体現し、人気を博した優勝馬と言えば2003年のFunny Cideであろう。

 

後にJustifyやSuper Saver、Drosselmeyerなど数多くの三冠レース優勝馬を生産または所有するウィンスターファームが生産し、ニューヨーク州サラトガスプリングスのマクマホン・オブ・サラトガ・サラブレッドファームという夫婦経営の牧場で2000年4月に誕生したFunny Cide。同馬は生まれつき片方の睾丸に「停留精巣」という陰嚢の中に睾丸が降りてこない症状を患っていたが、1歳馬を購買して育成し、付加価値を付けて2歳で売却する「ピンフッカー」のトニー・エヴァラードによって去勢され、騙馬としてデビューを迎えることとなった。

2歳時にFunny Cideを購買したのは調教師のバークレー・タッグから薦めを受けたサッカトガステーブルという共同馬主であった。このサッカトガステーブルは、ニューヨーク州北部の小さな町サケッツハーバーに住む高校の同級生たちを中心とする友人の10人が、それぞれ5,000ドルを出し合って最初の馬を購入し結成された、いわゆる一般の庶民による共有組織である。ちなみに、”サッカトガ”という名称は、彼らの出身地サケッツハーバーとシンジケートの中心人物であるジャック・ノウルトンが住むサラトガスプリングスという2つの地名を組み合わせた造語だ。

 

2002年の9月にデビューし、初戦と2戦目はそれぞれ15馬身差、9馬身差で圧勝したFunny Cide。10月に3戦目を勝って2歳シーズンを終えたが、デビューから騎乗するホセ・サントスは翌月にアーリントンパーク競馬場で行われたブリーダーズCクラシックを制した夜、サッカトガステーブルのノウルトンに「あの馬は来年のダービー馬だ」と宣言するほどFunny Cideの素質を高く評価していた。

翌2003年の1月からはダービー戦線の重賞を走っていくこととなったFunny Cide。3歳初戦のGIIIホーリーブルSを5着、3月のGIIルイジアナダービーを3位入線2着と足踏みしたものの、続くニューヨーク地区の最終前哨戦GIウッドメモリアルSでは、前走のGIフロリダダービーを9+3/4馬身差で圧勝していたダービー有力候補のEmpire Makerに半馬身差まで迫って2着し、大目標のケンタッキーダービーへ駒を進めた。

 

前走でも対戦したJ.ベイリー騎乗のEmpire Makerが本番でも1番人気に支持された。同馬と同じボビー・フランケルの厩舎で、地元の前哨戦GIブルーグラスSを勝ってきたE.プラードのPeace Rulesが2番人気。以下、P.デイが騎乗するTen Most Wanted、同年7月に公開の映画「シービスケット」にも出演するG.スティーヴンス騎乗のBuddy Gilと続き、デビューから7戦全てでコンビを組むサントスが手綱をとったFunny Cideは7番人気でレースを迎えた。

6番ゲートからスタートし、内の3,4番手を進んだFunny Cide。3角からレースが動き出すと、先行するPeace Rulesを見ながらサントスが追い出し、徐々に馬体を併せていく。その背後からはEmpire Makerが勢いよく捲り上げて三つ巴の態勢で直線を向き、勝負はこの3頭に絞られた。

外のEmpire Makerは直線に入ると脚色が鈍り、3頭の真ん中を走るFunny Cideの鞍上サントスは左ステッキを叩いて内のPeace Rulesへ併せにいく。Peace Rulesも懸命に粘るものの、直線半ばでFunny Cideが競り勝ち、徐々にリードが広がる。最後は1頭抜け出してゴール板を駆け抜け、ゴール直前で2番手に上がったEmpire Makerに1+3/4馬身差を付けて1着となった。

K.アブドゥラ殿下(Empire Makerが2着)のような大馬主や、映画監督のS.スピルバーグ氏(共有馬Atswhatimtalknboutが4着)のような著名人が所有する、世界一の馬産地ケンタッキーで生まれた馬たちを、ニューヨーク産の騙馬であり、一般階級の10人が75000ドルで購入し共同所有するFunny Cideがまとめて負かしたこのケンタッキーダービーは大きなセンセーションを巻き起こした。ちなみに、ニューヨーク産馬としては史上初、騙馬としては1929年のClyde Van Dusen以来74年ぶりの快挙であった。

北米最古の競馬情報誌ブラッドホース誌は、「エンパイアメーカーのダービーが、エンパイアステートのダービーに変わった」「一日だけダービーのテーマ曲が『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』から『ニューヨーク・ニューヨーク』に変わった」などと、ニューヨークの地からこの栄光を掴んだ人馬を称賛した。

レース後には、フロリダ州の新聞マイアミ・ヘラルド紙によって「サントスが電気鞭を使用したのではないか」という記事を掲載され、一時は大騒動に発展した。調査の結果無実が証明されたが、結果的にはそれすらもFunny Cideの知名度を上げ、更にファンを増やすこととなった。

 

過去4年間で3回管理馬が1位入線を果たし、ダービー通算6勝を誇るB.バファート調教師が管理するJustifyやMedina Spiritの禁止薬物問題や、2019年にはMaximum Securityが進路妨害で1位入線降着となった上、管理するJ.サーヴィス調教師が翌年に禁止薬物の投与で訴追されるなど、とにかく近年のケンタッキーダービーをはじめとする米国競馬界には暗い話題が後を絶たない。今こそFunny Cideのようなアメリカンドリームを体現するニューヒーローが登場し、光を射してほしいと切に願うばかりだ。もちろん、日本から4番目に真っ赤な薔薇のレイを目指すクラウンプライドもその中の1頭である。


今年のケンタッキーダービーは大混戦。どの馬も一長一短に見えますが、現地のモーニングライン1番人気Zandonは一応マークしたいと思います。ただ、差し脚質だけに取りこぼすシーンは頭に入れておきたいです。

日本で馬券発売が行われた2019年に2位入線1着したCountry Houseのように、差しタイプの馬はむしろ人気薄で買いたいところ。2走前にファウンテンオブユースSを中団からひと捲りして勝ったSimplificationあたりがその候補でしょうか。

あとは当方と同じ生年月日の種牡馬Smart Strikeの血を引く馬もよく走っています。現時点で20頭の出走枠に入っているのはMessier1頭。モーニングライン3番人気とCountry Houseのような大穴ではありませんが、幻の3連覇および5勝目が懸かるヴェラスケス騎手ですし、こちらも外せません。


NHKマイルCはレベルの高い朝日杯FSで1番人気に推されたセリフォスはもちろんですが、このレースに滅法強いVice Regent系の血を持つスピード血統馬アルーリングウェイを狙ってみたいです。


それではー

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