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第63回東京優駿(1996年) [競馬ヒストリー研究(46)]

昨年の日本ダービーを制したのはこれがキャリア4戦目であったシャフリヤール。近年は早い段階で出走するに足る賞金を確保し、間隔を開けて出走するローテーションが主流となっているが、その近年だけでも前走がクラシック一冠目以前という馬は同馬を除いて悉く人気を裏切っていた。

当レースを2歳戦が行われるようになった戦後以降に最小キャリアで制した馬と言えばデビュー3戦目のフサイチコンコルドであるが、今回は同馬のバックボーンを紐解きながら現代の競馬にも通ずる大記録の秘密を探っていきたい。

 

鞍上武豊で1番人気のダンスインザダークをゴール前で差し切ったシーンは競馬ファンにはおなじみであり、勝ったフサイチコンコルドが育成時代からそのダンスインザダークと同等、もしくはそれ以上の評価を受けていたことは今となっては語り草の一つではあるが、評判や素質が簡単には結果になど結びつかないことは競馬を知る我々にとっては常識も常識。同馬にはキャリアや経験の差を埋めるに足る"何か"が必ずあったはずだ。

 

血統は能力のデータベースであり、馬柱ではわからない能力を予測する最強ツールである。というのは血統予想家の亀谷敬正氏がよく使う格言の一つだが、そう考えながら同馬の血統表を眺めてみると、一つの推測ができる。フサイチコンコルドに流れていたのは言うなれば"飛び級の血"なのではないだろうか。

リステッドのタイロスSでデビュー勝ちした同馬の父Caerleonや、「和製ラムタラ」と呼ばれることとなった由来であり、リステッドのワシントンシンガーSでデビュー勝ちを収め、10か月後の2戦目に英国ダービーを制した*ラムタラをはじめ、フサイチコンコルドの祖父Nijinskyはリステッド・グループレースで初勝利を挙げた馬を数多く輩出している。

この他にも、ロイヤルアスコットのGIIキングエドワードVIISで初勝利を挙げ、その次走にキングジョージVI&QESを勝った*イルドブルボン、サンダウンのGIIIクラシックトライアルSで初勝利を挙げた英国ダービー馬*シャーラスタニ、タイキフォーチュンの父*シアトルダンサーII(GIIデリンズタウンスタッドダービートライアルS)、イソノルーブルの父*ラシアンルーブル(LホートンS)、ロングハヤブサやスズマッハの父*ラッキーソブリン(GIIIダンテS)等、日本で名が知られる産駒だけでも同様の馬を7頭程輩出しており、この点においては倍以上ステークスウィナーを出した大種牡馬Sadler's Wells(フサイチコンコルドの母父でもある)をも上回る。

これだけならこの日本ダービーにはNijinskyの血を持つ馬が他にも7頭出走していたわけだが、ことフサイチコンコルドに関してはそれだけではない。祖母のSun Princessに至ってはなんと英国オークスで初勝利を挙げており、そのSun Princessの父English Princeの初勝利もGIIIのホワイトローズSというグループレースであった。”飛び級一族×飛び級種牡馬”とでもいうような、まさに飛び級の結晶と言える血統背景である。

 

体質の弱さに悩まされ、ぎりぎりの状態で出走し、勝利したフサイチコンコルド。それを克服したのは陣営の努力は勿論のこと、大舞台で覚醒、経験を凌駕し、本来の能力をいきなり発揮させる遺伝子の記憶なのではないだろうか。血がドラマを生み、知でそのドラマを感じる。今年も一年で最高のドラマを堪能しよう。


今年は馬場や枠に大きく左右されるレースが多いですが、日本ダービーも皐月賞に続いてそんな予感を感じさせます。

ダノンベルーガは前走外有利の馬場で1番枠から掲示板を確保したあたり能力は確かでした。大目標のダービーに万全の状態で臨んでほしいです。
ドウデュースも後方から素晴らしい脚を見せました。あの競馬を選択したこと自体武豊騎手の本馬に対する自信のようなものも読み取れます。

ダノンベルーガと同じく皐月賞で内を回ったジャスティンロックやキラーアビリティも見直したいですし、別路線組ではロードレゼルも前走速い流れを先行し、他馬のアクシデントで早めに先頭に立たされながら最後まで粘りを見せました。

ここまで挙げた馬が全て外目の枠に入ったのは悩みどころですが、馬券的には近年でもかなり面白そうなダービーなのではないでしょうか。


それではー

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