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君は、 おしん を見たか?

昭和のテレビ界の重鎮、脚本家の橋田壽賀子さんが亡くなったことを悼んで、NHKで「おしん」を再放送していた。

おしんが放映されていたのは私が中学生の頃だから、もちろんすべての番組を見ていたわけではない。けれどもどんな内容だったか大体わかるのは、当時夢中になって見ていた周りの大人たち(母や祖母など)が話すのを聞いていたからだろう。

久しぶりに見たその雑感を記しておく。

朝の連続テレビ小説とは

「おしん」は1984年4月から1年間、NHKで朝の連続テレビ小説というドラマシリーズで放映されていた。現在(2021年4月)は「おちょやん」という作品が放映されている。

「おしん」とは、主人公の通称であり、本名は「田倉しん」という。

大正時代くらいまで、皇族や貴族以外の日本の女性の多くは二音(二文字)で名付けられることが多かった。私の祖母もその例にもれず「はま」(母方)「すみ」(父方)である。

一般的に、その二音に接頭語の「お」をつけて呼ばれることが多かったので「おしん」「おちょやん(関東風にはお千代さん)」が通称だと言える。

ご存知の方も多いと思うが、この枠のドラマは基本的に女性のサクセスストーリー的な作品が多い。

そのパターンが私が物心ついた頃から現在までほとんど変わっていないということが、なんというか日本のジェンダーギャップ指数が上がらない原因の一端を表しているような気もするけれど、今回書きたいのはそのことではない。

おしんとおちょやん、二人の明治女

おしんは明治34年生まれという設定(昭和天皇と同年)、おちょやんのモデル浪花千栄子は明治40年の生まれだから、この二人は同時代人ということになる。

しかも二人とも極貧から身を起こし、成功した女性だ。おしんは中堅流通企業(スーパーマーケット)の創業者として、おちょやんは女優として。

改めて「おしん」を見てみると、「おちょやん」で描かれるヒロインの苦労にあまり現実味がないことに驚かされる。

実際の浪花千栄子の父親は、ほとんど罪の意識もなく娘を遊郭に売り飛ばそうとし、彼女はそうした境涯から必死に逃げたことが手記に書かれているそうだが、もっとソフトに描かれている。

トータス松本演じる父親は「厄介者だが憎めないお父ちゃん」というキャラクターとしてヒロインと視聴者に愛されている。

そうした粉飾は、「浮気は日常茶飯事、その相手は100人を下らない」と語られた千栄子の元夫にもされていて、二人の離婚のエピソードもきれいにまとめられている。

こうした書き換えや演出を、予定調和と見るかご都合主義と見るかは人によって分かれるだろう。私は、後者であり、「ドラマなんだから」と思いながら白々しい思いがするのをやめられない。

これは出勤前の平日の朝に見るドラマという性質上、仕方がないのだろう。朝から人生や社会の不条理に向き合いたい人は変わり者だけだ。

しかし、「おしん」を見て、その貧しさや人でなしの描写が比べ物にならないほどリアルで驚いた。

奉公先の女中頭や姑は、おしんの生命さえ危険にさらすほど仕打ちを重ね、その人非人ぶりは役を演じた俳優がバッシングされるほどだった。

つまり私たちはこの40年ほどの間に、それだけ人生や社会が抱える「生々しさ」と切り離されてきたということだ。

もちろんこれは悪いことではない。それだけ私たちが貧困や暴力や差別と離れた場所に居られるようになったということだから。

「おしん」が放映されていた当時の主な視聴者は私の親世代であり、これは「おしん」の子ども世代に当たる。彼女たちは、自分たちの母親たちから当時の生活の厳しさを聞かされていたはずだし、敗戦直後の日本を実際に経験している。

また、バブル景気を経験していない昭和時代の日本には、まだまだ「倹約の精神」や「辛抱」「根性」という価値観がしっかりと社会や国民に根付いていた。

そうした価値観に基づいた行動が、日本を経済成長に導き、国民の大多数だった貧困層を中間層に押し上げたという成功を現在進行形で体験していたからだ。

一方「おちょやん」が放映されている令和の現在、それらの成功がもたらした先の世界を私たちは生きている。

経済最優先で推し進めてきた時代が置き去りにした環境破壊などの社会問題や成長神話のまやかしをすでに知ってしまった。

輸出された、おしんのサクセスストーリー

ところで、「おしん」のすごさは、このドラマが日本だけでなく世界各国に輸出され、人気を博したということだ。

貧しい境涯から人身取引の当事者となり、児童労働させられていた主人公が苦難に負けず苦労と努力を重ね、社会的経済的な成功を収めるサクセスストーリーは、60カ国以上の国で放映されたという。

特に中国や東南アジア中東などの地域では「ブーム」と呼べるほどの反響があったのは、日本の経済成長の軌跡が自分たちにとってもひな形になるとの思いもあったのかもしれない。

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