馬券裁判当事者から見た笠松競馬問題
今日になって、笠松競馬に所属する騎手や調教師、その知人ら約20人が名古屋国税局の税務調査を受け、2019年までに計3億円超の申告漏れを指摘されたことが報道されました。
ネタ元は国税からのリークでしょうし、まだ報道ベースの話ではありますが、うち約2億円は、騎手や調教師が他人名義で購入し、的中させた馬券の払戻金から外れ馬券などの経費を差し引いた利益だというのですから、もしこれが事実だとしたら、一般の競馬ファンとしては、さすがに穏やかな話ではありません。
今朝、こうした内容の記事に触れてふと思ったのが、馬券裁判の当事者として、僕自身の生の体験とそれに基づくあれこれを、どこかに書き綴っておく必要があるのではないか、ということ。今回の笠松の案件は、単に税金の問題にとどまる話ではありませんから、僕のケースとは明らかに事例が異なるのですが、実は、この記事を見た時に「ああ、そういうことか」と謎が解けたところもあったのですよね。
今日は、自身が体験したことを文字にしておく、というスタンスで、記事を書いてみようと思います。
国税関係者は、10年以上前からすでにこうした不正を疑っていた!?
僕が、国税と押し問答をしていたのは、今からおよそ10年前のこと。
当時、両者の間に見解の相違があったのは、簡単に言うと「はずれ馬券の購入代金を、馬券の払戻金で得た収入から控除できるか」という唯一点でした。
馬券購入に係るお金の出し入れは、自分名義のPAT口座ひとつで完結していましたから、客観的に見ても、非常にシンプルな入出金履歴しか残っていなかった。ところが、彼らがしきりに質問してきたのが、「PAT口座に記録されている取引は、全部あなた一人でやったものか? 本当に、誰かに頼まれて馬券を買ったという事実はないのか」ということ。最初のうちは、「この人たち、いったい何を聞き出したいんだ!?」と不思議に思ったのですが、少し考えて、彼らがしつこく質問してくる意味がなんとなくわかったんです。
ああこれは、本当は仲間がいて組織的に馬券を購入していたんじゃないかと疑われているだけじゃなく、競馬サークルの内部に情報提供者がいて、不正に馬券を大量購入していたことも疑われているんだな、と。
彼らは、馬券購入金額の大きさを見て、こうした不正を疑ったのかもしれないし、事前に何らかの真偽不明の情報が飛び交っていて、それを根拠に勝手なストーリーを仕立て上げていたのかはわかりませんが、本来、それは国税の仕事ではありませんからね。
その時に僕が直感的に思ったのは、やっぱりこれは、国税が単独で動いている話ではないのだろうということ。僕らが知り得ない国の諜報機関か何かと連携して、国家単位で動いている話なんだろうな、と。そんなふうに考えたら、この国って、実は本当に恐ろしい国なんじゃないかとも思ったりもしたんですよね。なんたって、裁判所の令状もない状態で、個人の銀行口座の入出金の実態を掴んでいるんですから。
ただしこの話、当時は客観的な裏付けがあったわけじゃないから、所詮は僕の勘ぐりに過ぎなかった。でも僕は、当時から相手が本当にやりたいことが何なのかを見抜く自信はあったから、自分の胸の中では、「こいつらの真の狙いは、競馬サークルとつるんだ不正な馬券購入の実態を暴くことなんだ」という確信みたいなものがあったわけです。
そして、今日、この記事ですからね。JRAなのか、地方なのかという違いはあるけれど、当時の僕の勘ぐりが、「ああ、やっぱりね」に変わった衝撃の瞬間ではありました。
では、JRAでも同様の不正は起こりうるのか!?
可能性という意味で言えば、起こる可能性がゼロではないでしょう。ただしJRAの場合は、より多くの関係者、そしてファンの目が光っていますから、現実的な話として、誰にも気づかれずに不正を実行するのはかなり難しいのだろうと思っています。
ただし過去には、「こいつ怪しいな!」と思わせる事案があったのは事実です。僕は中央競馬の全レース、そして出走全馬の様子を長きにわたって観察してきましたから、「おや???」ということがあれば、だいたい気づくものなんですよね。
僕が最も不正を疑うのは、"異常歩様"によって競走を中止したケース。もし、馬の脚に本当に異常があったのなら、レース後に"○○跛行により競走中止"などと発表されるはずなんですよ。
ところが"異常歩様による競走中止"ってことは、騎手は馬体に故障を発症したと判断してレースを止めたけど、その後、獣医師が診たら、特に異常は認められなかったということ。もちろん、前後の脚がぶつかって一瞬痺れたとか、ボコボコした馬場に脚を取られて騎手が故障と勘違いしたということも考えられます。でも、例えば一カ月とかの短い期間に、"異常歩様による競走中止"を複数回繰り返したとしたら、それはさすがに「怪しい」ということになるのでしょう。
ちなみに僕が、「あれは不正じゃないか!?」と今でも疑っているのは、今も現役を続けているT騎手が、1990年代に"異常歩様による競走中止"を連発した時のこと。当時T騎手は、JRAから騎乗停止の処分を喰らったのですが、制裁の理由は、JRAから通り一遍の説明があっただけで、その詳しい理由は未だに明らかになっていません。
これは、僕が心の中で思っているだけのことですが、JRAがT騎手に制裁を科したということは、何らかの事実をJRAも把握していたのだと思います。もし、あやふやな理由で制裁を科すようなことがあれば、逆に騎手からJRAが訴えられかねませんからね。
T騎手は、その後、この制裁に対してJRAに異議を申し立てていませんから、本当のところはともかくとしても、僕ら競馬ファンから見れば、JRAとT騎手が「手討ち」したようにしか見えないというわけ。この一件は、僕が中央競馬を見てきた中で、もっとも"ブラック"な事件ではありました。
ただそれ以降は、はっきり「怪しい」と思った事例はありません。
かつては、ステイヤーズSで一周ゴールを間違えた騎手の言い訳をJRAが聞き入れ、いっさいお咎めなしなんてこともありましたが、2018年に山田敬Jがゴールを誤認(この事件は、過失であって不正ではない)した際は、かなり厳しい制裁を科したくらいで、やっぱり、JRAの不正防止に対する意識は、以前よりも格段に高まっているように思えます。
つまり、今の時代、JRAで笠松と同様の不正が起こる確率は、ほぼ0に近いと言ってもいいのではないでしょうか。
「不正が横行しているから勝てない」は競馬ファンのただの言い訳
実は、僕自身、T騎手による"異常歩様による競走中止"の被害者でもあるのですが、たとえそんな事件があったとしても、「やっぱり馬券でプラス収支を計上できるわけがない」などと結論づけるのは、あまりに論理が飛躍していると言えるでしょう。
T騎手の事案のように、かつてはJRA主催の競馬シーンでも、理不尽な出来事が単発的に起こっていたことは事実だと思います。ただ、競馬の負けを他人のせいにするくらいなら、そもそも競馬なんかやらなければいいわけで、そこは冷静な目を持ちつつ、必要なところに必要なだけ批判を行うのが、本来、競馬ファンとしてあるべき姿なのではないでしょうか。
個人的な思いを言えば、人気馬で奇策を仕掛けて大敗を繰り返す最近のY騎手の騎乗ぶりなんて、「不正」を疑われても仕方がないくらいのやりたい放題ぶりだとは思うのですよね。でも、それを含めていろいろあるのが競馬。だから、今回の笠松の件があったからと言って、「競馬は、そもそも勝てないように仕組まれている」などと結論づけることは、はっきり間違いだと言えるでしょう。
そうは言いつつも、やっぱり、今回のような報道に接すると、やっぱり胸が痛みます。こういうワルがいるおかげで、本来、憲法違反のようにも思えるこうした権力側の強硬な対応が、あたかも一定の合理性を帯びているかのように見えてしまうことは、馬券裁判の当事者として、なんとも歯がゆいことではあるのですよね。まあ、ここまで来たら、笠松の件は、膿は全部出し切ってもらいたいとは思いますけど。う~ん、なんとも複雑な心境だな…。
そうそう、最後に余談なんですけど、個人的には、かつて笠松所属だった川原正一騎手が、2000年代に園田に移籍したことがずっと引っ掛かっていたんですよね。なんたって当時は、世界の名だたるジョッキーを相手にしても、追い比べでまったく引けを取らない名ジョッキーだったわけですから。
非常にナーバスな案件ではあるけれど、是非、川原ジョッキーのコメントを聞いてみたいですね。当時から、笠松でのっぴきならない何らかの問題が発生していたのか、それとも、今回の件と当時の移籍は一切関係がないのか、そこがとても気になります。
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