「百人一首」とは何か結論

２４０９．百人一首(要するに何か、結論)
まだまだ疑問は多いのですが、ここで一旦
「百人一首」とは何か、結論
を纏めて置きます。rac流意味論文脈論的に百科事典風に書いてみます。

１２３５年頃、和歌の大家藤原定家が、天皇藤原貴族社会約６００年に渡る１００人各一首の和歌集。和歌の様々な表現力とその個性的な人々の一生を彷彿させ、恋と人生・四季と自然、を歌い上げるもの。必ずしも秀歌集ではないが、近世以降「小倉百人一首」としてカルタ遊びで広く流布したこともあって、その後の日本人の和歌観のみならず、人生観・自然観・美意識の基礎となった。百人一首の示す和歌観とは万葉時代を超え漢詩や中国思想も合わせ、和語とわずか３１文字であっても、かなりの表現が可能ということで、

取り分け、同音異義語の多い日本語の特性を生かしまたそれまでの伝承や物語屏風絵などを踏まえ、本歌取り・歌枕・掛詞など和歌技法を生かすことで複雑な情感を、和歌で十分語ることが出る、との自信の表明。

そして百人一首に固有なのは、一首では表現しきれない大きな世界や主張を、百本も上手く並べれば、可能だ、ということです。後世の連歌とは趣は異なりますが、一つの物語たりうることを示唆します。

その人生観・自然観・美意識とは
時に万葉は個性的で多様で自然だが、平安期の和歌は共通の発想や典型的な表現で個性的でなくまた歌も四季恋賀別旅に物名神祇釈教など類型化されたというが、百人一首ではこれを超えて全体として大胆に主張するに

恋が人生の半分、そして恋も成功十全の愛より激しく苦しい愛を好み、

四季については春秋を好み取り分け秋の風情を選好し、花鳥風月を愛し取り分け桜と紅葉を好む。

政治軍事社会には思考を停止し、世の流れを末法不可知とし、

人生を流れゆく旅と解し、

世も人も、専ら、あわれおかしわびさびを堪能しようとする。

百人一首が、こうした恋と秋と旅に尋常ならざるウェートをおいていることは既述通り（略）です、色でいえば白黒モノクロ世界に桜と紅葉ばかりがくっきりし、音は虫鳥鹿も人も静かで風と波の音が支配するかそけき世界、とも総括しました。

以上
やはり基本は、天智から後鳥羽にいたる、天皇藤原体制貴族社会の崩壊、末法思想に強く影響された、一連の価値観と感性、というべきでしょう。
そして不思議なことに、我が日本では、中世以降の武士社会でも近世以降の大衆社会でも、これと違う価値観や感性は生まれず、こういう没落貴族的価値観感性が、今に至るまで、「日本的」の代表たり続けます。

その理由の一つかも知れませんが、特筆すべきはむしろ
百人一首の表現手法としてのユニークさ、でしょう。

和歌の伝統である部立てや詞書を一切排除しわずか３１文字の和歌の解釈上の自由度を広げ、恋や季節の部立を超え人と自然をダブらせ

和歌自体とその作者名(と似せ絵=肖像画)のみによって簡潔だがかえって豊かな広がりをもつ、

独自の世界を作り上げた。

もともと色紙形であったことから配列も自由、

また他の物語屏風絵や絵合歌合やカルタ競技などと組み合わせ、

様々な楽しみ方をも当初から許容予定した、世界にも例のない独特の芸術・遊戯作品とも言える。

そしてrac的には是非触れて置きたいのが現伝の３バージョン問題です。
定家自身もこうした配列の妙や解釈の自由度を最大限活用し、冒頭の目的に加え、

後鳥羽院順徳院を最後とする天皇藤原貴族社会の挽歌とりわけ後鳥羽院を密かに偲ぶ現行「百人一首」、

定家公経を最後とする為家ら一門への遺言としての意味を有す「百人秀歌」、

家隆雅経を最後とし和歌の歴史や精神を武家に伝えようとした「蓮生宛版」

の少なくとも３バージョンを用意していた。

定家自身公開したのは「蓮生宛版」のみだったがこれは失われ、定家の意を受け嫡男為家が作製した「百人一首」(小倉百人一首=鎌倉幕府には憚りがあるから、後鳥羽順徳を最後とした分は長く秘密扱い、だからお蔵入りのオクラ百人一首なのでしょう)は、連歌師宗祗(連歌師が評価したことは偶然ではないでしょう)の手により１５００年頃世に出て流布し、

また遺言代わりだった「百人秀歌」(嵯峨山荘=探センゾウ、でしょう。小倉も嵯峨山荘も定家自身のギャグと想像しますが、笑)は１９５１年になって宮内庁書陵の中に発見されるまで失われていた。

さてさて。次回以降、「百人一首」(個性ある百人のその考えや生き様を表現する一首、の意味。名付けの妙を感じます。オクラ入りの小倉百人一首)や「百人秀歌」(そんな百人にしては秀歌、遺言として歌の道は精進せねばサガセンゾー)と密接微妙な関係にあり、定家公開資料として恥ずかしくないだけの芸術性(合わせやグルーピングなど配列の妙も)を見える形になっていたに違いない「蓮生宛版」百首、その百首はわかっているわけで、そのオリジナル順序の復活に挑戦したいと思います。
その過程で、まだ引っかかっている多くの疑問の答えも出てくるようにも思いますので。

(つづく)