忍殺TRPGソロリプレイ【ニンジャのアルバイト 前編】
ドーモ。今回は2019年8月にTwitter上にてプレイしたソロシナリオのリプレイ小説を投稿させていただきます。プレイしたのは三笠屋=サンの【ニンジャのアルバイト】です。
危険なバイトに挑むのはハッカーニンジャであるライトニングウォーカー。
ニンジャネーム:ライトニングウォーカー
カラテ:5-1
ニューロン:4+1
ワザマエ:4
ジツ:0
体力:4
精神力:5
脚力:2
装備:LAN直結ハンドガン
レリック:家族の写真
サイバネ:生体LAN端子
生い立ち:元ハッカーカルト(カラテ-1、ニューロン+1)
名声・ソウカイヤ:4
万札:14
公式ソロアドをクリアしたことでそこそこカネが貯まっていますが、もっと稼いでいい装備を買い揃えたいのです。というわけでアルバイト開始な。
なおTwitter上でプレイした際とはストーリー構成や登場人物が異なります。ご了承ください。
ヘッダー画像の使用元はこちら(https://www.photo-ac.com/profile/43626)です。
1.
その日、午後三時頃。ソウカイヤの女ニンジャであるライトニングウォーカーは、クルミ・ストリートのイタリアン・レストランにいた。水拭きされたばかりの木製のテーブルに一人突っ伏し、微動だにしない。ウェイターの少年が空のグラスにミネラルウォーターを注ぐが、反応はない。
早朝……というよりも深夜に叩き起こされて荒事に駆り出され、数十時間の無補給戦闘行為の後に解放されたのが30分前だ。顔見知りのニンジャ数名が爆発四散を遂げたが、彼女はなんとか無事に生還できた。生き残りのニンジャ達は解放され、各々帰途についた次第である。
超人であるニンジャといえど腹は減る。疲労と空腹で我を忘れた彼女は、たまたま目に映った馴染みの店に駆け込んだ。「おまたせしました」オーダーした特盛のバイオカニ・リゾットが到着するや否やがばりと起き上がり、カニ肉とチーズとコメを機械めいた反復運動で胃袋に送り込む。
ものの数分で皿は空になった。「ごちそうさまでした」日本人らしく合掌したところで、食前の祈りを忘れていたことを思い出す。彼女はペケロッパ教団の信徒であるが、ソウカイヤ入りしてから行動様式が実利優先になりつつある。
「“衣食足りてシツレイを知る”か。世知辛いわあ」平安時代の詩人ミヤモト・マサシがそのようなコトワザを遺したかは定かではない。「ま、ひとまずはお休みだし。何しよっかなー?」独り言を呟き、ンー……と声を漏らしながら女ニンジャは背伸びをした。
ブリッジめいた姿勢になったライトニングウォーカーは、彼女をじっと見つめる視線に気付く。先程のウェイターの少年と、コックコート姿の少年が、何事かを切り出すタイミングを伺っていた。どちらも知らない顔ではない。ウェイターがブルーノ。コックコートがロッコ。ともに非ニンジャだ。
「なんかあった?」席を立つと二人に歩み寄る。「お金ならあるよ? いつもいつもツケで飲み食いするわけじゃ……」ライトニングウォーカーがそう言いかけた時。
「姐さん!」「お願いがあります!」2人の少年は同時にオジギ!「アイエ!?」ライトニングウォーカーは思わずのげぞり、財布からトークンが床へ散らばった。
2.
「メキシコライオン?」数分後。ライトニングウォーカーはコーヒーカップを傾けながら、2人の話に耳を傾けていた。「そうなんスよ。メキシコライオン。カネモチヤクザの間で、飼うのがブームになってるとかなんとか」少年たちは仕事着から着替え、テーブルの向かいに並んで座っている。
メキシコライオンとは、その名の通りメキシコ原産の凶暴な生物だ。手懐けるだけでも一苦労で、エサ代もかかる。「だからこそ、飼うのがステイタスとなるわけで」「あー、ラオモト=サンが飼ってるとか聞いた覚えが……なんか気に入らないやつをエサにしてるとかしてないとか」
ラオモト・カン。ネオサイタマのヤクザの頂点である男の名を耳にした少年達は自然に姿勢を正す。少年達は見習いではあるが、ソウカイヤ傘下のヤクザ・クランの構成員である。ライトニングウォーカーとは護衛として派遣された際以来の付き合いだ。
「姐さんはラオモト=サンに会ったことあるんスか?」「あるよ」「マジで!? すげえ!」少年達は無邪気に笑うが、ライトニングウォーカーは曖昧な顔を浮かべた。任務の報告のために対面したことはあるが、また相対したいかというと御免こうむる。殆ど物として見られた程度の扱いだ。認められれば立身出世も見込めるが、彼の癇に障ったことでニンジャソウル抽出実験などに送られた同僚もいる。
カップをテーブルに置き、話を戻す。「それで、ライオンが何だって?」「そうでした!」少年達はテーブルに身を乗り出した。ランチタイムもとうに終わった店には他に客は居ない。キッチンシェフも外で煙草をふかしている。「うちのオヤブン、もうじき誕生日なんですよ。60歳の」「俺たちガキの頃から世話になってるし、すごいプレゼントを贈りたくて」
(今もまだガキンチョでしょ)苦笑しつつ、頷く。「それで、メキシコライオンをプレゼントすんの?」「「ハイ!!」」どこで飼うつもりだ、エサはどうするんだ、などと言いたくなるのをこらえつつ、ライトニングウォーカーは腕を組んだ。「どうやって調達するのよ。動物園から盗む? それとも他のヤクザから買い取る?」
メキシコ原産の凶暴なライオンがそこら中にいるわけもない。希少で危険だからこそのステイタスだ。ヨロシサンが管理する動物園や、彼らのクランよりも格上のヤクザから手に入れるには、相応のカネが必要だろう。「ハッキリ言って、乗り込んで奪ってくるのはムリよ?」
「わかってます。姐さんにはツキジまで着いてきて欲しいんス」「ツキジ? ライオンなんて売ってるの?」ネオサイタマ最大の漁港都市であるツキジ・ディストリクトは、殺人マグロや巨大なイカなどの取引が合法/非合法問わず行われている。とはいえ無論、ライオンは陸生生物だ。漁港とは関係無いはずだが。
ロッコが言う。「いえ、多分売ってはいないですけど。うちのカシラが、ツキジ・ダンジョンに違法輸入動物を隠してるクランがあるって話をしてて」ブルーノが続ける。「そこにメキシコライオンもいるらしいんス」そして少年達は同時に言った。「「そいつを頂いちゃおうって」」
コーヒーを口に含みかけたライトニングウォーカーは、吹き出すのを必死に堪えた。「そのクランのことはわかってんの?」「ハイ」ロッコがIRC端末を差し出す。「ネコマタギ・ヤクザクランって連中です。ソウカイヤとは敵対関係にある奴らで」「流石に身内に喧嘩を売る真似はできないですし」
ライトニングウォーカーは端末を見た。「ネコマタギ? あー……さっき、カチコミに行ったわ」駆り出された任務の事を思い出す。ソウカイヤへの恭順を長年断り続けたクランは、互いにニンジャ部隊を投入した殺し合いの末、オヤブンの死をもって最期を迎えた。「ショッギョ・ムッジョよね」
少年達は色めき立つ。「マジすか!?」「じゃあ、好きにやっていいってことじゃないですか!」「あんたら、あのクランのデカさを知らずに盗みに入る気だったの……?」クランが健在なら3人仲良く捕まってライオンのエサにされていたに違いない。呆れながら、今一度コーヒーに口をつけた。
さて、どうするか。2人の用意した報酬は、レストランに溜め込んだツケの帳消しのみ。想定される敵戦力はどうか? ネコマタギは可能な限りの戦力を投入するも、滅んだ。逃げたニンジャに忠義を貫いてソウカイヤと敵対する奴がいたとして、ライオンの警備を続けるか? それは無いだろう。最後に自分自身は……実に、ヒマだ。
「……そうね。放っておけば、ライオンにエサをあげる人もいなくなっちゃうだろうし」ライトニングウォーカーは結論づけた。自分を慕う弟分達の頼みだ。引き受けてやるのが、上に立つ人間の務めだ。「行くわ。案内して」2人の少年は顔を見合わせ、歓声をあげた。
3.
2時間後。3人はブルーノの運転するトラックでツキジへやってきていた。「ブルーノ君、あんたトラックの運転ライセンス持ってるの?」「バイクしかないスけど、マッポもこのへんは取り締まりしてませんし」「……まあ、いいけど」ライトニングウォーカーはIRC端末を見ながら言った。
ソウカイ・ネットで調べたところによれば、ネコマタギ・ヤクザクランの活動はほぼ停止状態にある。残党狩りは行われているが、それもクラン事務所に限った話だ。これから向かうツキジの秘密スペースならば関係は無いだろう。
それにしても、だ。「……ツキジってこんなお祭り騒ぎみたいな場所だっけ? もっとこう、生きては帰れぬ人外魔境みたいな感じだったような」本来ツキジに近づく人間は少ない。異様な深さと広さに加えて危険な生物やお尋ね者が住み着き、政府やディストリクトの漁業組合では命の保証はされていない。
それが、トレジャーハンターめいた装備の裏稼業人や見物に来たらしきカタギの人間達、更にはイカケバブの屋台までが見受けられる。「なんかちょっと前にツキジでオーガニック・マグロが大量に見つかったらしくて、ちょっとしたマグロ・ラッシュになってるんですよ」荷台のロッコが身を乗り出し、説明する。
「ツキジで見つかったマグロ……ってまさか」ライトニングウォーカーは眉間に人差し指を当てて、唸った。確かに任務でマグロを探して持ち帰ったことはあった。ラオモトの顔を拝んだのも、その任務の報告としてだ。その過程で……。女ニンジャは頭を振る。あまり思い出したくはない。「関係ない関係ない。誰が困ってるわけでもないし」
今回向かうべき、ネコマタギの占拠区画はマグロ・ハンティングが盛んな区画とは全く別方面だ。「なるほど、結構深いわね」ニンジャでもなければ重サイバネでもカラテ有段者でもない子供が向かうには危険だ。「麻酔銃は調達したって言ってたわよね」「コケシ・マートで買いました。あとアサルトライフルも」
運転席のブルーノはそう言ってシート裏を示す。それを聞いたライトニングウォーカーはため息をついた。「コケシブランドなんか持ち歩いてたらナメられるわよ。あんたもソウカイヤのヤクザなら、もっと然るべきとこで買いなさい」適当な闇市でも、コケシ・マートで売られている値段と同額で高品質な銃器がいくらでも買える。
トラックのハンドルを握るブルーノは、ライトニングウォーカーの腰に下げたハンドガンを横目で見た。LAN直結型のそれは、ケーブルで直結した脳内UNIXが論理トリガを引くことで標的を無慈悲に殺す。名を轟かすフリーランスの殺し屋にも愛用者は多いという。ブルーノはほとんど銃を撃ったことはない。ロッコもだ。
「……姐さんは、人を殺したことが?」「そりゃあ、あるよ? ニンジャなんだよ、わたしは」ライトニングウォーカーはつまらなさそうに言った。ブルーノはその声色に息を呑む。女ニンジャの胸元にはソウカイヤのバッジが鈍く輝く。ニンジャとは伝説上の超人であり、無慈悲な殺戮者であり、そして例外なくサイコパスだ。
初めてライトニングウォーカーというニンジャと出会ったときのことを思い出す。クランの護衛として派遣されてきたニンジャと自称するハッカー・カルトめいた派手な服装の女は、馴れ馴れしく自分たちに話しかけてきたり事務所のUNIXを興味深げに眺めていたりと自由に振る舞っていた。
だが、敵対クランのテッポダマが事務所のドアを蹴破って現れ、オヤブンにチャカ・ガンを構えようとした瞬間。女は音もなくその目前に出現し、チャカ・ガンを握る腕をチョップで切断。ブーツの踵を後頭部に叩きつけていた。ブルーノもロッコも、何が起きたかわからずにぽかんと口を開けていた。
『ドーモ。ライトニングウォーカーです。……聞こえないか』そしてニンジャは、不気味なしきたりのように、アイサツを行った。その声色はブルーノは恐らく一生忘れられないだろう。怪物はテッポダマをオヤブンに突き出すと、IRCで何事か通話し、オジギをして帰っていった。
それからライトニングウォーカーというニンジャや、その同僚であるというニンジャたちとの交友が始まった。彼女が存外付き合いやすい人間であることはわかったが、それでもやはり彼女はニンジャだ。モータルとは、自分たちとは、根本的に違う生き物なのだ。
「……ブルーノ、ガン見しすぎ」ロッコがかけた言葉に、ブルーノは我に返った。ハイビームが照らすトラックの進行方向には何もない。よもや事故を起こしかけたかと安堵した彼は、ライトニングウォーカーの困ったような目線に気付いた。
先程までブルーノはライトニングウォーカーの胸元のソウカイヤバッジを食い入るように見つめていた。その直前には、彼女の腰に下げたLAN直結拳銃を。そしてライトニングウォーカーのバストと腰つきは肉付きがよく、豊満であった。「……い、いや! そういうわけじゃないッス! 断じて!」
「ブルーノ君も男の子だから仕方ないけど……一応、シツレイだかんね?」ライトニングウォーカーは苦笑する。ブルーノは赤面しながら頭を振る。遺伝子に刻まれたニンジャへの恐怖と、若い男に特有の感情が、彼のニューロンでトモエめいて回転する。
そうこうするうちに、トラックは目的に区域へと到着していた。資材運搬用エレベーターにトラックを乗せ、操作する。轟音を上げながら、エレベーターはダンジョンの地下へと潜っていく。
更にいくつものエレベーターを乗り継ぎ、ダンジョンに隠れ住む人間と交渉し、3人のトラックは『B49F』と白いショドーが掲げられた区画へと辿り着いた。「確か、このあたりですよ」ロッコが言うが、IRC端末はとうに圏外。確かめるすべもない。
……だが。「……2人とも、ここで待機。ブルーノ君、麻酔銃貸して」低い声で言いながら、ライトニングウォーカーは手を伸ばしてトラックのライトを消し、エンジンを止める。「ハイヨロコンデー……って、どういうことっすか?」ブルーノは混乱しながらも、小さく声を出した。ロッコも荷台で不安そうな顔をした。
「人の気配……いえ、これはクローンヤクザね」ライトニングウォーカーは言った。2人の少年少年は息を呑む。クローンヤクザは、ヨロシサン製薬が販売している恐るべきバイオ兵器だ。多くのヤクザクランが兵隊をこれに切り替え、リアルヤクザは減少の一途を辿っている。ネンコとソンケイを兼ね備えた昔ながらのヤクザ連隊が、クローンヤクザ達の統率の取れた攻撃の前に壊滅することはネオサイタマではもはや珍しくもない。
ライトニングウォーカーはトラックを降りた。「調べてくる。こんなところに居るからには何かしらの命令を受けているはず。多分ビンゴよ」麻酔銃と自前のハンドガンの具合を確かめながら、ニンジャは言った。「あんた達じゃ勝ち目は無いわ。合図があるまで動かないこと。いいわね?」
2人がこくり、と頷くと、ライトニングウォーカーは音もなくその場から消えた。ブルーノはコケシ・アサルトライフルの銃把を握りしめる。人の心を持たないバイオ兵器に、それを容易く殺すだろうニンジャ。そんなものの前に、こんな玩具のような銃が役に立つわけがない。
「ちくしょう」ブルーノは誰にでもなく、呟いた。
4.
ライトニングウォーカーはコンテナの影に身を隠し、様子をうかがう。クローンヤクザは2人。トラックのエンジン音に気付いたのか、しきりにあたりを見回している。どちらもチャカ・ガンを構え、怪しい影が近寄れば即座に発泡する心づもりだ。
状況判断とプランニングに1秒。そして。「キエーッ!」カラテ・シャウトとともに飛び出し、連続前転を放って手近な側のクローンに接近する。「スッゾ……!」彼は接近する影に意識を向け、それと同時に喉笛をクナイで切り裂かれ、倒れた。
「スッゾコラーッ!」「キエーッ!」ヤクザ・シャウトとカラテ・シャウトが交錯し、クローンヤクザが3点バーストで発砲した弾丸は女ニンジャを掠めることもなくコンクリートに着弾。ニンジャが投げたクナイはクローンヤクザの額に突き刺さり、彼を殺した。
「……撃たせちゃったか……未熟ね」先の抗争では、あるニンジャはクローンヤクザ半ダースをカラテ脚の一振りで殺し、あるニンジャは半ダースをスリケンの一斉射で仕留めた。クローンヤクザも所詮はモータル。1アクションで1人を殺す程度では、ニンジャとしては半人前もいいところだ。
強くなるには、カラテを鍛えるか、サイバネを入れるか……いつぞやも同じようなことで悩んだ気がする。ライトニングウォーカーはクローンヤクザの死体を確認しながら考える。クローンヤクザは、ネコマタギ・ヤクザクランのバッジをつけていた。ならば……。
「GRRRR……」その時、低い唸り声が彼女の鼓膜を揺らした。ライトニングウォーカーは思わず飛び退き、クナイを構える。消えかけた非常灯のみが照らす一室に、巨大な檻がいくつも並んでいる。とぐろを巻くバイオアナコンダや、爪を研ぐバイオパンダの目が檻の中から彼女を睨みつけていた。
そして、彼女のニンジャ視力は先の唸り声の主を捕捉した。それはゆっくりと、檻の外へと歩いてきた。先のクローンヤクザの銃弾が偶然にも檻の錠前に命中し、破壊。閉じ込められていたそれは、こうして自由への一歩を踏み出したというわけだ。雄大なたてがみを持つ、メキシコライオンだ。
「これもまたサイオー・ホースよね。いや、サイオー・ライオンかしら?」捕獲対象が自ら目の前に現れたのだ。鍵をこじ開ける手間が省けたと、ライトニングウォーカーは思うことにした。目の前のライオンは腹を空かせているらしい。クローンヤクザの筋張った肉よりも、豊満な女の柔らかい肉がご所望のようだ。
「GAAAAAAAAA!!」メキシコの王者は、強靭な後ろ足でコンクリートを蹴り、挑みかかった。爪を叩きつけ、喉笛を食いちぎり、暖かく柔らかい臓物で腹を満たすために。
BLAM!
火薬の弾ける音が響き、ズン、という落下音が響く。ライオンの額には、麻酔弾が突き刺さっていた。全身を麻酔薬が駆け巡る。半日は動けまい。「わたしなんか食べたらお腹壊すよ? 仲間内じゃあ腐ってるだのなんだの言われて……ってそれはいいか」
軽口を叩きながら女ニンジャは、ライオンの胴体下から這い出る。「はぁー……未熟だわ」目測を見誤った。ライオンの爪と牙こそ避けたものの、麻酔を受けたライオンはそのまま彼女の元へとのしかかる形になった。「あの子達に見られたらソンケイとやらがどこかに吹っ飛んじゃうわね」ライオンの状態を確認し終えると、2人が待つトラックへと足を向ける。
なにはともあれ、これで目的はほぼ終了だ。あとはトラックにこのメキシコライオンを積み込み、持ち帰るのみ。ライトニングウォーカーは鼻歌まじりに、ライオンのそばを離れた。
SHHHH……。
メキシコライオンだけが残された静寂の中で、不気味な『声』が響いた。
《後編へ続く》