元想細片/150629

●山羊の怒り(風)

 昔のこと。村の入り口のそばで山羊の親子を見かけた少年が、その山羊を捕まえようと山羊を追いかけ、いつしか村はずれの険しい岩山へと踏み入っていた。山羊の親は慣れた様子で岩山の不安定な足場を飛びはねるように山を登っていく。子山羊はおそるおそる岩から岩へと飛び移り、懸命に親の後を追いかけていた。
 このままでは山羊に逃げられてしまうと悟った少年は、子山羊が岩を飛び移ろうと足を踏みこんだ瞬間に、大声をあげた。それに驚いた子山羊は足を踏み外し、そのまま岩山の崖を滑り落ち、死んでしまった。その子山羊の死骸を持ち帰ろうと少年が近づくと、それまで事の顛末を見守っていた山羊の親が大きな鳴き声をあげ、数回ひづめを踏み鳴らした。
 その途端に、山肌には非常に強い突風が吹き荒れ、不安定な岩を幾つか転がり落とした。その1つが子山羊を捕まえようとしていた少年の腰に勢いよくぶつかり、少年はそれきり歩けなくなってしまった。
 これが、とある山間の村に伝わる物語である。現にこの話が伝わる村のすぐ側には険しい岩山があり、そこは年に数回、岩を転がり落とすほどの突風が吹き荒れるため、地元のものは滅多に近寄らない場所になっているのだという。

※この「 #元想細片 」は、架空の品物を扱った百科事典風の読み物です。
 詳しい説明はこちらのページをご覧ください。

次回の更新は「ゆ」で始まる花です。


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