頭痛
突然、目の前の人の頭が破裂した。
それは風船が割れたかのごとく。
スイカ割りのスイカのごとく。
いとも簡単に、頭部から中身をぶちまけたのだった。
阿鼻叫喚な世界は一向に訪れることなく、淡々と人々は行き交う。横目も見ず、終わってしまった事象は背景と同化する。まるで、日常の一部であったかのように。
歩いてきた人は、どんな顔をしていたのだろうか。地面に散った残骸では、性別も判別出来ない。きっと明日には、残った証拠も薄汚れた染みの一つになる。
痛みをずっと抱えながら、過ごしていたのかもしれない。
それでも、ぎこちない平常心を貼り付けて、歩いていたのだろうか。
誰1人として、歩みを止めるものは居ない。
世の中の正義とは、無かったことに振る舞うことではなく、気にも留めないことだと悟る。
どこかの誰かだったものは、何も語らない。未だ原形のある、首から下の身体をピクリとも動かせない。体内から噴き出した残骸はもう意味を成さない。
こんな普通の現象に、眉を顰める人もいない。変わらず社会は動いている。
これが異端だと気づいてはいけない。
激しくなった鼓動を落ち着かせるよう、私は静かに深呼吸をして歩き出した。
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