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神の自由と科学的論理とインターネットアカウントの話

一部の神は自由を持たない「現象」であって、ある種妖怪のような存在とすら言える。大きな力を持ち、人間に(その気はなくとも)干渉してくるが、ここに気まぐれが発生することは認知されない。こういった神の社会構造中の特徴として、理解の及ばない、大きな力(例えば天気、或いは災害や病気)をコミュニティ内の汎ゆる人間の「責任」に転嫁する効果を持つ。彼らには「気まぐれ」のようなことが起きればその理由が考え出され、至らなかった自分たちに責任が回帰していく装置なのだ。文字にすると自然を掌握する全能感を作り出しているようにも見えるが、そこには畏怖がある。「大いなる論理性」が存在していて、それを我々が理解できていないだけ、という思考は少し科学的探求に似ている。

ここに続く話として、「(科学的)論理性」というものがどのような立ち位置にあるか、という話をしたい。
自称ロジカル系、もっと激しい言い方をすれば科学的論理信仰、かくいう私も恐らくその一派だが、これは一種の個人の主義に過ぎない。それは「科学が必ずしも正しくはない」という文脈でもそうだが、それ以前に「人一人が幸福になるために必ずしも論理性は必要とされない」という話でもある。(別に科学を否定したいとか、似非科学を普及させたいとかいう意図はない。)弱い主張をすれば、我々が理性的に判別しうる「因果」や「論理」という構造は、現実的な問題として「論理化」できる範疇が人間の脳ではごく一部に限られるという側面がある。資本主義は突き詰めれば汎ゆる素晴らしい文化的体験をもたらすかもしれないが、現実にはNHKのような囲われた箱庭がないと提供することのできない体験が存在している。「決して到達できないほどの過程のある理想化された現実」を目指すのは必ずしも正しさではないのである。或いは、論理性という手段を志向した科学分野ですら、なにか「確からしい」前提を置いたものである、という言い換えもできる。
強い主張が許されるなら、そもそも論理性とは「手段」に過ぎず、この方式を採らない人を無意識のうちに「弱い人間」だと思うことは正しさではない、ということを述べたいのだ。多様性の中に「論理」を信望しない人が居てもいいし、そういった人を嘲笑して排他することは、理解を試みることより幾分非生産的である。

※話は逸れるが、ロジカルハラスメントというのも本来はここに根ざした考え方として捉えられるのではないかと思う。卓越した論理を主張するのは手段であり、相手の/への理解から必ずしも近くはない。エスペラント語話者ではない人にエスペラント語を強要するのはハラスメントだろう。
※現代人における 「頭のいい人」とは、科学的論理信仰における「聖職者」の役割と考えることができる。かつてあった「神の御心を理解している人」を尊敬して言うことに従うような風潮と、「頭のいい人」の言っていることを理解の程度に関わらず飲み込んでしまう風潮は同質のものであると言える。

ここまでの話の裏テーマは、実は「体感的人権」だった(法制度上どうという話でなく、我々が対象にに人格が/人権が存在するのだと感じていること)のだが、この話の〆にインターネットアカウントの話をしようと思う。かつて、2chを代表とした掲示板(ぁの人は申し訳ない)では討論型コミュニケーションが卓越していた。(「問題解決型」という名前で男性的なコミュニケーションを紹介されることがあるが、似たような分類をする気でいると思っていてくれて良い。特に本論に男性/女性は関係ない。)対して、明確にアカウント制度が始まった(特定自体は掲示板時代から不可能ではなかった)頃、例えばTwitterを例に出すが、から、共感型コミュニケーション(女性的なコミュニケーション)が卓越するようになった。勿論無くなっているわけではないが、「炎上」という言葉の通り、比較的忌避される傾向にあるのは間違いないだろう。

※念の為補足しておくが、男性型と女性型はどちらが優れている問ことはない。議論する上では男性型のほうが優位かもしれないが、コミュニケーションツールとして見るなら女性型のほうが優れていると思う。

これを、匿名性という観点で整理したい。つまり、匿名的な環境においては相手の「体感的人権」が発生していなかったため討論型コミュニケーションが発生し得ていたが、アカウント制度が我々に「体感的人権」を復活させ、匿名性が低くなった。根本的に弱い繋がりであるインターネット環境も手伝って討論型コミュニケーションが淘汰され、共感型コミュニケーションが広く普及したのではないか。文にすると変なことを話しているような気分になるが、別の言い方として、『討論型は「強い」コミュニケーションで人を傷つけやすいから、倫理的課題が出たときに淘汰されていったよね』みたいなニュアンスもある。
この話はいずれVTuberコミュニティについて話すときに引っ張り出そうと思うので、備忘を兼ねて。

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