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加害者

メンクリに行った。
夜勤だから、昼間出かけると体調を崩しやすい。
帰宅してすぐ眠った。
目覚めると母が帰っていた。
「今日寝過ごしたでしょ」と言われた。
ぼくは事実を話した。
「えー。嘘だぁ。なんで嘘つくの?」
ぼくがこの世で2番目に嫌いな言動。
明らかに、嘘つきの方が生きやすい社会で、しかし比較的正直に生きてしまう性分だからメンクリに行く羽目になっていると言うのに。
脳味噌が強張った。
怒りがぼくを壊していくのが分かった。
ゴミ箱を逆さにして、ぐちゃぐちゃになった領収書を突きつけた。
「…だって寝てたから」
母は悲しそうだった。
「なんで嘘だと思ったの」
「ごめん…」
何秒か、うるさいほどの沈黙が鳴った。
ぼくは伝染する鬱の性質を思い出し、この瞬間、自分が加害者となったのを悔いた。
母はもう居なかった。
実際、彼女もいつか死んでしまう。
最大の罪を犯してしまった。
それを鬱病のせいにできたら良かった。
キッチンに独り、ゴミ箱を立てた。

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