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優しい人よ、剣を持て。

「優しい人ほど不幸になっていくシステム」
ああ、資本主義のことです。

細路地にて。
赤ちゃんを抱いた男が前方からやってくる。
僕は歩速を落とし半身に構える。
彼は堂々たる振る舞いでツカツカと。
そうしてすれ違い様に僕だけが会釈する。
「あ!しまった!」と、自らの過ちに気づく僕。

僕には「子は国の宝」という右翼的発想がない。
単に、遺伝的連続体の断片としか見ていない。
(哀しいかな、「子持ちは周囲から親切にされて当然」という強者の遺伝子が、また一人分この世界に増えたわけだが)
……とは言え、子どもが嫌いなわけでもない。
かつて児童クラブに勤務していたほど、理解と耐性がある。

弱者たる僕は、当然、強者が嫌いだ。
ときに、強者は弱者の仮面を被っていやがる。
「あ!しまった!彼も強者だったのか!」
それと対峙するとき、背中を百足が這う。
しかし戦わねばならない。……戦うべきだった。
なぜか?

僕が彼と同じ態度で歩き続けたらどうなっただろう。
きっと世界はわずかに、弱者の輪郭に沿って曲がった。
僕を生きにくくさせているのは、他ならぬ僕の良心だ!
ああ、これは幻想だ、ひどい洗脳だよ。
倫理観や美意識に支配された糸繰り人形。

実に困った!まだまだ個人主義を磨かなくちゃ。
個人主義の本質は、愛だとか正義だとか、甘ったるい幻想の砂糖水が、この世界のどこにもないという事実を一つ一つ、真に、理解していくことに他ならない。
果てしなく孤独で、同時に、この上なく誠実な営みだ。

僕は、僕に保証する。
それだけが弱者の持ち得る唯一の剣だ。
剣だけじゃない。銃にも矢にも、将又、盾にも鎧にも姿形を変える思想。

僕はいつか、僕のなかに軍隊を作るよ。
優しい人、君はどう?

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