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マリースメックワンマンライブ『全部、好き勝手』レポート

2022年9月22日、埼玉北浦和発スリーピースバンド・マリースメック(Vo/Gt. 矢﨑史也、Ba. クワエコウスケ、Dr. オオエヒデアキ)が自身初のワンマンライブを開催した。場所は、2021年初めて自主企画を打ったライブハウス「SHIBUYA CLUB CRAWL」。思い入れのあるこのライブハウスで彼らは1年越しに再び自主企画を打った。このワンマンライブは1stアルバム『TADE』のレコ発として開催される。フロアは今回も観客でぎゅうぎゅうだ。
タイトルにある通り、観客は自由に、"好き勝手に"、マリースメックのライブを楽しんでいた。

公演フライヤー

SEの音が流れ、ざわつく会場が一気に静まる。3人が入場する。静かに始まったのは初めの一曲は『朝の帳、夜の靄』。初めから切ない気持ちになり、心揺さぶられる。「全部好き勝手にやります。全部好き勝手に楽しんでいってください。」と呼びかけた矢﨑に応えるように観客が拍手を送る。盛り上がり始めたフロアを、続く『暮れる』で一気に上昇させる。曲が終わるとクワエがベースから出ているような音とは思えない不思議な音を奏でる。混乱した頭を『隣の蝶々』の怪しげな雰囲気が包み込む。観客はマリースメックの世界観に引き摺りこまれていった。

その後に初めてのワンマンに際して、矢﨑が挨拶をする。来てくれた観客に対してお礼を述べ、ワンマンへの思いを軽く語った。

美しいアルペジオに会場の拍手が静まる。『香』だ。優しいバスドラムの音とベースの音が組み合わさっていくと、突然轟音のギターが唸り出す。体に直撃する音に圧倒されていると、ふとまた静かなアルペジオにもどり、『残り香』が始まった。朝方を思わせるかのような色の照明で照らされたステージは幻想的だ。どうにもならなかった過去を回想し、やるせなくなった気持ちを優しい歌声で儚く表現する一方で、歪んで輪郭を失ったギターの音はその気持ちに隠れた怒りを表すようだった。

そして、そのまま大音量のギター、低音が波打つベース、荒れ狂うドラムが怒りを爆発させるように『orihime』を演奏し始め、それに伴って矢﨑の歌声も大きく変化する。優しさで溢れていた声が失われ、太く深みのある声が響き渡り、怒る陰湿な人間に豹変した。先ほどの優しい人間の化けの皮が外れ、ダークな部分がボロボロと姿を見せるようだ。

曲が終わるとすぐに歪んだベースが一定のテンポで鳴り始めるが、音階が聞こえず、打楽器かのような振る舞いを見せる。矢﨑の表現する人間は正常な心を取り戻し、残響の広がる伸びやかな声で歌う。青い照明とスモーク、メンバーの影が霧の中に消えるように見える。

矢﨑は恥ずかしそうにお礼をいい、サポートメンバーのいよたとわをステージに招く。リリースパーティとしてのワンマンだったため、せっかくなら4人でやろうという気持ちがあったようだ。「2020年の4月に作った『Old living』という歌を聴いてください。」と言って、アコギのブリッジミュートから曲が始まる。この曲では、矢﨑は少年のような弾んだ歌声で歌った。そこに可愛らしいいよたの歌声が綺麗に重なる。休息を与えるかのような軽やかな演奏に観客の体は小さく揺れる。

全曲とは打って変わって、ギターのカッティングとシンセベースの低音が目立つ、荒々しい雰囲気の『Fabulous Funky Fun-club』が始まった。矢﨑の表現していた少年は少し大人びて、いよたの声とのハーモニーも先ほどの『Old Living』とは違った雰囲気を醸し出していた。

矢﨑はサポートしてくれたいよたに感謝し、ステージから送り出す。
「今日は”全部好き勝手”というタイトルなので、昔の曲をやろうと思います。」と言って、始めたのは『夕刻、ホコリの舞う部屋』。これは矢﨑が高校生の時に作った曲で、マリースメック名義ではない。しかし、マリースメックとして演奏とするこの曲はその頃から大きくレベルアップしたものとなっていた。静かな部分と激情的になる部分の緩急が聞く人の心を揺さぶる。

そのまま続いたのは『エブリナイトモーニング』。ステージ上のメンバーはスモークと白い光で霧の中に隠れてしまったかの様だ。この曲で矢﨑はまた異なる物語の主人公を歌い始める。ぼやけた楽器の音が曖昧な感情を表し、矢﨑の表現に追随する。ファズギターの大きな音が激しく降る雨を思わせ、音の雨がフロアに振りかかった。その迫力に、観客の拳が突き上がる。そして、キーンと響くギターの音が消えると同時に前半が終了した。

15分のインターバルを終え、後半はアコギを持った矢﨑の弾き語りから。『Introduce』という短い曲を演奏する。スポットライトが照らすこの姿が彼の等身大の姿だろうか。そのまま『徒然』を1人で弾き語る。着飾らない様子でひたむきに音楽を届ける姿がそこにあった。「本当に集まってくれてありがとうございます。」と礼を述べ、浮遊感のある音楽とオレンジ色の眩しい光に包まれたメンバーが記憶の中の夕焼けを呼び起こす。『Sunny Side』だ。そんな暖かい空気を突き破るようにテンポアップし、感情任せに歌う様子が思春期の少年の心を模すようだった。

次に歌うのは『言いたいことしかなかった』。タイトルの通り、「言いたいことしかなかった」と憂うように歌うが、その歌声に先ほどのような荒々しさは乗らない。少年が精神的に一歩成長したような物語が見えた。キンと鳴るギターから、『THINK!THINK!THINK!』が始まり、ギターやベースから出ていると思えない効果音のような音、ディレイエフェクターで絡み合った音がこの曲への理解度を上げていく。思考を聴覚化したような、聞いていて飽きない曲だ。

そのまま歪んだベース『KK210』の始まりを告げ、フロアでは歓喜の声が上がる。音楽的にも詩的にもマリースメックの闇の部分、かっこいい部分が凝縮された1曲だ。最後の2曲は1stEPから。聞き慣れた『plot』を体を揺らしながら受け止める。「僕たちだけを見ていてください!」と、いつも控えめな矢﨑が声を張り上げ、目の前、フロアいっぱいに集まった観客に伝えた。

そして、そのまま演奏は『WARM NIGHT』に移る。笑顔でベースを鳴らすクワエがオオエと向き合い、楽しそうに演奏した。煌びやかなギターな音が、都会の光を想像させる。最後は3人で向かい合い、笑顔でかき鳴らした。

アンコールでは公演タイトルままの『全部、好き勝手』という新曲を。静かに弾き語る矢﨑の声は今日一番の優しい声をしていた。ゆっくりと体に染み込むバラードはテンポアップし、勢いづく。「やってよかったです!ありがとうございました。」と一言、はじまったのは『むかしむかし』だ。エンドロールのようなしみじみとした気持ちで長かったワンマンは幕を締める。

彼らの音楽には一つ一つ物語があり、そのそれぞれを表現する歌と演奏があった。「いろいろな曲を作る」というモットーがその物語の多様さを生んでいるのだろう。聞くひとの想像力を膨らませてくれる、その世界観がより広がっていってほしいと願う。


2022.9.22 『TADE』リリースパーティ
マリースメックワンマンライブ「全部、好き勝手」
セットリスト

セットリスト前半
セットリスト後半

最新楽曲情報
1st ミニアルバム『TADE』

『TADE』ジャケット写真

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