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スタートアップは業界団体を立ち上げるべきか?

治験オペレーションのDXを実現するため、産学官からキーパーソンの方々にご参集いただいて日本CTX研究会という「業界団体」を、三菱総合研究所の皆様の力を借りて2023年に立ち上げました。
*CTX = Clinical Trial Transformationの造語

ただでさえ事業に忙しいのにスタートアップが業界団体を立ち上げる意味ってなんだろう、と疑問に思われた方も多いと思います。

様々な立場のステークホルダーの方との合意形成を通じて産業の仕組みが進化していくような領域では、業界団体を立ち上げるというアプローチが有効な場面があると個人的には考えています。

本記事では業界団体の立ち上げの経緯、私が何を考えていたのかを整理してみます。規制業界や既得権益が強く残る業界で事業をしているスタートアップの方に、少しでも役に立てればと思います。(ヘルスケア領域が既得権益が強く残る業界という意味ではありません)

そもそも業界団体とは何なのか

業界団体として最も有名なものの一つが、経団連でしょう。業界団体は大企業が加盟している団体、というイメージが強いのではないでしょうか。ヘルスケアの領域でも、製薬協やCRO協会などが積極的に活動されています。

最近はスタートアップが業界団体を立ち上げる事例が増えてきたように感じます。例えば、ヘルスケアでは日本医療ベンチャー協会、金融ではFintech協会、民泊やライドシェアではシェアリングエコノミー協会、などです。産学官を横断して業界の発展のために議論を深めていくことが大事な領域で、こうした動きが活発になっているようです。

私が業界団体の立ち上げの際に期待していた役割としては「調整」と「推進」の2つがあります。調整とは、ともすると競合となる企業たちが集まり、業界のあるべき方向性について認識をすり合わせられることです。推進とは、その方向性を監督官庁の担当者にも納得してもらい、一社では小さな声となってしまうところを業界の声として届け、社会を良い方向に変えていくことです。

よくある業界団体は、同じ業種の企業や団体を束ねたグループであることが多い印象でした。規制当局はあくまで業界団体から働きかけられる受動的な存在であり、一緒に議論を深めていくチームではありません。一方で、治験の領域では、事業会社は医療の専門家ではありません。規制当局の方々のみならず、医療機関の方々とも認識のすり合わせが必要です。ゆえに、産学官横断で一つのグループを形成し、その中で双方向に議論しながら進めていくことが重要であると考えていました。

立ち上げの経緯

日本CTX研究会の目的を、プレスリリースから引用してみます。

https://www.mri.co.jp/news/press/20231002.htmlより引用

この業界団体の立ち上げに三菱総合研究所さんに関わっていただけたのは、とある病院の先生がきっかけでした。そこから1年半をかけて正式な設立に至ります。重要な出来事について、順番に触れていきます。

Step1:出会い

三菱総合研究所のチームの皆様との出会いは2022年の初め頃、本当に偶然、かつとても幸運な出来事でした。全く別のトピックで病院の先生とディスカッションしている際に、たまたまミーティングに参加いただいていたのです。もしかすると、お繋ぎいただいた先生は、こうなることを見通していらっしゃったのかもしれませんが。

そもそもスタートアップ1社だけで業界団体の立ち上げを進めていくことは不可能です。経験豊富なシンクタンクの皆様のノウハウに頼ることが近道です。例えば、こんな経験をお持ちの方が団体の立ち上げ準備チームにいれば、とても心強いと思いませんか?

  • その業界で監督官庁から依頼を受けて、ガイダンス策定のようなルールメイキングに関わったことがある

  • 官公庁からの委託された調査プロジェクトの経験が豊富で、技術の進化がどう社会・規制の変化に影響を与えるべきか深い考察をされている

  • 産学官それぞれの立場の方との協働プロジェクトの事務局の経験が豊富で、互いの言語の違いを前提にプロジェクトを前に進められる

今回ご一緒した三菱総合研究所さん以外にも、こうした取り組みでは、私の古巣のMcKinsey、BCG、デロイトなどのコンサルティングファームのお名前を耳にしたことがあります。

Step2:方向性のすり合わせ

三菱総合研究所さんとは、タイムラインと中身の2つの観点で方向性のすり合わせを進めました。協議を始めたのは2022年の8月下旬でした。

準備には十分な時間をかけて進めていくことが通常です。しかし、厚労省は、2022年の夏頃からガイドラインの検討を始め、2022年度内(2023年3月まで)に発出することを予定していました。そうした業界の盛り上がりと足並みをそろえた動きをとることが重要です。

三菱総合研究所の皆様には無理をお願いし、通常よりも半分以下の期間で立ち上げることを目指しました。いきなり本会を立ち上げるのではなく、まずは準備委員会を立ち上げるという段階的なプロセスをふみました。まだ決まっていないことが多くあったとしても、早期に業界のプレゼンス向上できることを目的としていました。ここで、2023年4月に準備委員会が発足、10月に本会が発足というスケジュールが決まりました。まだ、このタイミングでは会の正式名称も決まっていませんでした。

中身については、まだ現在進行系で協議を進めていることも多いため、詳しくは触れません。一つだけこだわった点として、「業界横断」をキーワードに議論を進めていました。患者、医療機関の医師や支援スタッフ、製薬企業やCROなど担当者というように、様々な立場の方が治験に関わります。それぞれの方の想いや懸念を十分に理解したうえで、適切な社会実装が進んでいくように中身を詰めていきました。

Step2のゴールは、準備委員会の立ち上げメンバーにお声がけするための趣意書づくりです。おかげさまで、無事、短いタイムラインでつくりあげることができました。

Step3:準備委員会へのお声がけ

初期メンバーへのお声がけは2023年の年明け頃から進めていきました。泥臭く、もともと繋がりがありお世話になっていた方々に一人ひとりお声がけをしました。MICINからお声がけした方が、全体の7割くらいです。

熱い想いに共感してくださる方々で、もともと距離感の近い方に絞って、合計で10名程度の方々にご参加いただけるようになりました。「力を貸してください」「一緒に社会を変えていきましょう」とストレートに正直に相談してみるのも手かと思います。

お声がけの場面では、シンクタンクさんよりもスタートアップ側のほうが、価値を発揮できる場面が多いかもしれません。仕事上のパートナーとしてお世話になっている方が多いためです。

一方で、特定の業界や企業に偏りすぎず、業界団体としての中立性を担保することも重要です。MICINは、準備委員会の発足までは前面に立って動きを推進しつつ、正式な会の設立以降は三菱総合研究所に前面に立っていただけるようにご相談をさせていただきました。下記がMICINとして前面に立って出した最後のプレスリリースです:

Step4:準備委員会での方向性のすり合わせ

準備委員会は2023年の4月に発足しました。ここでは本会を見据え、議論のスコープを絞り込んでいきます。

業界全体へ働きかけをしようとすると、論点が多岐にわたり成果物を具体に設定することが難しくなってしまうことがあります。成果が出ずに途中で雲散霧消してしまった団体もたくさんあります。それを避けるため、1年毎に何を成果物とするのかを具体的に定義し、準備委員会で議論しました。

もちろん参加者ごとに思惑はあります。必ずしもスムーズにすり合わせが進むとは限りません。初期メンバーの方たちのお顔を想像して「志を持って業界を良くしていこう」という会話が成り立つかどうかがカギになります。加えて、いつもお世話になっている気心のしれた方々がどのくらいいるかも重要です。腹を割って議論ができた準備委員会のメンバーの皆様には感謝がつきません。

会の継続性を担保したり、成果物のドキュメントを作成するためには人的工数が必要です。その担保のため参加費をいくらに設定するかも、よく議論にのぼります。米国のようにあまりにも高額に設定すると日本では参加者が集まりづらい印象です。ですが、無料とするよりはある程度の金額を設定しておいたほうが、結果的にとりうる打ち手の選択肢もひろまります。HP作成などにも費用が必要ですし、有識者としてヒアリングに協力頂く方への謝礼なども必要になります。費用支払が伴うことで、参加者にとって参加継続する意義があるのか精査いただけることにもなります。

Step5:本会の設立に向けたお声がけ

準備委員会で会の方向性が定まれば、2023年10月の本会の発足を見据え、仲間づくりが始まります。

業界での経験が豊富で発信力のある企業や団体の方々にお声がけを進めていきました。業界活動は義務でもなく、費用も発生するため、一定の割合は断られる覚悟をもって幅広にコンタクトすることが重要です。創設メンバーとしての参加が難しくとも、意義のある成果を出していけば、後ほど入って頂けるようになることもあります。団体を育てていく、という発想も必要になります。

無事メンバーが集まり、立ち上げができればそこからは中身の議論になります。月に1-2回、2時間程度のミーティングに出ることが、事業責任者の時間の使い方として適切なのか、議論にあるポイントでしょう。個人的には、少なくとも立ち上げ期は誰かに任せるのではなく事業責任者自身がコミットすべきだと思います。そこでの議論を通じて業界の方向性が決まっていくからです。

おわりに

かなりニッチなトピックでしたが、スタートアップとして業界団体の立ち上げを考えられている方にお役に立てればと、弊社の事例を共有させていただきました。

そんなこんなで、MICINの治験事業では単純にプロダクトを作って、サービスを提供して終わりではなく、業界の中長期のあるべき姿も考えながら、事業をつくっています。そんなニッチでディープな領域にて事業開発に関わりたいかたを大募集中です。

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