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「フィリップ・モリス、紙巻たばこ日本撤退」が日経新聞1面に掲載される事情を考える

少し古いドラマをやアニメを見ていると、怒り気味の男性の足元に大量の煙草の吸殻が落ちているという表現を目の当たりにします。今の価値観でこの光景を見ると非常識極まりない男だという印象を抱きましたが、私が幼少の頃は煙草の吸殻が落ちているというのは日常風景でした。子供の好奇心から吸い殻を分解してみたりしたものですが、今思えば何とも不潔な行為です。大量の吸い殻というのは即ちそれほど多くの時間を費やしたという意味であり、あるいは高いストレス状態であるという意味でもあります。足元に大量の吸い殻を落とした男性のもとに「ごめん」と言って女性が遅れてきて、男性が「おせーよ」なんてぼやきながらデートに出かけるなんて表現は割と一般的だったかと思います。

日経新聞の朝刊1面に『フィリップ・モリス、紙巻たばこ日本撤退』という記事が掲載されていました。「マルボロ」や「ラーク」を販売する同社が10年以内に国内における紙巻たばこの販売から撤退するそうです。代わりに加熱式煙草であるアイコス(IQOS)に注力するらしく、CEOのヤチェック・オルザック氏は日経新聞の取材に「日本で10年以内に煙のない社会を実現する」と表明しているそうです。紙巻煙草に慣れ親しんでいる方も少なくないと聞きます。そんな方々にとっては残念な流れなのでしょう。しかしながら、これが日経新聞の1面に掲載される性質の記事なのかは違和感がありました。

煙草を吸わない立場からすると喫煙者は全員が加熱式煙草に移行すればよかろうと考えがちです。簡単に調べてみたところ、そんな簡単な話ではないようです。加熱式煙草の場合は起動して吸えるようになるまで20秒から30秒ほどかかるらしく、火をつければすぐに吸える紙巻煙草と比べたらストレスを感じるそうです。加えて、加熱式煙草は本体が重いので咥え煙草もできなくなります。作業をしながら煙草を吸いたい人にとっては、死活問題です。そんな事情からなかなか移行しきれないという話を知ると、フィリップ・モリスの判断は挑戦的であり、経済新聞の1面に掲載されるのも理解できます。

嫌煙家の私としては言わずもがな歓迎する流れです。煙草が槍玉に挙げられる点は幾つかありますが、私は特に匂いが嫌いです。単純に臭いと感じますし、うっかり副流煙を吸うと咳き込んでしまいます。歩きタバコをしてる者に水をぶっかけていい条例があったら待ち構えてでも実行したいくらいに嫌いです。それゆえに紙巻煙草が減って加熱式煙草が主流となっていく流れは、嫌いな煙と直面する機会が減るので嬉しい気持ちです。

足元に大量の煙草の吸殻が落ちている表現が一般的だった昭和の時代と比べたら、煙草の扱いは随分と変わりました。吸い殻は携帯式の灰皿に捨てるように促され、道端で煙草の吸殻を見るのは稀です。分煙も進み、禁煙となっている場所の方が多くなりました。煙草にかかる税金も高くなってきています。そして加熱式煙草へのシフトも実質的には強いられるようになってきそうです。煙草を販売する事業者としてもこの流れに沿った事業展開をしていかなければならないのでしょう。

私は嫌煙家なので対岸の火事ですが、愛煙家の方々には気の毒でしかありません。楽しみを制限されるのがどれほど心苦しいかは、いま多くの人が経験しているとおりかと思います。


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