ラッコが手を繋いで寝ることについて

ラッコは手を繋いで寝る。生物学的には、仲間とはぐれないためだ。

僕たちはいささか、因果関係を求めすぎているように思う。りんごが木から落ちるのは重力のためだし、猿が木から落ちるのは、技量的な失敗と重力のためだし、ぼくが木から落ちるのは木登りが苦手だからだ(特に苦手でも得意でもないが)。

だが本当にそうだろうか。もしかすると、りんごが木から落ちるのはぶらさがっているのに疲れたからかもしれない。猿が木から落ちるのは落ちてみたかったからかもしれない。つまり、ぼくが言いたいのは、はっきりした科学的な因果関係なんていらないんじゃないのかということだ。

ラッコだって、さびしいから手を繋いでいるのかもしれない。「かもしれない」で充分なのだ。
ラッコは手を繋いで寝る。それだけでいいのだ。因果関係なんて蛇足にすぎない。それが判明したところで、知の蓄積が塵一つ分増えるだけだ(塵を一つと数えるのが正しいのかはわからないが)。

「仲間とはぐれないために」がつくだけで、ラッコが手を繋いで寝ることの微笑ましさが少し減ってしまう気がする。空を見上げたら、予鈴も暗示もなく、まるでりんごが木から落ちるように、空に月が二つあるような世界。そんな世界だったら、もう少し楽しいかもしれない。

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