8月

それは丁度、太陽が天頂から傾き始める頃だった。家路まで殺風景に延びるコンクリート上で、よく熟れたみかん色のリュックサックは、恰も私の視界への飛び込みを切望しているかのように非常に映えて見えた。それを網膜で捉えた瞬間体は硬直し、早鐘が激しく鳴り響いた。
思わず、息を飲んだ。
それがあまりにもあの人の所持しているものと類似していたからだ。もしかしたらあの人かもしれない。期待を胸に、思わず駆け出した。

コンクリートの灰色を手繰り寄せるように近づけば、それは見覚えのない背中で、立ち尽くす間に空は雲に覆われていた。淡い期待は汗となって溶け出し、短く切り揃えた前髪が額に張り付いた。嘲笑するかのような蝉の鳴き声が耳を突き、夏を疎ましく思った。もう夏なんて来なくていい、もう二度と。