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賭博者

俺は5000円だけ握りしめ雀荘へ向かった

あの雀荘は箱になったとしても5000円しか取られない

つまり半荘はできるのだ。
うまくいけばもう1回くらいはできる

もしかして
チップの支払いがあればマイナスになるかもしれないが

借りればいいや
どうせこの前1万借りたばかりだ

いくら借りても同じだろう

打ちたくてたまらないのだから仕方ない

そんなヒリヒリした気持ちで卓についた

常連客が一人、あとの2人は店の人間。

一人は店長、もう一人は若い店員。

東場2局 店長の親番。

「リーチです」

親のリーチ。ここは振り込めない。

安全牌を切りながら、手を降りていく
ただ、もう10巡目、安全牌がない。。。。

わからない。。。

手牌に1個だけ浮いている北の牌

これは通るか?いやわからない。

でも、これしかない。

俺は北を場に捨てた

「ロン!チートイドラドラ裏も乗って跳満のチップ二枚です!」

やられた。

もう金がない。

4位で終っても支払えない。

結局、箱下にはならなかったが、チップと支払いで5800円の支払い

「すまん、金なくて、貸してくれないか?」


そう言って俺は店長に哀願した

「いいですよ。この前貸した分に上乗せしときますね。とりあえず1本」

そう言って店長はレジから1万円を店員に持ってこさせた

「楽しく遊んでくださいね」

俺は結局、その1万円すらスってしまい、早めに店を出た。

俺にはほかに借金があり、もはやどうにもならない状態だった。

その2か月後、俺は自殺を計り精神病院に入院していた

入院中に病院のカウンセリングなどをしてギャンブルから足を洗ったつもりだった。

病院を退院してしばらくは家で大人しく過ごしていた

でも

毎日、仕事と子供の世話で何もかもがつまらなかった。

あのヒリヒリした感じ。

俺はあの中でしか生きられない。

命を賭けているあの緊張感の中でしか生きられないのだと悟った。

次の日、俺は子供の児童手当を下ろし再びあの雀荘にいた。

「これ、借りた金だ」

「いつでもよかったのに。どこへ行ってたんですか?待ってましたよ。ささ席がちょうどあいたところです。どうぞ」

気づいたら、牌を握っていた。

ああ、この感じ、命をやり取りするこの感じ、たまらない。

俺は賭博者だった。

ようやく思い出した。

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