私の秘密主義
よくしゃべる人は、本当のことを話さなくていいように、会話の隙間を埋めようとしているのだと思う。
どれも本当の話。でも同時に、『わざわざ伝える必要はない話』でもある。
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『秘密にする』という言葉は、ネガティブな意味で使われることの方が多い。
正直さとか素直さとか、そういう美徳とは対極にあると思われているからだろうか。
たしかに、嘘を伴う秘密は罪だと思う。
相手が傷つくことをわかって何かを隠すことは、秘密の美しさを台無しにする。
それを知らせたところで誰も得しないし損もしないこと、それをわざわざ秘密にするところに『秘密』の甘美さがある。
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「一度だけ 本当の恋がありまして 南天の実が知っております」
山崎方代のこの歌が好きなのは、この一句に秘密をもつことの美しさがぎゅっと凝縮されているからだ。
言わなければこの世に存在しないのと同じ、とよく言うけれど、今自分が死んだらなかったことになるようなものを胸に抱えておく楽しみというものが、人生にはあると思う。
私だけが知っていること。私の存在が消えたら、一緒に消えてしまうもの。
自分の生きた証を後世に残すことが生物としての本能だとしたら、あえて自分と一緒に消えるものを持つことは、とても人間的な営みなのかもしれない。
そしてあえて記録に残さないことで、記憶から抜け落ちないようにすることも、きっと人間に許された『本能に逆らう』という楽しみだ。
誰のことも傷つけない、意味のない秘密をもつことは、人生に奥行きをつくる。
だからこそ大切なことほど密やかに秘めやかに、美しいものを美しいままに、自分の中にしまっておきたいと思うのだ。
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