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「田舎」は逃げる場所ではなくて

お盆が明けた瞬間急に高熱を出して倒れ、起き上がるのはしんどいけど寝すぎて寝られなくてどうしようかなあ、と思っていたとき。

ちょうど前から見たいと思っていた「リトル・フォレスト」をNetflixで見つけたので、4時間かけて一気に鑑賞しちゃいました。

▼「リトル・フォレスト夏・秋編」予告動画


長雨と湿気で蒸し蒸しする夏から始まって、作物や果実が実り収穫に勤しむ秋、保存食をうまく使いまわしながら家の中でのんびり過ごしつつ次の季節に備える冬、新しい1年の訪れを告げる春、とそれぞれの季節を「食べること」と共に淡々と描く作品です。

前半の夏・秋編を見て、いわゆる田舎暮らしに憧れたスローライフ賛美な作品ではなく、命を育てる苦労や自然の前になす術のない人間の無力さ、綺麗なことばかりではない田舎の暮らしの描写がとてもリアルでびっくり!

それもそのはず、原作となった漫画は作者・五十嵐大介さんが実際に岩手県衣川村で暮らした実体験をもとに描かれたのだそう。

どおりで田舎出身の私も納得の、田舎暮らしのザ・リアル。

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と言いつつ私の実家はここまで田舎というわけではなくて、どちらかというと冒頭のナレーションででてくる、自転車で30分のところにある小さな町くらいのサイズ感です。

それでも代々農家として暮らしてきた家の娘としては、農業のシーンで醸し出される"せわしなさ"には深く共感することころがありました。

田舎で暮らす、というとのんびりしたスローライフなイメージを持つ人が多いけれど、実際にはなにかを収穫しながら別のなにかを植え、同時平行で草むしりや害虫駆除、保存用の加工…と次から次にやることが迫ってきます。

普通に会社で働いていると、ノルマを達成してもまたノルマに追い立てられるー!と思うけれど、それは農業も変わらないんだよなあ、と思いながら淡々と過ぎていく映像を眺めていました。

もともとこの田舎の過酷さを知らずに育って、田舎暮らしに憧れるからIターンしたい!という人はみんな一度これを通して見たほうがいいんじゃないかと思います。もー、生きるって本当に大変!笑

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この作品は田舎から一度都会に出た人なら共感するか、共感しすぎて傷をえぐられて死にそうになるかのどっちか、な気がします。

それは主人公が一度田舎から街にでて、失敗して戻って来た存在だから。

全体的に細かいストーリーは語られませんが、人間関係があまりうまくいかなくて帰ってきて、でもこの地に骨を埋めて生きていこうと思えるほどの決意はできない主人公・いち子。

都会に出てきて働いて、会社が嫌だー、実家に帰りたいー、と言って長期休みに帰省して、でもだからといって田舎で生きていきたいわけでもない宙ぶらりんな自分を思い出さずにはいられません。

作品の中で主人公自身もこのままでいいのか、と葛藤するのですが、後輩のユウ太から投げかけられるまっすぐな言葉に私まで胸が痛くなる…。

「何にもしたことが無い癖に、何でも知ってるつもりで、他人が作ったものを右から左へ移しているだけの奴ほど威張っている。
薄っぺらな人間の空っぽな言葉を聞かされるのにうんざりした。
他人に殺させておいて、殺し方に文句をつけるような、そんな人生は送りたくないって思ったよ」
「あのさぁ、いち子ちゃんは一人で一生懸命やっててすごいなと思うんだけどさぁ。
本当は一番大事なところから目そらしてて、それをごまかすために、自分をだますためにその場その場を一生懸命で取り繕ってる気がするよ。
本当は逃げてるんじゃないの?」

「田舎がある」ってある意味ずるいことで、傷ついたり先が見えなくなった時、逃げ帰る場所として機能してくれる。

東京のようにめまぐるしくまちの風景が変わったりしないし、何十年も変わらずそこに同じ人たちが住んで生活していて、この先もずっとずっと変わらないような錯覚に陥る。

そうやって春夏秋冬をぐるぐる回っているだけだと思っていても実際にはそんなことなくて、本当は螺旋状に少しずつ変わっていっている。

それは都会だとか田舎だとか国内だとか海外だとかは関係なくて、どこにいたって同じこと。

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どんなに大切に育てても台風や長雨ですべて台無しにされてしまうことがあるように、どこで暮らしていても「あぁ、もうだめだ」と思わされることはたくさんあって。

そんな時に「◯◯へ行って(帰って)しまいたい」と逃げの気持ちを持たずに現実と向き合えるか。

人は何かにぶつかったとき、深く考えないために目の前のことで忙しくさせてしまいがちだから。

私もスマホと向き合う時間を少し減らして、ちゃんとひとつひとつ考えて選ぶ時間を作っていきたいなあ、なんて。

どこで生きるか、を考える時、いち子が小森を出て行った後にユウ太といち子の親友・キッコが畑いじりをしている場面で語られる、いち子が小森をでた理由にまたグサッとくる。

「そうじゃなくて、ちゃんと前向きな気持ちで住む場所選びたいんだって。
街でも自分の居場所作れるくらいにならないと、その上で選ばないと、小森に失礼な気がするってさ。」

そう。
いつか地元に帰るときは「これが私にできるこの土地への恩返しだ!」と思えるくらいの力をつけて、どこにだって住めるけど自分から主体的に地元に住みたい、と思って帰りたい。

田舎は都会に疲れた人たちが逃げ帰る場所なんかじゃない。

その土地で暮らす、ということを真剣に、真摯に考えていきたいと思う27歳直前の夏。

私は今日も元気です。

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この映画の中でもうひとつ胸に残ったこと。

キッコがいち子の家で薪を割りながら上司の愚痴をぶちまけていたら、キッコのおじいちゃんが通りがかって怒りながら言ったセリフ。

「何だおめえ、人の悪口ばっかり語って!
人のずるいことがわかんのは、自分にも同じ心があっからだぞ!」

これ、今の私にはグサーッと凶器のように深く胸に刺さりました。

よく「他人は自分の鏡」というけれど、そういうことだったんだなあ、って。

人の悪口を言わない、って言うは易く行なうは難しの代表格だけど、悪口が口から出そうになるたび「あ、その人と同じ気持ちに私も今なってる!」と気づければ、人を傷つけることなく内省するためのきっかけとして生かしていけそうな気がします。

これ以外にもたくさんハッとさせられる部分やおいしそうなごはん、生活の知恵、田舎のおばちゃんたちってほんとこうだよねえとほっこりする場面など計4時間という長編でも飽きずに楽しめる「リトル・フォレスト」。
ぜひたくさんの人に見てほしいなと思います。

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