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広瀬すずという天才

好きな役者をあげるなら。たくさんいすぎて選べないけれど、そんな中でも私がはじめに名前をあげるのは広瀬すずだ。プロフィールにまでわざわざ「おすずが好き」と明記しているくらい、常日頃からおすずファンを公言している。

めるるとおすずと粗品、という謎の取り合わせ

彼女の演技力は凄まじいものがあると常々思っているのだけど、あまりに見目麗しく、天性の華やかな存在感が人目を引くからか、演技よりも美しさへの賞賛を耳にすることが多い。たしかに、静止画でも動画でも、どの瞬間にどの角度から切り取っても、ため息がでるほど美しい。でも彼女を「かわいいお人形」として鑑賞するだけでは、あまりにもったいない。恋愛もののヒロインとしての顔しか知らないのも、もったいない。

広瀬すずは、重く難しい役でこそ輝く役者だと私は思う。

彼女をはじめて知ったのは、「海街diary」だった。内側から光を放っているかのようなキラキラした透明感と、こちらのすべてを見抜かれてしまいそうなまっすぐな眼差し。

さらに、特殊な環境で早く大人にならざるをえなかった子ならではの大人びた影のある表情と、時間が経つにつれて取り戻してゆく無邪気な子どもらしい表情の演じ方がとても自然で、とんでもない子が現れたと驚いたことを覚えている。

そこから彼女はあっというまにスターダムを駆け上がり、話題の映画の主演や朝ドラのヒロインも務め、若手女優の筆頭格になっていった。

私が二度目の衝撃を受けたのは、映画「流浪の月」だった。

以前書いた感想にも、広瀬すずの演技に感銘を受けたことをこんな風に綴っていた。

特に主人公である更紗の表情や醸し出す雰囲気は、この映画の肝となっていたように思う。
(中略)
恋人の前で見せる表情と、文の前に立ったときの空気感。決して大袈裟すぎず、けれどその違いがはっきりと観客にもわかる、絶妙な広瀬すずの演技が、この物語における「関係性」というひとつのテーマを浮き上がらせていた。

「流浪の月」は先に小説を読んで、しかもその世界観に魅了されてしまっていたので、映画を見るかどうかは少し悩んだ部分もあった。映像作品は演技のちょっとした違いや演出の仕方によって登場人物たちの気持ちを汲み取るところに面白さがあると私は思っている。ゆえに私は基本的には原作小説は映像作品を見終わった後に「答え合わせ」として読むことが多い。

でも「流浪の月」は、原作ファンとしてもがっかり感のない、むしろ別の軸を提示し、再度原作を読んだときの解釈の幅が広がるような映画だった。それは主演二人が、文と更紗という難易度の高い役をきちんと自分なりに解釈して、映像の中で文と更紗として生きていたからこそだと思う。

演技力の高さに感嘆させられる役者さんはたくさんいるのだけど、その中でも広瀬すずのすごさは、「役の解釈力の高さ」にあるような気がしている。でもそれは意識して役の解像度を高めるために考え抜くというよりは、天才的な感覚からくるものなのだと思う。だから役にしっかりハマっているのに演技は伸びやかだし、演じている本人自身の心の動きによって泣いたり笑ったりしているのが伝わってくる。

実際、彼女のインタビューなどを読んでいると、どちらかといえば感覚派のようで、あまり考えすぎずにまずやってみる、と話していることが多い。にも関わらず、与えられた役の再現度が高い。原作、特に小説が原作となっている作品を読んでから彼女の演技を見ると、物語全体におけるその登場人物が担う役割をとても的確に把握しているように見える。人が持つ「魂」のようなものを、直感で掴める人なのだと思う。

「流浪の月」の6年も前に、同じく李相日監督の映画「怒り」にも出演している。こちらは「流浪の月」を鑑賞した後に見たのだけど、この時点で彼女の能力が最大限に生かされていた。不安混じりの心許なさと、出来心のような好奇心。ほのかに芽生えた好意と疑念、そしてぶつけどころのない怒りと悲しみ。複雑で微妙な感情の機微を、大袈裟すぎず、それでいてきちんと観客に伝わるように絶妙なバランス感で表現していて、とんでもない才能だと思わされた。

最新作の「キリエのうた」でも、謎が多く理解が難しい役を演じていたが、「もしかしてこういう設定があるんじゃないか?」と感じさせる部分があり、鑑賞後に答え合わせとして小説を読んでみたらしっかりとその設定が言葉にされていて、彼女の「香らせる」ような演技の精度の高さに驚いた。あからさますぎず、でも感じ取れる人には届くような微妙な塩梅の演技が、彼女は抜群にうまい。

だからこそ、わかりやすい恋愛もののヒロインよりも、捉えどころのない難しい役でこそ輝く役者だと思う。

広瀬すずの演技が好きなのはもちろんなのだけど、彼女のどんなときものびやかでどっしりと「広瀬すず」であり続けるところも好きだ。10月にはじまったラジオでも、彼女の天真爛漫な雰囲気がいかんなく発揮されている。

お姉さんである広瀬アリスとのインスタライブを見ていても、末っ子としてのびのびとかわいがられて育った人なのだなあと思う。でも若くして売れっ子になり、多感な時期に賞賛と同じくらい批判も嫌というほど浴びてきたはずなのに、元来ののびやかさを失うことなく、健やかな安定感をずっと維持している。それはひとえに、彼女の持つ強さゆえだと思う。

もちろん、外に出していないだけで本人にしかわからない悩みや苦労、葛藤もたくさんあると思う。でも少なくとも、私が彼女を画面越しに目にするときは、いつも変わらない、健やかな芯の通った「広瀬すず」だ。その安定感に、いつもほっとさせられる。

ラジオを聴いていて思うのだけど、きっと素直で天真爛漫で、嘘のない人なのだろうなと思う。だから無理がないし、ひとつひとつの評判に一喜一憂することなく、自分が自分であることに自信を持っていられるタイプなんじゃないかな、と。

私は彼女のような天賦の才はないし、カラッとした明るい強さもない。自分にないものばかりを持っている人だからこそ、羨ましくてまぶしくて、追いかけずにはいられなくなる。そしてこの人の本当のすごさを、もっとたくさんの人にわかってもらいたくなる。

まだまだ25歳。これからさらに、とんでもない役者になっていく人だと私は信じている。


カバー写真はご本人のInstagramより。昨年発売された写真集「レジャー・トレジャー」の中の一枚。この写真集、いまさら欲しくなってしまって買っちゃおうかな…!と思っているところ。

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