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未曾有の状況で「場」を生み出す力:シリーズ講座「リ/クリエーション」A・Bコース レポート

ドリフターズ・インターナショナルが渋谷の共創施設SHIBUYA QWSと2020年2月から始動させたシリーズ講座「リ/クリエーション」A・Bコース。建築やファッション、パフォーミングアーツなどさまざまな領域からゲストを招いてきた本講座は、数々のフィールドワークや、プロジェクトメンバーを決めるワークショップを経て、4月中旬に最終発表・審査が行われた。COVID-19の感染拡大とそれに伴う外出自粛という、その講座スタート時には想像だにしなかった状況のなかで、メンバーたちはいかにプロジェクトを熟成させてきたのか。4月19日に行われた受賞者発表会の模様をレポートする。

緊急事態宣言下の「発表会」

2020年3月下旬から、東京でも猛威を振るい出したCOVID-19は、文化活動にも大きな影響を与えてきた。シリーズ講座「リ/クリエーション」でも、3月29日にSHIBUYA QWSでの開催が予定されていた最終発表会は中止となった。

過去のレポートで触れられている通り、異なる背景にある人々同士のコラボレーションによってプロジェクトが育まれるとき、人と人が触れ合うことが不可欠となる。対面でのブレストや雑談、飲み会などのコミュニケーションが難しくなった状況下で、プロジェクトをローンチしアウトプットするというプロセス自体を発明する必要があった。

講座の参加者たちは、遠隔などのコミュニケーションのもとプロジェクトを進めることとなり、最終審査もYouTubeへの動画提出という形に切り替えられた。もともと動画の制作を予想していなかったメンバーも多かったのではないかと思う。

審査員をつとめたファッションデザイナーの山下陽光は、「まるで、100m走で審査されるはずだったのに、数学のテストを受けているようなもの」と、今回の審査全体を評したが、緊急事態宣言下という新しい状況での本講座自体も、その方法を問い直していたともいえる。

ただ、9つのプロジェクトに所属する受講生たちは現在の状況に対して、様々な「転換」を行ないながら、着々とYouTubeに3分間の動画を仕上げていった。

↑プロジェクト「岩を語る会」による動画。

100年後に振り返ったときに

そんなこれまでにない審査にあたったのは、SHIBUYA QWSのエグゼクティブディレクター野村幸雄と、ファッションデザイナーの山下陽光、そしてクラウドファンディングプラットフォーム「MotionGallery」を運営する大高健志、ドリフターズ・インターナショナル(中村茜、藤原徹平、金森香、以下ドリフ)の6名。それぞれが、9つのプロジェクトのなかからQWSステージ賞、ドリフ賞、山下陽光賞、大高健志賞を選んだ。結果は以下の通りとなった。

#QWSステージ賞
髪を切らない(コンセプト)美容室
アスマス美容室
「ひきこもりを支援するために、美容室を使うというアイデアに可能性を感じた。ダンスや往復書簡によって、ひきこもりという社会問題をいかに解決するできるのか、具体性がみえていくことに期待する(野村)」

クリエイターのクリエイターによるクリエイターのための居場所
HOME.
「クリエイターによるシェアハウスの新しい可能性を掘り下げていってほしい。既存の施設と何が違うのかを深堀りすることで、クリエイターが一緒に住めば、何が生まれるのか明確化してくるとよい(野村)」
#山下陽光賞
己呂奈教CM
SUPER VANILLA CUPS
「100年後に作品をみたときに、現在の混乱した状況が伝わるのはこのプロジェクトだと思った。『あまりにも直接的すぎる』という中村さんのコメントがあったが、ぼくは『直接的』なものが好きだと思った(山下)」
#大高健志賞
該当なし
「ネガティブな意味での『該当なし』ではない。どの動画をみていてもスゴいものをみているという感覚があったが、プロジェクトに関わる人から直接、そのアウトプットに至った議論の背景や作品の文脈話を聞かないと、審査が難しいと思った。今後、動画の背景に何があるかをもっと聞いて判断していきたい(大高)」
#ドリフ賞
引きこもり支援のための髪を切らない(コンセプト)美容室
アスマス美容室
「一番、場所を変える力をもっていた。動画のなかでの、QWSという空間へのアプローチには、都市に変化をもたらす可能性を感じる。また、ダンスや美容室のフォーマットを組み合わせたり、コラボレーションする力がとても強かった(中村)」

わたしとあなたと岩の良さを再発見する
岩を語る会
「岩がもつ複雑性を扱っているこのプロジェクトにドリフが関わることで、新しい可能性が生み出せるように感じた。どう具体化していくのかを決めていってほしい(中村)」

それぞれの副賞として、QWSステージ賞を受賞したプロジェクトには、6月中旬に実施されるQWSステージでの発表する権利が与えられた。ドリフ賞、山下陽光賞、大高健志賞の受賞プロジェクトも、審査員からのサポートのもと、社会実装へと一歩ずつ足をふみだしていくこととなった。

↑プロジェクト「HOME.」が制作した動画。

「場所」がもつ可能性

各プロジェクトによる3分の動画と、審査員のコメントから伝わってきたのは、それぞれのメンバーが未曾有の状況下で新しい表現方法を模索していたことだ。QWSという場所を前提としたプロジェクトがZoomでの遠隔コミュニケーションによって企画を練り上げアウトプットをつくらざるをえないというのは、きわめて異例な状態であったといって間違いはないだろう。

ただし、そこでつむがれていたものは決して熱量の低いものではなかった。緊急事態宣言下という状況下で、何ができるかをゼロから考えていく過程がそれぞれの動画には詰まっていたのだ。それぞれの参加者が、新しい状況下で自分には何ができるのか大きな転換を迫られ、プロジェクトという場所で発散したエネルギーがそこには確かに記録されている。

さらに、今回QWSステージ賞を受賞した「HOME.」と「アスマス美容室」のいずれもが「場所」をテーマにしたプロジェクトであることは興味深い。「HOME.」の企画書には、こんな言葉がつづられている。

4月7日に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急自体宣言が出されました。公共施設、体育館、美術館 、ギャラリー、セレクトショップ、映画館、劇場、稽古場、ワークスペース、様々な居場所が閉められて、自宅以外の様々な居場所は一瞬でなくなりました。〈〜中略〜〉『HOME.』では、もう他人に頼るのは一旦やめて、自分たちでお金を出し合って、自分たちで居場所をつくるというものです。〈〜中略〜〉そうして作られた居場所はどんな非常事態にも負けない強い居場所になると信じています。

なくなってしまった「居場所」を取り戻すために、彼らのシェアハウスというプロジェクトは大きなアップデートを行なった。「リ/クリエーション」が掲げてきた、自分自身をつくりなおす「復造力」は、新しい状況で自分を転換する可能性を秘めている。

ドリフ・藤原も「リ/クリエーションに参加しているプロジェクトは、自分の根っこが何なのかを自覚し、それを外に伝えはじめた段階にいる。それぞれがこれから実際に『居場所』をつくっていくことになる。そんな受講生たちはドリフメイトとも呼べる存在なので、今後活動をウォッチしながら、様々な機会・チャネルをつくっていきたい」と今後のサポートの展望を語った。

同じくドリフの中村は、審査会の最後にこう語った。「もともとリ/クリエーションというプロジェクトは、QWSという高層ビルのなかに生まれた新しい無菌状態の場所に、多様な菌をインストールしていくことをイメージしてきた。そもそも菌はどこで突然変異する可能性があるかわからないもの。これからも変化を楽しみながらスクールを進めていきたい」

COVID-19の影響下で受講生とともに変化してきた、本講座は5月から発信をテーマとするブーストコースへと進んでいった。コースディレクターを務める金森は「こんな時代だからこそ、伝えるためのツールをどう使うかに注目が集まっている」と語っていたが、6月28日に開催される総まとめ座談会で、変化のなかをサバイブしてきたリクリエーションの未来が見れることを期待してほしい。


・プロジェクトが発表した動画の一覧はこちらから
疑曲『最初から最後 stopstarts』の序曲
最初から最後
https://www.youtube.com/watch?v=PFVoQfVXBho

僕のキレイ
Make MAKE-MATE
https://www.youtube.com/watch?v=PdCrbEnO_54

わたしとあなたと岩の良さを再発見する
岩を語る会
https://www.youtube.com/watch?v=wgv-Ew6zPyc

クリエイターのクリエイターによるクリエイターのための居場所
HOME.
https://youtu.be/LDDze1IV8lo

引きこもり支援のための髪を切らない(コンセプト)美容室
アスマス美容室
https://www.youtube.com/watch?v=YEK6t_w8HHs

最初に答えがあったんだ/わたしたちの花/ぼくらは未完成
超伝動
https://youtu.be/iliYRekqJC4

己呂奈教CM
SUPER VANILLA CUPS
https://youtu.be/DXXHrx3Dw70

QWSにおける穴をつくる
nの二乗とyの間
https://www.youtube.com/watch?v=uYzeB7n2-zE

広場をつくるダンスワークショップ
ダンス教育2.0
(動画非公開)

リ/クリエーション 総まとめ座談会 予約受付中!!
2020年6月28日(日) 14:00〜17:00

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2020年2月~6月というコロナ激動の時期に開催されたシリーズ講座「リ/クリエーション」を振り返る。渋谷QWSを舞台にオフラインとオンラインを地続きにして育まれた多彩なプロジェクトと、あの熱気は何だったのか?
実際の受講生らの取り組みを通じて「共同作業」や「共同クリエーション」の活性メカニズムや場のあり方、各プロジェクトを振り返りながら、いまクリエーションが直面している社会についても議論します。
予約申込はこちら:https://recreation-final-talkevent.peatix.com/

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