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物語の重なりと必然的な創作 ー他人と混ざり合うことで「自分にしかできないこと」が生まれてくるのだ。ー

「リ/クリエーション」合同プレゼン・マッチング&ローンチDAYレポートVol.2 

文:矢代真也 写真:高野ユリカ

物語の重なりからプロジェクトが生まれる

ーそれぞれがもつ必然性が重なったところに化学反応がおきて、企画がうまれたー

マッチングDAYの翌日、3月9日。まず冒頭でチームが発表されたのちに、それぞれの活動のキックオフが行われた。昨日のワークを通じて、それぞれのメンバーへの理解、そして新しいプロジェクトを進めるため心構えは得られ始めている。そんななか、キックオフの前に、まずドリフの中村茜、藤原徹平からプロジェクトをゼロから立ち上げるために重要なことを学ぶべく、レクチャーが行われた。

今回リ/クリエーションで生まれるプロジェクトは、予算があるわけでもなければクライアントがいるわけでもない。それゆえ、ゼロから価値を生み出す「クリエーション」を行う必要がある。そのために必要なことは何なのか、中村と藤原は自分たちドリフのことを振返りはじめた。

まず藤原は、自分たちがやってきたことは、学生時代の趣味や遊びの延長なのだという。そもそも、藤原ともう一人のドリフの主要メンバー金森香の出会いは、藤原が観に行ったライブの受付でたまたま再会したことがきっかけだった。ただ藤原によれば、そこには必然性がある。「建築をやっていたぼくがファッションの世界の金森さんと出会ったのは、建築という分野からはみだしていたから。実は、そのライブの翌日に大事なプレゼンがあった。ただ、あのチャンチキトルネエドが法政大学でライブをするなら、徹夜してでもその場に行かないといけないと思った」

中村も、同じく2009年に自身が金森と藤原と企画した那須高原でのアートフェス「スペクタクル・イン・ザ・ファーム」を振り返りながら、ゼロから発進するプロジェクトのあり方を語る。そもそも、金森によるファッションブランド「シアタープロダクツ」が那須でショーをやるという企画を出発点に、動物園での写真展や現代アーティストによるホテルを舞台にしたインスタレーションなど、どれもアイデア段階では実現するとは思えないものが形になっていったのだという。もちろん地元企業や観光団体との折衝など、乗り越えなければならないことは多かったが、関わる誰もがやろうとしているアイデア自体が楽しくて仕方がなかった。

その背景には、中村、藤原、金森それぞれがもつ必然性が重なったところに企画があったことが大きい。プロデューサーとして活動しながら、日本の演劇界に閉塞感を感じていた中村。建築の世界にいながら、大規模な開発のあり方に疑問をもっていた藤原。そして、街を演劇化したいというアイデアをもちながらも、ファッションの世界で活動していた金森。それぞれが自分の領域からはみだし、物語が重なり合うかたちで、プロジェクトは実現したのだ。

最後に藤原は、この「リ/クリエーション」という講座自体にも必然性があると語った。もともと作家・寺山修司の仕事場や、前衛的なファッションのための商業空間として存在するパルコがあり、クリエイターに寛容な場所だった渋谷。そこが開発されるなかで、ドリフの面々が感じていた閉塞感が起点としてある。

渋谷の中心にあるQWSという場所で新しいクリエィティブを生み出せるのであれば、そんな空気を打破できる可能性があるのではないかと、3人は考えたのだという。渋谷という街がもつ物語のなかで、ドリフをふくめそこに関わる様々な人の必然性が重なるかたちで「リ/クリエーション」はスタートしていた。

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問うことで「物語」は生まれる

ー「なぜ?」という問いを繰り返すことで、意識もしない自分たちが答えられない部分が明らかになるー

その後、レクチャーを受けた受講生たちは、それぞれディスカッションを開始し、プロジェクトを練り上げていく。過去の講座でもレクチャーを担当した建築家の元木大輔もかけつけ、それぞれのプロジェクトのローンチを見守った。

元木はチームの議論に参加しながら、プロジェクトの背景の解像度を上げるために繰り返し問いを投げかけていた。

「なぜ大人が踊っていない社会をよくないと思うの?」
「アートを日常のなかに持ち込むのは簡単じゃない?」
「何でシェアハウスがこんなに増えたと思う?」

ものづくりをする上で大切なのは、一番最初にやれるステップを実行し、考えられうる問いに答えを出していくことなのだという。そうするなかで企画がもつ弱点が明らかになり、それを潰すための次のステップをつくることができる。「なぜ?」という問いを繰り返すことで、意識もしない自分たちが答えられない部分が明らかになるのだ。

プロジェクトの前提となる部分から問いなおす元木の姿勢は、はからずも「リ/クリエーション」がQWSで行われる必然性を明らかにしてくれたように思える。問いの可能性を考えるQWSという場所に人が集まり、新しいクリエイティブを生む。そこでは必然的にプロジェクトの前提、そしてアイデアの前提となる自分の「物語」を問い直すことが必要となる。そのなかで、はじめて他人と自分の物語の重なりを意識することで、逆説的にいえば「他人と混ざり合うことで、自分にしかできないこと」が生まれてくるのだ。

「あそび」から「創作」へ

自分という個別の存在から羽ばたいたアイデアが
新しい可能性をもって「創作」として立ち現れてくるのか?

元木が参加者に語ったことのなかには、こんな教えもあった。「好きな人に宛てて書いたLINEのメッセージは、どんなに推敲を繰り返しても、送ってから後悔することもある」。人間は実践しなければ、自らの過ちに気づくことができない。創作はそんな実践と気づきの繰り返しであり、トライ&エラーの量が最終的なアウトプットの質に直結する。

その意味では、「男性のメイクアップ」をテーマに活動を始めようとしていたチームの試行錯誤は印象的だった。ワークショップが行われた会場は、とある商業施設の目と鼻の先。そのため彼/彼女たちは実際に化粧品売り場に足を運びフィールドワークを行ったというのだという。そこで明らかになったのは、メイクアップの前には「スキンケア」という別の段取りが存在するという事実。自分たちが使っている言葉の解像度の粗さを実感したという。

外からチームを眺めていると、「スキンケアとメイクアップの違い」に気づけなかったことに驚くかもしれない。ただ、何かにのめりこんで考えるとき人は客観性を失ってしまう。「渋谷から世界」へとはばたくという行動力が試行錯誤、そして企画のブラッシュアップを可能にする。それは外の世界に触れ合いながら、自らの「限界」を知るための模索ともいえる。

「リ/クリエーション」の受講生たちは、この日から3週間後に向けて、QWSでそれぞれのプロジェクトを育んでいる。今後、さらにそれぞれのプロジェクトを「世界にいかに発信するか?」がテーマとなったBOOSTコースのスタートも予定されている。そこで、自分という個別の存在からはばたいたアイデアが新しい可能性をもって、「創作」として立ち現れてくることに期待したい。

『リ/クリエーション』BOOSTコースは
舞台をオンラインに移して、いよいよ開講
!新規受講生も受付中!5/11(月)まで
詳細:https://awrd.com/award/re-creation-boost

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