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ヱとヤ行エとエ~ウェとイェとエ~

2月25日はヱビスの日です。
今回はヱビスの表記にちなんで、仮名文字のWEゑ・ヱ》とYE𛀁》とEえ・エ》について取り上げます。


ワ行・ヤ行・ア行のエ段の仮名文字について

仮名文字WEゑ・ヱ》は《惠・恵》に由来し(カタカナは《》説もアリ)、本来ウェ[we]と読まれる字母ですが、のちにイェ[je]に発音が変化したことから[e]と同音に変わっても〈ヱビス/恵比寿〉の英語表記が〈Yebisu〉, 日本の通貨の〈ゑん/円〉の英語表記が〈Yen〉とそれぞれヤ行音[j]を示すワイY・y》で表記され、通貨記号も《¥》となるきっかけとなりました。
明治23年2月25日に日本麦酒醸造会社(のちに日本麦酒株式会社)から発売されたヱビスビールの英語表記〈YEBISU BEER〉は、当時の《》に対応する表記を反映したものとなりました。現在はサッポロビールのブランドのひとつとしてヱビスビールが販売されています。
昭和21年11月16日に制定された現代かなづかいでは固有名詞以外は廃用となり、ア行の《え・エ》で表記され、ワ行の《ゑ・ヱ》の字母名の発音はア段と同じ[e]となる傾向が多いです。

カタカナE》は本来《》に由来するヤ行のエ段であるイェ[je]を示す字母で、ア行の[e]は当初《》に由来する《𛀀》でした。本来のア行エのカタカナは“ARCHAIC E”としてユニコード6.0で採用されました。
明治33年8月21日のひらがな字形統一でア段エ[e]が《》由来の《》に統一されるまで《》に由来する変体仮名イェ𛀁》がア段エを示す字母として使用されることが多く、ヤ行エ段を示す字母として明治時代の国語学で使用され、ひらがなのイェは同じくユニコード6.0で採用されました。

カタカナYE𛄡》はユニコード14.0で採用されたヤ行エ段を表す字母で、明治時代に国語学でイェ[je]音で使用されたものです。福島県のケセン語の仮名文字(※日本語版ウィキペディア内の項目)に採用され、北海道のアイヌ語では20世紀中頃に機関誌『アイヌ・モシリ』のアイヌ語カタカナに採用されていました。人工言語トキポナのカタカナ表記にも取り入れられています。
カタカナYEのルーツは《》とされ、アイヌ語仮名やケセン語仮名では“《イ》と《エ》の合字”とされているのですが、ユニコードでは過去に《エ》がイェ[je]音を表していた理由で統合されていました。

ユニコード未登録のエの派生字

他にも《エ》の派生字母では20世紀中頃に“《エ》と《ア》の合字”が英語の短音《A》[æ アェ]を示す字母として登場し、21世紀に入ってからNHK Eテレのドキュメンタリー『わくわく授業―私たちの教え方―』や今人舎の書籍『ローマ字学』などで紹介されるようになりました。

各言語におけるエとイェとウェ

各言語の文字体系における“エとイェとウェ”の日本語の発音に近い表記を取り上げます。

  • 【エ《E・e》/イェ《YE・Ye・ye》/ウェ《WE・We・we》】英他

  • 【エ《E・e》/イェ《JE・Je・je》/ウェ《WE・We・we》】ドイツ、オランダ、トキポナ他 - ドイツ語の現行正書法では外来語のイェは《YE・Ye・ye》に置き換えられる。

  • 【エ《E・e》/イェ《JE・Je・je》/ウェ《VE・Ve・ve》】セルビア・クロアチア、スロベニア、アルバニア他 - クロアチア語やボスニア語の現行正書法では外来語のイェは《YE・Ye・ye》に置き換えられる。

  • 【エ《E・e》/イェ《JE・Je・je》/ウェ《ŬE・Ŭe・ŭe》】エスペラント

  • 【エ《E・e》/イェ《YE・Ye・ye》/ウェ《VE・Ve・ve》】トルコ、アゼルバイジャン他

  • 【エ《E・e》/イェ《ÝE・Ýe・ýe》/ウェ《WE・We・we》】トルクメン - 1990年代にラテン文字正書法が復活した際に、ヤ行音[j]は円マーク¥》に由来する拡張ラテン大文字でキリル文字ストローク付きストレートUҰ》と同型の字母が使用され、対になる小文字はダイエレシス付きYÿ》が使用されていた。

  • 【エ《É・é》/イェ《YÉ・Yé・yé》/ウェ《OUÉ・Oué・oué》】フランス

  • 【エ《É・é》/イェ《YÉ・Yé・yé》/ウェ《WÉ・Wé・wé》】フランス、ジャワ、スンダ

  • 【エ《É・é》/イェ《JÉ・Jé・jé》/ウェ《WÉ・Wé・wé》】インドネシア - 1972年以前のインドネシア語正書法での表記。

  • 【エ《Ê・ê》/イェ《Y-Ê・Y-ê・y-ê》/ウェ《UÊ・Uê・uê》】ベトナム

  • 【エ《Ε・ε》/イェ《ΓΙΕ・Γιε・γιε》/ウェ《ΟΥΕ・Ουε・ουε》】ギリシャ

  • 【エ《Ε・Ἐ・ἐ》/イェ《ΙΕ・Ἰε・ἰε》/ウェ《ΟΥΕ・Οὐε・οὐε , ϜΕ・Ϝε・ϝε》】古典ギリシャ -全文大文字表記の場合はプシリ《᾿》などのダイアクリティカルマークが省略される。

  • 【エ《Ⲉ・ⲉ》/イェ《ⲒⲈ・ⲓⲉ》/ウェ《ⲞⲨⲈ・ⲟⲩⲉ》】コプト

  • 【エ《Ⲉ・ⲉ》/イェ《Ⲓ̈Ⲉ・ⲓ̈ⲉ》/ウェ《ⳢⲈ・ⳣⲉ》】ヌビア

  • 【エ《Е・е》/イェ《ЙЕ・Йе・йе》/ウェ《УЕ・Уе・уе》】ブルガリア、モルドバ

  • 【エ《Е・е》/イェ《ИЕ・Ие・ие》/ウェ《УЕ・Уе・уе》】アブハズ

  • 【エ《Е・е》/イェ《ЈЕ・Је・је》/ウェ《ВЕ・Ве・ве》】セルビア、マケドニア

  • 【エ《Е・е》/イェ《ЈЕ・Је・је》/ウェ《ԜЕ・Ԝе・ԝе》】ボスニア - ラテン文字表記でワ行が《W》で示される場合。ネット上ではクルド語WEをルーツであるラテン文字Wに置き換えた《WЕ・Wе・wе》が使用される。

  • 【エ《Е・е》/イェ《Є・є》/ウェ《ВЕ・Ве・ве》】ウクライナ、ルシン

  • 【エ《Э・э》/イェ《Е・е》/ウェ《ВЭ・Вэ・вэ , ВЕ・Ве・ве》】ロシア、モンゴル

  • 【エ《Э・э》/イェ《Е・е》/ウェ《УЭ・Уэ・уэ , УЕ・Уе・уе》】ベラルーシ、カザフ

  • 【エ《Э・э》/イェ《Е・е》/ウェ《ЎЭ・Ўэ・ўэ , ЎЕ・Ўе・ўе》】ベラルーシ:タラシケヴィツァ式

  • 【エ《Є・є》/イェ《Ѥ・ѥ》/ウェ《ВЄ・Вє・вє》】古代教会スラブ

  • 【エ《Ⰵ・ⰵ》/イェ《ⰊⰅ・Ⰹⰵ・ⰹⰵ》/ウェ《ⰂⰅ・Ⰲⰵ・ⰲⰵ》】古代教会スラブ:グラゴル文字

  • 【エ《Է・է》/イェ《Ե・ե , ՅԵ・Յե・յե》/ウェ《ՎԵ・Վե・վե》】アルメニア

  • 【エ《Է・է》/イェ《Ե・ե , ՅԷ・Յէ・յէ》/ウェ《ՎԷ・Վէ・վէ》】西アルメニア

  • 【エ《Ე・ე》/イェ《ᲘᲔ・იე》/ウェ《ᲕᲔ・ვე》】ジョージア - 19世紀頃までウェは《უ̂ე》と表記されていた。

  • 【エ《Ე・ე》/イェ《ᲲᲔ・ჲე》/ウェ《ᲕᲔ・ვე》】ラズ

  • 【エ《Ꭱ・ꭱ》/イェ《Ᏸ・ᏸ》/ウェ《Ꮺ・ꮺ》】チェロキー

  • 【エ《אה , א־》/イェ《יה , י־》/ウェ《ווה , וו־》】ヘブライ

  • 【エ《אֶה , אֶ־》/イェ《יֶה , יֶ־》/ウェ《ווֶה , ווֶ־》】ヘブライ:ニクダー付き

  • 【エ《אי》/イェ《יי》/ウェ《ווי》】ラディノ

  • 【エ《ע》/イェ《יע》/ウェ《ווע》】イディッシュ

  • 【エ《اي》/イェ《يي》/ウェ《وي》】シンド、ジャウィ

  • 【エ《إي》/イェ《يي》/ウェ《وي》】アラビア

  • 【エ《ای》/イェ《یی》/ウェ《وی》】エジプト・アラビア

  • 【エ《اې》/イェ《يې》/ウェ《وې》】パシュトー

  • 【エ《اے》/イェ《يے》/ウェ《وے》】ウルドゥー、西パンジャブ、カシミール

  • 【エ《اه ، اِ》/イェ《یه ، یِ》/ウェ《وه ، وِ》】ペルシア

  • 【エ《ئې》/イェ《يې》/ウェ《ۋې》】ウイグル

  • 【エ《ئێ》/イェ《یێ》/ウェ《وێ》】ソラニー

  • 【エ《އެ》/イェ《ޔެ》/ウェ《ޥެ ، ވެ》】ディベヒ - ワ行[w]は本来点付きのワーヴޥ》だが、英語などの《W》に由来する借用語ではヴァ行[v]を示す点無しのヴァーヴވ》が多用される。

  • 【エ《ܐܝ ، ܐ》/イェ《ܝܝ》/ウェ《ܘܝ》】アッシリア現代アラム - 語頭・語中ではユッドܝ》が省略される。

  • 【エ《》/イェ《यॆ》/ウェ《वॆ》】カシミール、ネワール - ネワール語などでは南インド諸言語翻字に用いられる拡張デーヴァナーガリー文字。

  • 【エ《》/イェ《ये》/ウェ《वे》】サンスクリット、ヒンディー、ネパール、マラーティー - マラーティー語では一時期に当たる母音字表記に《अे》が用いられていた。

  • 【エ《अॎ》/イェ《यॎ》/ウェ《वॎ》】サンスクリット - 別方式。

  • 【エ《》/イェ《ইয়ে》/ウェ《ওয়ে》】ベンガル - エの母音字と母音記号の推測表記は《অে》。

  • 【エ《》/イェ《য়ে》/ウェ《ৱে》】アッサム

  • 【エ《》/イェ《ਯੇ》/ウェ《ਵੇ》】パンジャブ

  • 【エ《ཨེ་》/イェ《ཡེ་》/ウェ《ཝེ་》】チベット

  • 【エ《ᰣᰬ》/イェ《ᰚᰬ》/ウェ《ᰢᰬ》】レプチャ

  • 【エ《ꫠ・ꯑꯦ》/イェ《ꯌꯦ》/ウェ《ꯋꯦ》】マニプーリ

  • 【エ《》/イェ《યે》/ウェ《વે》】グジャラート

  • 【エ《》/イェ《ୟେ》/ウェ《ୱେ》】オリヤー

  • 【エ《》/イェ《ᱭᱮ》/ウェ《ᱣᱮ》】サンタル

  • 【エ《𑃣》/イェ《𑃜𑃣》/ウェ《𑃚𑃣》】ソラ

  • 【エ《𑢨・𑣈》/イェ《𑢥𑢨・𑢥𑣈・𑣅𑣈》/ウェ《𑢹𑢷𑢨・𑢹𑣗𑣈・𑣙𑣗𑣈》】ホー

  • 【エ《》/イェ《யெ》/ウェ《வெ》】タミル

  • 【エ《𑌏》/イェ《𑌯𑍇》/ウェ《𑌵𑍇》】サンスクリット:グランタ文字

  • 【エ《》/イェ《యె》/ウェ《వె》】テルグ

  • 【エ《》/イェ《ಯೆ》/ウェ《ವೆ》】カンナダ

  • 【エ《》/イェ《യെ》/ウェ《വെ》】マラヤラム

  • 【エ《》/イェ《ꢫꢾ》/ウェ《ꢮꢾ》】サウラーシュトラ

  • 【エ《》/イェ《යෙ》/ウェ《වෙ》】シンハラ

  • 【エ《ဧ・အေ》/イェ《ယေ》/ウェ《ဝေ》】ビルマ、パーリ

  • 【エ《ဢေး》/イェ《ယေး》/ウェ《ဝေး》】シャン

  • 【エ《𑄆・𑄃𑄬》/イェ《𑄠𑄬》/ウェ《𑄃𑄮𑄠𑄬》】チャクマ

  • 【エ《អិ》/イェ《យ៉ិ》/ウェ《វ៉ិ》】クメール

  • 【エ《เอะ》/イェ《เยะ》/ウェ《เวะ》】タイ

  • 【エ《ເອະ》/イェ《ເຢະ》/ウェ《เวะ》】ラオ

  • 【エ《ꦌ・ꦲꦺ》/イェ《ꦪꦺ》/ウェ《ꦮꦺ》】ジャワ

  • 【エ《ᬏ・ᬳᬾ》/イェ《ᬬᬾ》/ウェ《ᬯᬾ》】バリ

  • 【エ《》/イェ《ᮚᮦ》/ウェ《ᮝᮦ》】スンダ

  • 【エ《ᨕᨙ》/イェ《ᨐᨙ》/ウェ《ᨓᨙ》】ブギス

  • 【エ《》/イェ《ᜌᜒ》/ウェ《ᜏᜒ》】タガログ/フィリピノ - フィリピン系文字ではイ[i]音と共用。

  • 【エ《》/イェ《ᜬᜲ》/ウェ《ᜯᜲ》】ハヌノオ

  • 【エ《》/イェ《ᝌᝒ》/ウェ《ᝏᝒ》】ブヒッド

  • 【エ《》/イェ《ᝬᝲ》/ウェ《ᝯᝲ》】タグバヌワ

  • 【エ《》/イェ《》/イェ女性形《葉・叶》/ウェ《韋・韦》】中国:訳音字 - ロシア語訳音字では、イェの女性形が用いられる。ピンイン表記ではそれぞれ〈ĀI・Āi・āi / YĒ・Yē・yē/ YÉ・Yé・yé / WÉI・Wéi・wéi〉。

  • 【エ《誒・诶》/イェ《》/ウェ《》】中国 - ピンインの漢字による字母名。ピンイン表記ではそれぞれ〈Ê・ê , ĒI・Ēi・ēi / YĒ・Yē・yē/ WĒI・Wēi・wēi〉。

  • 【エ《》/イェ《ㄧㄝ》/ウェ《ㄨㄟ》】台湾華:注音符号

  • 【エ《에・ㅔ》/イェ《예・ㅖ》/ウェ《웨・ㅞ》】韓国

  • 【エ《》/イェ《》/ウェ《》】ゲエズ、アムハラ、ティグリニャ

  • 【エ《》/イェ《ⵢⵉ》/ウェ《ⵡⵉ》】アマジグ - ベルベル諸語のエ段がラテン文字《I》で表記される場合。

  • 【エ《》/イェ《ⵢⴻ》/ウェ《ⵡⴻ》】アマジグ - ベルベル諸語のエ段がラテン文字《E》で表記される場合。

  • 【エ《》/イェ《》/ウェ《》】ヴァイ

  • 【エ《ߋ》/イェ《ߦߋ》/ウェ《ߥߋ》】マニンカ

  • 【エ《𞤏・𞤫》/イェ《𞤒𞤉・𞤒𞤫・𞤴𞤫》/ウェ《𞤏𞤉・𞤏𞤫・𞤱𞤫》】フラニ

歌手のイェさんにおける各言語の表記

アメリカの歌手カニエ・ウェストさんの現在の本名は〈イェ〉さんで、日本語では1音節で表すことができる名前です。
英語では二重母音、タイ語では長音など日本語における短音による発音と異なる発音となっております。
キリル文字圏など各言語では綴りが異なるため、まとめておきます。

  • Ye】英[jeɪ イェイ]

  • Γε】ギリシャ[ʝe イェ]

  • Йе】ロシア

  • Йей】ブルガリア[jej イェイ]

  • Є】ウクライナ - 1文字で表記可能。

  • Յէ】アルメニア

  • იე / ᲘᲔ / Ⴈⴄ】ジョージア

  • יֶה】ヘブライ

  • یه】ペルシア

  • يي】アラビア、ジャウィ

  • یی】エジプト・アラビア

  • یے】ウルドゥー

  • ये】ヒンディー

  • ইয়ে】ベンガル

  • เย】タイ[jeː イェー]

  • ເຢ】ラオ[jeː イェー]

  • 耶 / Yē】中国

  • 】韓国

その他の固有名詞

  • Yeh】フランス - 中国の“葉・叶”姓。

  • یہ】ウルドゥー - ミャンマーの地名“イェー”。

  • ယေး】シャン、パオウ - ミャンマーの地名“イェー”。

  • ရေး】ビルマ - ミャンマーの地名“イェー”。

  • ရေဝ်】モン - ミャンマーの地名“イェー”。

  • เย่】タイ[jeː イェー] - 中国の地名“”。

  • イエ】日本 - 中国の“葉・叶”姓。