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アルバニア語の拡張ラテン文字

11月22日はアルバニア語アルファベットの日です。

アルバニア語では1908年のモナスティル会議で現行ラテン文字正書法が採用される以前は、拡張ラテン文字を含む表記法が多数生み出されました。

トップ画像はスタンブール文字に含まれる拡張ラテン文字と発音が英語と異なる字母で、にしき的フォントで使用が可能です。

ユニコードに存在しないラテン字母はゲタ記号《〓》で表示しています。

スタンブール文字

スタンブール文字はアルバニア語のラテン文字正書法候補だったもので、一部字母が本来のラテン文字と異なる用法になっています。
C, J, Q, X, Y》字母は現行ラテン文字正書法に影響を与えています。

吉川弘文館・刊『世界の文字の図典』では、スタンブール文字の字形が確認できますが、にしき的フォントに採用されたグリフは一部異なっています。

A・a】[a ア]
B・b】[b ブ]
C・c】[ʦ ツ]
Ç・çセディラ付きC[ʧ チ]
D・d】[d ド]
Ƃ・〓DH〉】トップバー付きB/アルバニア語DELTA[ð ズ] - 小文字はギリシャ文字デルタδ》とラテン文字ディーd》を合成したような字形。
E・ɛE》】ラテン大文字E/オープンE[ɛ エ] - ギリシャ文字エプシロンΕ・ε》に合わせた表記。
〓・eË・ë》】クローズドE/ラテン小文字E[ə アまたはウ] - 大文字は冥王星記号》に似た形状。
F・f】[f フ]
G・ɡG・g》】ラテン大文字G/スクリプトG[ɡ グ] - 小文字は国際音声記号と同じく手書き書体のものをローマン体にしたもの。
Γ・gGJ〉】ギリシャ大文字GAMMA/アルバニア語GAMMA[ɟ ヂュまたはギュ] - ラテン小文字ジーg》を変化した形状だが、『世界の文字の図典』に記載のものでは本来のローマン体小文字であるカロリンガ書体ジーの字形。
H・h】[h ヘ]
I・i】[i イ]
J・j】[j ィ]
K・k】[k ク]
L・l】[l ル]
Λ・λLL〉】ギリシャ文字LAMDA[ɫ ルまたはゥ] - ラテン文字では同型の大文字《Ʌ》がある。
M・m】[m ム]
N・n】[n ヌ・ン]
И・ƞNJ〉】リバースドN/右ロングレッグ付きN[ɲ ニュ] - ユニコードではリバースドNはスモールキャップ《》のみ存在。大文字はキリル文字Iと統合されている。
O・o】[o オ]
Π・〓P・p》】ギリシャ大文字PI/オープンP[p プ] - 小文字は『世界の文字の図典』記載のものではキリル小文字ペーп》の左レッグを伸ばした形状。
Q・q】[c チュまたはキュ]
R・r】[ɾ ル] - スペイン語などのようにはじき音を示す。
P・pRR〉】[r ル] - ギリシャ文字ローΡ・ρ》やキリル文字エルР・р》に合わせて、ふるえ音を示す。
S・s】[s ス]
Ϲ・σSH〉】アルバニア語SIGMA[ʃ シュ] - 大文字はギリシャ文字ルネイトシグマϹ・ϲ》に由来する大型小文字シーあるいはその変形で、小文字はギリシャ小文字シグマ及びその変形。
T・t】[t ト]
ϴ・〓ラテン大文字THETA/アルバニア語THETA[θ ス] - 大文字はバー付きOƟ》あるいはテータシンボルϴ》と統合。小文字はラテン小文字エーa》を縦長に伸ばした《ɓ》を左右逆にしたような字形だが、にしき的フォントのものはフリケイティブDで代用される。
U・u】[u ウ]
V・v】[v ヴ]
X・x】[ʣ ヅ]
【〓・〓】XHE[ʤ ヂ] - 字母名はにしき的フォント準拠。ヘブライ文字ツァディצ》をラテン化した字形。
Y・y】[y ユ]
Z・z】[z ズ]
Z̧・z̧セディラ付きZ[ʒ ジュ] - アラビア文字ZAHظ》の翻字表記や沖縄語ローマ字に見られるがユニコードに採用されなかった字母で、Zとダイアクリティカルマークのセディラとの合成で示す。

クリストフォリジ式ラテン文字

ギリシャ文字由来の拡張ラテン文字を取り入れたものになっていて、ダイアクリティカル付き字母は東欧諸国の各言語の影響を受けています。
TS〉[ʦ ツ]や〈DS〉[ʣ ヅ]といった連字もあります。

Δ・ẟDH〉】ギリシャ大文字DELTA/ラテン小文字DELTA[ð ズ] - ラテン文字は小文字のみ採用されたが、大文字はギリシャ文字のものと統合された。
Ẹ・ẹË・ë》】下ドット付きE[ə アまたはウ]
Ǵ・ǵGJ〉】アキュート付きG[ɟ ヂュまたはギュ]
Θ・θTH〉】ギリシャ文字THETA[θ ス] - スタンブール文字と異なり、本来のギリシャ字母をそのまま用いる。
Ḱ・ḱQ・q》】アキュート付きK[c チュまたはキュ]
Ĺ・ĺLL〉】アキュート付きL[ɫ ルまたはゥ]
Ń・ńNJ〉】アキュート付きN[ɲ ニュ]
Ṙ・ṙRR〉】上ドット付きR[r ル]
Š・šSH〉】キャロン付きS[ʃ シュ] - 連字〈〉[ʤ ヂ]と〈〉[ʧ チ]にも用いる。
Ṳ・ṳY・y》】下ダイエレシス付きU[y ユ]
Y・yJ・j》】[j ィ] - 英語やスペイン語と共通の表記。

旧アルバニア・ラテン文字

15~19世紀頃に使用されていた初期アルバニア語ラテン文字で、イタリア語ラテン文字をベースにしています。ギリシャ文字の字母を取り入れたり、独自の字母を生み出しています。

字形はGoogleブックス内の『Regole grammaticali della lingua albanese』や『Memoria sulla lingua albanese』で確認できます。

〓・〓DH〉】DHELTA[ð ズ] - 推測による字母名の日本語表記は〈ゼルタ〉で、英語表記では〈THELTA〉。インド・ルピー記号》に似た字母で、連字で現行ラテン字母のTH[θ ス]音を示す。
Λ・λLL〉】ギリシャ文字LAMDA[l ル]
Ɛ・ɛZ・z》】オープンE[z ズ] - 本来の小文字はターンド3》に似た形状。
Ȣ・ȣY・y》】OU[y ユ] - ギリシャ文字OUΟΥ〉[u ウ]の合字と発音が異なる。
Z・zX・x》】[ʣ ヅ] - 連字〈ZZ〉は現行ラテン字母のC[ʦ ツ]音を示す。

新アルバニア・ギリシャ文字

アルバニア語では拡張ラテン文字の他に、19世紀後半に拡張ギリシャ文字が作成されました。
ギリシャ大文字の《Β, Γ, Ζ, Κ, Ν, Ρ, Σ, Χ》を左右逆にした字母や《Δ, Λ》を変形させた字母が採用されています。小文字では《γ, ν》が別字に置き換わるなど一部異なるものがあります。
Googleブックス内の『Alvanikon alphavētarion』で字形が確認できます。

Β・β】[b ブ] - 字母名はBA[バ]。
ꓭ・〓リバースドBETA[v ヴ] - 字母名はVA[ヴァ]。
Γ・〓大文字GAMMA/小文字GKE[ɡ グ] - 字母名はGE[ゲ]。小文字はロングレッグ付き《г》。
Ꞁ・〓リバースドGAMMA/リバースドGKE[ɟ ヂュまたはギュ] - 字母名はGJE[ヂェ]。
〓・δロワーライトDELTA/小文字DELTA[d ド] - 字母名は[ダ]。大文字はデルタ《Δ》を《》の向きに傾けたもの。連字〈ΔΖ・δζ〉はX[ʣ ヅ]で、その連字のゼータを左右逆にするとXH[ʤ ヂ]となる。
【〓・〓】ロワーレフトDELTA/リバースドDELTA[ð ズ] - 字母名はDHË[ザ]。大文字はデルタ《Δ》を《》の向きに傾けたもの。
Ζ・〓大文字ZETA/スモールZETA[z ズ] - 字母名はZI[ズィ]。小文字は本来のゼータ《ζ》をx幅に圧縮した字形。
〓・〓リバースドZETA[ʒ ジュ] - 字母名はZHI[ジ]。
Η・η】[ə アまたはウ] - 字母名はË[ア]。
ꓘ・〓リバースドKAPPA[c チュまたはキュ] - 字母名はKE[ケ]。
〓・λリバースドL/小文字LAMDA[l ル] - 字母名はLO[ロ]。大文字はラムダ《Λ》をエル《L》を左右逆にした字形に置き換えたもの。
L・〓ラテン大文字L/リバースドLAMDA[ɫ ルまたはゥ] - 字母名はLLO[ロ]。大文字はラムダ《Λ》をラテン文字エル《L》に置き換えたもの。
Ν・〓大文字NU/リバースドパンフィリアンDIGAMMA[n ヌ・ン] - 字母名はNY[ニュ]。小文字はパンフィリア語ディガンマͷ》を左右逆にした形状。
Ͷ・ͷパンフィリア語DIGAMMA[ɲ ニュ] - 字母名はNJY[ニュイ]。
Π・ϖ大文字PI/PIシンボル[p プ] - 字母名はPA[パ]。
【〓・〓】リバースドRHO[r ル] - 字母名はRRO[ロ]。
Σ・σ】[s ス] - 字母名はSI[スィ]。アルバレシュ語ギリシャ文字と同じく、語末にファイナルシグマ《ς》が使用されない。
【〓・〓】リバースドSIGMA[ʃ シュ] - 字母名はSHI[シ]。
ϒ・υ】[y ユ] - 字母名はY[ユ]。
Φ・φ】[f フ] - 字母名はFA[ファ]。
Χ・χ】[h ヘ] - 字母名はKHY[ヒュイ]。現行ラテン文字正書法では《H h》だが、ドイツ語〈CH〉など[x]音を含む単語に由来する借用語に用いられる。
〓・〓リバースドCHI/スモールCHI[h ヘ] - 字母名はHY[ヒュ]。
Ω・ω】[u ウ] - 字母名はU[ウ]。