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ローマ字=ラテン文字のゼットの字の代替表記について

5月20日はローマ字、すなわちラテン文字の記念日であるローマ字の日で、昭和22年4月にローマ字教育が義務教育に導入されてから75周年を迎えました。

その節目の年に、ロシア軍のウクライナ侵攻の影響でローマ字=ラテン文字の最終字母であるゼットが数ヶ月前から一部の国や地域で罰則付きで使用禁止になったり、企業ロゴや映画タイトルの変更も目立つようになりました。

日本ではマスコミで新語のゼット世代が多用されていたりなど、余波の影響がまだ出てきていないのですが、ある日突然ゼットの字が使用禁止になった場合における、ザ行音を表す字母の代替表記を考えなければならないようです。

1. 英語に倣っての語頭《X》, 語中《S》によるザ行音表記

英語ではエックスX・x》が語頭でザ行音、エスS・s》が語中・語末でサ行音からザ行音に変化する変則的な綴りがあることから、ゼットの代替表記として現実的なものになりそうです。

2. アルバニア語に倣ってザ行音を《X》で表記

アルバニア語では《X・x》の字が日本語のザ行音語頭の発音である〈ヅァ行音〉を示していて、日本語からの借用語ではこの表記ではなくゼットの字で表記される傾向があるようです。
アルバニア語ではジャ行音は連字〈XH・Xh・xh〉で表記されます。

3. ベトナム語方式でザ行音を《D》, ダ行音を《Đ》で表記

ベトナム語のローマ字表記であるクォック・グーでは、伝統的にザ行音はディーD・d》, ダ行音はストローク付きディーĐ・đ》で表記するのがルールとなっていますが、21世紀に入ってからクォック・グーで本来使用されないラテン字母が採用されてから《D》が英語など外国語本来の綴りの場合にダ行音で使用されるようになっています。
元々ベトナム語でゼットの字が存在しなかったため、クォック・グー本来のザ行音・ダ行音表記を取り入れて対応できるように思われます。

4. インドネシアの各民族諸言語に倣ってザ行音を《J》で表記

インドネシアの民族言語の大半ではゼットの字が元々字母表に含まれていないことから、外来語のザ行音はジェーJ・j》で表記される場合があります。ブギス文字・バタク文字・ルジャン文字はザ行音を示す字母が存在しないことから、ザ行音はジャ行音の字母で代用されます。

韓国語のローマ字表記におけるザ行音に当たる字母は、ハングル字母ジウッ》に合わせた《J》となっています。

5. サ行音・ザ行音を区別せずに《S》で表記

アイスランド語では1973年にゼットの字が原則的に廃止されたことから、外来語のサ行・ザ行は共にエスS・s》で原則的に表記する方針となりました。
ドイツ語では《S》は語頭では母音に続く場合はザ行音ですが、外来語の場合はサ行音となることから、サ行・ザ行の区別はなされないです。
ゼットの字はドイツ語でツェットと呼ばれるようにツァ行音を示すのですが、ツェットの代替表記は連字〈TS・Ts・ts〉で対応できるように思われます。

6. 英語の連字〈DS〉による代替表記

英語の複数形に見られる〈DS・Ds・ds〉はヅァ行音であることから、ザ行音の代替表示として使用される可能性がありえそうです。
英語の二重子音綴りは〈KN-〉ではナ行で〈PT-〉ではタ行という風に単音になることから、ゼットの代用としてのザ行音表記で〈DS-〉が現実的のようです。

7. 拡張ラテン文字の導入

ゼットに代わる拡張ラテン文字を導入して、ゼットの代替表記として使用する方式です。
左右逆のエスƧ・ƨ》は株式会社明治のプロテイン飲料ザバスのロゴに使用されているゼットの代替表記で、鏡文字としての効果を出しているものですが、ゼットの代わりになることも暗示しているようです。

エッジュƷ・ʒ》及びヨッホȜ・ȝ》は英語ゼットの筆記体がこれらの字母に似ていることから日本語ローマ字における筆記体ゼットもこれらの字母に似たものとなっていることから代用となります。

令和4年1月にお笑い芸人コンビ・しずるのKAƵMAさんが現在の芸名に改名したのですが、わずか数ヶ月でウクライナ情勢の影響でゼットの字が使用禁止になる国や地域が出てくる想定外な事態が起こってしまう不運があったのですが、ストローク付きゼットƵ・ƶ》はロシア軍のウクライナ侵攻支持とは無関係の意味合いが強いので、代替表記になることもあるようです。
ストローク付きゼットはかつてアゼルバイジャン語などの拡張ラテン文字体系であるヤナリフで採用された字母で、フランス語の《J》と同音です。英語の人工文字・ユニフォン文字ではザ行音を示す字母として採用されました。

8. ゼット/ゼータの字形を本来の字形《𐊈》に戻す方式

ラテン文字ゼット及びギリシャ文字ゼータζ》の古代の字形は“エ”の字に似た《𐊈》で、現在はティフィナグ文字ヤッジュ𐊈》にその形状が温存されています。
国際音声記号スモールキャピタルIɪ》に対応するラテン大文字スモールキャピタルアイ》がゼット本来の字形(※フォントによっては通常のアイ《I》と同字)となっています。
ゼット/ゼータの字を古代ギリシャ文字の字形に戻すことで、ロシア軍のウクライナ侵攻支持のゼットシンボルとは無関係になることから侵攻支持ではないことが伝わると思われます。

おわりに

今年は日本の義務教育におけるローマ字教育導入が75周年を迎えた節目の年ですが、その一方でラテン文字ゼット及びそのルーツであるギリシャ文字ゼータが今後の世界情勢によっては存続の危機にあることから深刻な状況になっています。

ゼットがロシア軍のウクライナ侵攻支持目的のシンボルとして使用されていることにより一部の国や地域でゼットの字が使用禁止にされたことから、侵攻支持とは無関係でも使用しづらい状況もあることから、ザ行音の代替表記が急がれることもあるようです。

ゼット/ゼータの字の今後の行方が気がかりです。