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赤ちょうちんと500円玉

久しぶりに妻と飲みに行った。
ふたりきり💖
食事を作らなくていいと言うだけで、お目目キラキラ。
強くもないのに、大ジョッキ。
なのに、些細なことで言い合いになってしまった。
結婚前の異性関係だっけ。
結婚して何年たつんだよーって言ったらプリプリし出して。
どうしちゃったんだか全然わかんない。
それからはどんな話題を向けても生返事。
なんか気に触ること言ったんかなあ。
ゴキゲン!とは言えないものの、3時間は飲んだ、食った。
妻はサンマの巻き寿司を食ってから、やっと機嫌が直ったらしい。
「熊本の馬肉とねえ、この巻き寿司がここの名物なんだ」って。
そんな妻の横顔を見ながら、相変わらず生ビールをやっている。
まだオレは妻に惚れてるんかなあ〜などと柄にもないことを考えていたら、なんとなく幸せな気分になった気がする。
以心伝心というのか、妻の顔色が良くなったのもその頃だった。
「ずっとわたしを見てるのやめてほしいわ。照れくさいより、隙を突こうという態度が見えるわあ」と言って笑う。
どういうことだ、照れてるな、わかるよ。
まだ君もオレに惚れてるんだ。

「なんかさあ、甘いもの食べたいよね?」
「isn't itだな。うん、いいね」
妻が腕をつかむ。
腕を組もうとしたのだろうが、反対方向に歩き出してしまったからつかむ形になってしまった。

「このでっかい提灯見てみな。もうかれこれ40年はぶらさがってる。何代目だろうな」
「4代目だ」お、ちょうちん、しゃべったな!
「久しぶりだなあ、ちょうちんめ!何年振りだよー!オレのこと覚えてたか」
「覚えてたよ。毎日午前2時くらいまで飲んでは車の中で寝てたからな。そのうち死ぬだろうと思ってたが、まだ生きてたな」
「ひどい言われようだな。赤ちょうちんには厄を遠ざけるっていう力もあるそうだから、案外お前さんの力かもしれんな」
「ふふ、嫁さんが機嫌を直したのもオレの力だぞ。長い付き合いなんだから、気づけよな」
本気で言ってんのか。
「まあ嫁が手を引っ張るんで、今日は帰る。また来るよ」
「おお、楽しみにしてるぞーって、お前何か忘れてやしないか」
「忘れてねえよ。ほれ、500円玉だろ」
「はい、ありがと。またきてくれるまで、オレが守ってやるからなー」
「もう一枚入れとくから、こいつのことも頼むよ」
「よしよし、じゃあもう一枚」
ちゃりん!
「なに、提灯にお金入れたの?」
「うん、お守りだよ。この店とも提灯とも長い付き合いだからな」
と、また妻のご機嫌を損ねてしまいそうなことを言ってしまった。
手を離してひとりで歩いていく。
ちょうちんを片手でおがむ。
「しょうがねぇなあ、学習しろよな」
ちょうちんに怒られる人間。
本末転倒だ。
「早くおいでよ〜」
出会った頃とあんまり変わってないかもなぁ。
40年来の古女房め。

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