ぼくたちだけの合言葉

誰かがドアをノックしている。
コンコン、コンコンコン!
「なんでチェーンロックかけてんのさ」
外で女の声がする。
「ほらほら、開けなさいって。怒るよ」
顔など整形もできる時代だ。
見た目で判断する時代は、もう半世紀も前に終わっている。
「合言葉は!」
「アホ!私だよ!顔見てわかんないのかよ」
「合言葉は」
「ちっ!『好きだよ』」
よし、合格だ。
しかし合言葉はふたつ設定してある。
「パスワードは?」
「もーう!『ギュッとして』ほら、あけて!」
ガチャ
「おかえり!」
「恥ずかしいからもう少し人前でも言えるような合言葉にしようぜ」
「なぜだ。付き合いが長くなってお互いが空気のような存在になっても、互いの気持ちが確認できる、いいシステムじゃないか」
「イヤ。付き合いきれないそんなの。50過ぎのおっさんがおかしいぞ!」
なんとでもいえ。
「口に出すことこそが力なのだ」
「もういいや、面倒くさい。好きにしろ。どうせあんたが休みの日だけだから」
よおーし、玄関に音声認識システムを設置するかなあ!
「あんた、そんなとこで仕事すんな!」

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