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ベースギターのひとりごと(2199字)

ぼくの名前は4001って言うんだ。
おかしいかい?
だってぼくは楽器だもの。
アメリカ生まれで、今年23才。
作った人はリッケンバッカーっていう人なんだ。
ドイツ人みたいな名前だけど、正真正銘のアメリカ生まれ。

生まれてからすぐ日本にやって来た。
買ってくれた人は、楽器は弾かない人だったけれど、ぼくに一目惚れして買ってくれたらしい。
わかるよ、その気持ち。
すぐ飾ってもらった。
楽器だから眺めるだけって本意ではないけれど、あちこち引きまわされるよりは楽じゃん。
だらしない生活と言われれば、確かにそうだけれど、その間ぼくは何もせずじーっとしてた。
何年かたってケースの中にしまわれちまった。
ボディが日焼けするとか言ってた。
しかし今度はケースの狭い中に入れられて、新鮮な空気に触れることもなく過ごすことになった。

暗くてカビ臭いケースの中でどれだけ過ごしたのだろう。
ある日ぼくのピックアップフェンスが外された。
「これだけでも高く売れるんだよ」って言ってた。
ぼくは売られていくの?
1度も弾かれることがないままに。
ある日連れ出された。
裸のまま、ケースにも入れられずに。
この仕打ち、何?
あまりにもひどくない?
「ケースなんか壊れてなくなったって言えばいい。バラしたほうが高く売れるから」
連れて行かれる時、そんな話が聞こえて来た。
弾きもしない楽器を買う人って、みんなこうなの?
お店に連れられて行き、ボディをきれいにふいてもらった。
前とは比較にならないぼろっちいケースに入れられて、違う人に渡された。
「裸じゃあね。このケースあげるわ」って。

どうやらぼくを買った人が連れに来たみたいだ。
きれいな女性と2人で、目をうるうるさせながらやって来た。
「飾ってあっただけらしいから、傷はほとんどないよ」
確かにそうだけど....楽器としてのプライドややる気は地に落ちたよ。
好きにしてくれよ、ともう投げやりな気分だった。
ところが、翌日からいっそうひどい目に!
弾かれたこともないのに、毎日4〜5時間弾かれるんだ。
寝起きなのに、準備運動もなしに仕事に行かないだろ!
もうね、自分の運命を呪ったよ。
しかもこいつがとびっきりの下手くそで、まともに弾けやしない。
オルタネイトピッキングもできない人のところにぼくは来てしまったのか。
しかし少しずつぼくもこなれて来た。
下手くそなのは全く変わらないけれど、ケースに押し込めたりしないし、ボディケアもしてくれる。
「少しは鳴ってやるよ」って思ったもんだ。
この下手くそ、身の程知らずで、ぼくを連れてセッションに行くんだ。
「もうやめてくれよう、ヘタクソ!ぼくはリッケンバッカーベースだぞ!お前の演奏は恥ずかしすぎるから!」怒鳴ったさ!けど通じるわけもない。
しかしお客さんから「かっこいいねえ。ホンモノ?」と言われるようになった。
そう、ぼくホンモノです。
といっても4001の復刻モデルですが。
やっと日の目を見た気がした。

そんなある日、いつものように弾かれていた。
Somethingという曲を練習し始めた時のことだった。
「聞くに耐えない演奏」から、少しだけまともになった頃、事故は起こった。
スタンドにベースをかけようとしてよろけた。
あわててぼくを守ろうと自分が下になったが、ネックが水槽のふちに当たった。
カツン!という音!
いや、ぼくには「ボキッ!」と聞こえた。
背中が痛い。
弦を抜いたもらったけれど、関係なく痛い。
もうダメか?
骨折れてんぞ、これ。
すぐに病院へ。
「うーん、ちょうどネックとボディの接合部から避けるように折れてますね」
やっぱり折れてた。
サラブレッドは足の骨が折れたら処分されるという。
じゃあ楽器は?
骨が折れたら処分なの?

「これはかなり重症ですねー。どうしますかー、直しますか。他の人になら『処分して、新しいのを買いましょう』っていうけれど、くじら山さん、大切にされてるみたいだから、聞きました」リペアマンが言いました。
「直してください。全然悩みませんよ」
直してもらえるそうだ。
「いくらくらいかかりますか」
「うーん、なるべくがんばります」
とにかく直してもらえるらしい、よかった。
ぼくはいまどき珍しいスルーネックという構造のベースギターです。
ボディにネックだけを取り付けるのが主流ですが、ぼくはネックからボディまで、一本の木が通っていて、そこに板が貼り付けてある。
だから修理が大変なんだそうです。
ネックを外して、削りながら調整し、元々構造的に弱かった部分にも補強材をいれてネックとボディを取り付ける。その関係でフロントピックアップを3cmほど後ろに下げてもらいました。
うん、背中がしゃんとしたぞ!
ついでにご主人さんが気に入らなかった、ネックヒールを丸く削ってもらい、ピックガードの色も変更、メイプルグローのボディにゴールドピックガード、トラスロッドカバーがついた。
精悍な印象になった!
電気系統もリフレッシュしてもらってぼくは蘇った!!!
お金は相当かかったみたいだけれど、今は元気にやってる。
ご主人さんも昔よりは少しはマシに弾くようになったから、ぼくの負担も小さい。
23年間生きて来て、やっと幸せになれた気がする。
やっぱり僕らは弾いてもらってなんぼだよなあ。
たとえガタガタになろうが、音を出してガタガタになるなら本望だと、今は思えます。

ぼくの正式な名前はRickenbacker 4001V63改です。
今は胸を張って言えます!

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