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切れかけの蛍光灯

わたしのあだ名、蛍光灯。
学級委員までやってるのに、こんな言われ方ひどいと思うわ。
省略する必要もない「かな」っていうシンプルな名前なのに、なんで蛍光灯なんだ?!
なぜかなちゃん!ってかわいく呼んでくれないの?
ほんと頭きちゃう!
学級会で「静かにしてくださーい!」なんて言おうものなら、「蛍光灯が切れかけてるぞ!」とかっていう。
わたし、何も言わないけど、すんごい怒ってんだよ。
学級委員なんかやめてやるぞ、いつでも!
茶化すなんてほんと頭来る!
さらにいうと、「蛍光灯」って名前をつけたのが隣に座ってるサルなんだ。
一人前に鈴木なんとかっていう名前もあるけれど、サルにはもったいないわ。
こいつ最低なやつ!
授業中鼻くそほじっては、机の裏側にねだりつけてるんだ。
サルは見つかってないつもりだけど、わたしはちゃんと見てる。
授業中は教科書に落書きばっかりしてるし、数学の時間に国語の教科書読んでたり。
そのうち先生に言いつけようと思ってたある日。
サルがわたしを避けるようになっていたことに気づく。
わたしが一体何をしたっつーんだよ。
「後で下駄箱の横にこいよ!」って言ってやった。
こいつしめてやらないと気が済まない!
でもサルは来なかった。
逃げやがった。なんてやつだ!
男のくせに勝負できないらしい!
もう口聞いてやらない、と翌日一方的に宣言した。
サルは返事どころかこちらを見もしない。

家に帰ってからベッドにゴロンと寝転がった。
あいつはなんであんなにふざけてるんだろう。
友だちの祥子は、「サルはあんたのことが好きなんだよ、きっと」と言って大口で笑い出す。
こいつもおちょくってんのか!?
「いや、あたしは真面目だよ。笑ったのはあんたがあんまり深刻な顔をしてるからだよ」
蛍光灯、切れる前に交換するか。

わたしは糾弾する手紙を書くことにした。
幸い作文は得意だ。
奴の悪事の数々を紙に認めて、叩きつけてやろう、そう思った。
簡潔に書いたつもりだったが、原稿用紙2枚になった。
四角く四つ折りにして、裏が空白の新聞広告で包んだ。
真ん中に大きく「鈴木幸司へ」と書き、漫画によくある怒りマークを右の上に書いた。
翌日、黙ってサルの机の上に叩きつけてやった。
「これ読め!」
あちこちからラブレターかよ〜の声が聞こえてきた。その声がする方をキッとにらんでやった。サルはクシャっと握り潰してポケットに入れた。
サルは次の日、授業の途中で帰って行った。
インフルエンザだそうだ。
インフルエンザって風邪よりかっこいいよな、あいつらしいわ、と思った。
きっとあたしをいじめたバチが当たったんだ。
神様はいるよ。
でもあいつ、手紙読んだかな。
インフルエンザだなんて、ちょっとタイミング悪かったな。
ちょっぴりかわいそうだったかな。

1週間ほど休んでサルはまた元気に出てきた。
知らん顔してるのは相変わらずだった。

2時間目は理科。
酸素を発生させる実験とかで、理科室移動。
またサルは問題起こしそうだな、と顔を見たら目が合った。
えっ。
「おい、これ」
くしゃくしゃに丸めた紙を突き出した。
「何よ、これ」
「返事だよ、読めよ」
「返事?返事なんかいらないよ。しかもくしゃくしゃに丸めてあるってなんだよ」
サルはそれを私の机の上に置いたまま教室を出て行った。
ひとり教室に残ったあたしはそのゴミを広げた。
きったない字で5行くらい書き殴ってある。
いや、書いてあった。


切れかけの蛍光灯へ。
おれの中にはおまえがいっぱいいる。
2人だけで遊びに行きたい。
お前の目だけを見ていたい。
いつも一緒にいたい。
手を握って歩きたい。

なんだこれ?
ラブレターか?
まじめなのかふざけてんのかわかんないな。
「おいっ!」
後ろから大声で呼んだのは祥子。
「ラブレターだろ!私の言った通りじゃん!あんた中学生にもなって鈍すぎるんだよ!」
紙のしわを広げながら、ぼーっと祥子の顔を見る。
「誘ってあげなよ。子供みたいなやつだけど、いいやつだよ」
「うん」
「理科室行くよ!」
「うん」

チラチラと視線を感じていなかったわけではなかったが、まさかこんなことになっていたなんて。
男の子はわからないな。
また手紙書いてやろうか。面と向かって話すのは恥ずかしすぎるから。

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