見出し画像

近況と雑感

えらいことになってもうすぐ1年経ちますね。皆んなそれぞれ大変だと思いますが、希望を棄てずに頑張っている人たちに励まされながら、なんとかもがいているそんな年の瀬です。

不安や恐怖には、自動的に尾ひれが付いてきます。私も根本的に尾ひれ付け職人なので、時にパニックになったり絶望的な気分になったりしますが、あたたかな眼差しと気持ちを注いでくれる人は、一瞬でそんな尾ひれを取り払い、この場所に立つ自分自身を素直な気持ちにさせてくれます。私は幸せもんなんだと思います。

多分、それは愛なんだろうと思いますが、時代の変わり目、愛とは何かという本当は具体的なテーマを、ぼやーんとした眼でぽかーんと眺めています。その昔「愛ってなに?歌にして分かるの?」と歌った私ですが、今ならほんの少しだけ分かるような気もします。

くるりの2020年は、マイペースではありましたが、このコロナ禍において、それなりに怒涛の活動に見えたことと思います。

残念ながら、多くの方々と濃密に2020年の気分を共有するはずだったライブツアーは中止になり、急いで『thaw』を発表し、その後ももがきながら配信ライブなり「くるりのツドイ」なり音博なり岸田繁楽団なり、その時のエネルギーでやれることをやったりして、それはそれは関係者やお客さんの熱い気持ちに支えられて過ごすことが出来たので、私たちは幸せもんです。

くるりは来たる新作に向けて、ライブツアーなどに費やす予定だったエネルギーを制作に注ぎ込んでいます。前哨として『益荒男さん』『大阪万博』をリリースしましたが、この文を書いている翌日12月25日には『コトコトことでん』と『赤い電車(Ver.追憶の赤い電車)』がリリースされます。

『益荒男さん』は、くるりには珍しい時事風刺がテーマの楽曲です。時の為政者、闇に葬り去られる罪、揺れるジェンダー論、時代の狭間にある様々な価値観、コロナ禍における社会混乱、SNS、監視社会などについて、それぞれに対して全く答を出すことなくただただデッサンしました。

川上音二郎氏の『オッペケペー節』より歌詞を引用しましたが、明治時代の困窮について、令和時代に読み取る作業は興味深いものでした。「思考停止」とは何か、ということについてこの楽曲においては強いメッセージを込めました。

『大阪万博』ですが、ライブのために制作した「難曲」です。骨組みだけ作り、ライブツアーなんかでも演奏していましたが、まるでサグラダファミリアのように、継ぎ足して継ぎ足して、追いスープっていうんですかね、結局とてもコッテリとした楽曲に仕上がりました。

『Tokyo OP』の対になる楽曲ということで、安易に『大阪万博』と名付けましたが、タイトルに引っ張られるように、1970年の万国博や、2025年に行われることになっている大阪・関西万博のコンセプトを勉強しました。そして、前者は私が生まれる前、後者は未だ見ぬ未来ということで、まるで架空のものであるかのような「万博」と、そのそれぞれの時代がどのような価値観によって大きな力として推し進められていったのか、いくのか、私たちはとても感覚的にではありますが、音楽の中に封じ込めました。

この楽曲の製作中は、まだコロナ禍が始まる以前でしたが、時代のムードを深く切り取る努力を惜しみませんでした。流行りのサウンドを取り入れる、という意味での「時代感」ではなく、この時代が持つ最も困難な部分から、どうやって出口と解決策を見つけ、何と闘うのか、ということをアンサンブルの編曲やそれぞれの素晴らしい演奏をもって体現したと思います。

『コトコトことでん』は、実は2011年、高松琴平電気鉄道(通称ことでん)の創立100周年記念イベントにお呼ばれしてお邪魔した際、勝手にお祝いの曲として作っていったものでした。その後、録音して発表することはありませんでしたが、同電鉄のターミナル、瓦町駅の発車メロディーとしてこの楽曲を使っていただけるということで、大元のオリジナルを完成させなければ、との思いを持ち完成させたものです。

くるり(というより私)=電車=ゆる旅=アナログ感、みたいな漠然としたイメージを損なわないように、全く真逆のアプローチで制作に臨みました。歌っているのは京都出身のバンドhomecomingsのシンガー、畳野彩加さんです。私も歌っていますが、この雰囲気にはどうしても畳野さんの声が欲しかった。とても素敵な歌声です。

トラックは、最近受け持っている学生(ゼミの教え子)が制作しているチップチューン(8ビットのファミコンのような音楽)をヒントに、緻密なシンセのプログラミングと、佐藤さんのベース、私のカットアップして編集したアコースティックギターなどで構成されています。ヴォーカル・シンセというプラグインも初めて使いましたが、かなり緻密なプログラミングでした。デジタルで、アナログ感を出す、ということは大変やり甲斐のある作業でした。

最後に『赤い電車(Ver.追憶の赤い電車)』ですが、今年3月より行うはずだったライブツアーの目玉曲でした。新曲の発表はまだ早い、ということで、既存曲の大胆なリアレンジに取り組みました。テンポを上げ、ベースのパターンを全て新しいもの(スラップがかっこいいんです)に作り直し、『コトコトことでん』や他の新曲群で試している様々な手法を取り入れながら、全く新しい枠組みを作り、歌も歌い直しました。昔風の家を新築した、といった感じでしょうか。

ファンファンによるトランペットのアンサンブルも、相当緻密に作りました。彼女ならではのトーンと、リズミックでスリリングなスコアは、私もたいそう気に入っております。

年末にかけて、制作は追い込みですが、新しい音を出来るだけ早めにお届けできるよう注力しますので、皆さまもお体に気をつけて、平穏にお過ごしください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?