見出し画像

近況と雑感

最近観た映画。『トップガン・マーヴェリック』と『リコリス・ピザ』。ふたつともなかなか面白かったです。

この2作品、真逆のベクトルの作風ではあるものの、1970〜80年代アメリカの世界観をヲタク的なまでに追求する、という意味において、あまりにも良くできたパースペクティブ。コスプレの域を軽く超えてきます。映画ヲタクが作る映画ってエグいですね。音楽ヲタクも、とことんまで皆さんやってほしいところです。

ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)好きとしては、どうしても贔屓目で観てしまった『リコリス・ピザ』ですが、批判を恐れず言うと、映画全体としてPTAらしい酷さに磨きがかかっていて、たいへんコクがあります。

よくこんな退屈でグダグダした話を2時間観ていたな、と思いましたが、流石の構成力と言いますか、バランス?なのか演技力なのか脚本の素晴らしさなのか、ゴミだけでご馳走を作り、気の利いた珍味まで用意するあたり、PTAらしさは満点です。また今作は小ネタが多く、イーストウッド映画やテレビドラマを感じさせるコマーシャルさもあり飽きさせません。ヲタクがずっと興奮して話しているのを一方的に聞いている感じ、といったところでしょうか。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』的な極端な暴力表現も無く、物語自体に盛り上がりも凪も無く、使われている70年代のヒット曲にも大した驚きが無く、ジョニー・グリーンウッドの劇伴もいつものキレが無く、全てが「有った」先述の『トップガン〜』とは真逆の、「無い」映画ではあります。

この『リコリス・ピザ』、登場人物の殆ど全てが「話が通じない人」や「破綻している人」、「反社会的な人」あるいは「人の気持ちを考えない人」、「整合性がない人」なので、基本的にストーリーや登場人物に共感することが難しい作品です。娯楽作品に用意されるべき「大人っぽく気の利いた」ストーリーやシチュエーション全てが、設定されたキャラクターの病理によって台無しになっています。

小中学生くらいの子どもが、大人たちの不条理を目の当たりにしているかのような、かなり立体的な視点の映画作品だということに気付いたのは、上映1時間ほど経ってからでした。小学生目線なんです。多分この映画。コレがもうたまりません。PTAですね、やはり。ほんと凄いです。

ありがちな紋切り型のシーン、例えば愛を伝えるシチュエーションや、解り易い恐怖のシチュエーション。それらのシーンが、「おかしな人しか居ない過去の場所」の中で、不思議な熱を帯びます。

「おかしな人しか居ない過去の場所」こそ、現代社会の写鏡だとも言えるでしょう。ある意味、とことん今っぽい映画です。

寧ろ、そこを執拗なまで露悪的に取り上げる『リコリス・ピザ』よりも、「感動の美談に仕立て上げている風」の『トップガン・マーヴェリック』の方が、ある意味恐ろしい映画だと言えるかもしれませんが。

トム・クルーズってすごいです。『トップガン・マーヴェリック』についても、また折を見て書きましょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?