12/11 夢日記

塾の帰り道、いつもとは違う道で帰ろうと思った。環状線の脇を抜けて、知らない町に出た。町、と言うよりは農村と呼ぶのがふさわしいような、寂れた町だ。正面に暗く雑木林に囲まれた道が見える。手前にはコンビニエンスストアが一軒ぽつんと存在し―煌々と光を放ってはいるが全く人気を感じることはできない―、僕の進む道を直角に横断する二車線道路は右折しても左折しても住宅地ないし大通りに出られる。―自宅の方角から言うと、右折するのが得策であろうか―しかし僕は暗い雑木林沿いの一車線道路に直進してしまった。自分の中の悪い予感と好奇心に折り合いがつけられず、信号が変わると同時に自転車のペダルを強く踏む。小さな坂を上る。しかし少し進んだところで自転車のタイヤがパンクしてしまった。どうしたものかと悩んでいたら右斜め前、10メートルもないくらいの距離に小さい居酒屋らしき建物を見つけた。―左は雑木林で、ガードレールもなく、谷のようになっていて真っ暗な闇に引きずり込まれるような気がした―その建物に入るか迷っていると突然強い明かりに照らされて小さなクラクションを聞いた。いつの間にか後ろに停車していた大型車から―アラビア系かと思われる―髭を生やした彫りの深い男が降りてきた。カタコトの日本語で家まで送ってやる、と言ってきた。親切な人だと思った僕は彼に感謝した。車に乗り込もうとして気づいた。優しそうな面影とは裏腹に彼のタトゥーの入った左腕は筋肉がみなぎっていた。血走ったその目に危機を感じたまさにその瞬間、突然後ろから現れたフルフェイスのバイクの男に引き剥がされ居酒屋らしき建物につれていかれた。店に着くとヘルメットを外し彼は―ハーフと思われる美男子で、どこか幼さが残っていて場合によっては僕よりも年下かとさえ思えた―早速、さっきの男は最近ここいらで流行ってる人さらいで、この町の治安はとても悪い、ということを教えてくれた。命の恩人は助けてやったんだからなにか対価が欲しいなあ、等と嘯いた。僕は喜んでなにかを渡そうと思ったが特に金目なものは持ち合わせていなかった。すると僕のリュックを覗き込んだ彼は僕が塾の後立ち寄った中古店にて500円で購入したレコードを見て、欲しがった。今の時代、レコードなんて珍しいよな、と思いながら彼に手渡した。彼は顔を赤らめて喜んでいた。僕も喜んでもらえて嬉しかった。店のマスターに酒を勧められたが断った。なぜか彼は残念そうな顔をしていた。あんなことがあった後に美味しく飲める気がしなかった。代わりに貰った水もなんだか不味く感じた。しばらく命の恩人の彼と話し込んでいた。すっかりと意気投合した気持ちになっていた。奥の方の客らが奇異の目で僕を見ていた。もうそろそろ奴もいなくなっているだろう、と彼は行って店を出ることにした。いた。最初はわからなかったが暗い闇の奥で僕が出てくるのを今か今かと待ち構えていたのだ。僕は急いで彼のバイクの荷台に乗った。なのに彼はのろのろとゆっくり準備をしている。僕は1秒でも早く立ち去りたいんだ。僕は彼を急かそうと彼の体を大きく揺さぶった。 しかし彼は一向に動こうとしない。気づいてしまった。こいつも共犯だ。目が冷たすぎる。左脇に大型のナイフホルダーを携えてることになんで今まで気づかなかったんだ!僕は飛び降りるとハーフの男の首を掴んで左に広がる雑木林の谷間の闇の中に放り投げた。こう見えてケンカは得意なんだ。すると近くまで来ていた大型車から男が下車して俺に向かってきた。なぜ俺を狙うんだ。大振りの薙を避け、腹に蹴りを入れる。振り回したナイフで頬が裂けた。熱い。鋭い冷たさは激しい熱に変わっていった。心臓の鼓動に合わせて頬から血が溢れる。また男が向かってきた。低い体勢で体当たりをして雑木林に叩き落としてやる。谷底の男の呻き声が聞こえる。今更だが今夜はよく冷える夜だ。月もなく虫の声もない、本物の闇だ。男はナイフを下から突き上げてきた。これじゃ体当たりは無理だ。右に避けた。最高の角度だ。右のアッパーを全力で放つ。クロスカウンターの形で男のナイフが僕の左耳を下から切り落とす。痛い。更に一撃を男に食らわせ、男を闇に突き落とした。倒れそうだ。しかしここでは眠れない。いずれ奴らが這い上がってくる。どうする!居酒屋か?いや、あそこはダメだ他の客もグルか傍観者だろう。どこに逃げる!……コンビニ!そうだあそこならなんとかなるかもしれない!走りながら全速力で脳を回転させる。ぐにゃっと世界が揺れる。待てよ。あのコンビニも信用できないぞ!でも、じゃあどうする!鈍い痛みが頭に響く。なにっ!もう来たのか!しかしふりかえってもだれもいない。ふらふらとしながらコンビニをめざす。あと20めーとるもない!はやく!ダメだあしがいうことをきかない!あ!あ!ぼくはとうとうたおれこんでしまったこんびにがどんどんとおざかる―まってよ!―くそっあとちょっとなのに! あ! あ! あ。 いたい。

あ。