見出し画像

GPT-4とClaude3(Opus)で特許の請求項を比較


はじめに

こんにちは、QunaSysの吉海です。今回、特許調査という膨大な時間と労力を要する作業を大規模言語モデル(LLM)で補助できないかを検証してみました。提案する特許の請求項を作成し、ChatGPT(GPT-4)とClaude3を用いて既存の特許請求項との比較を行いました。類似性の確認と文言による潜在的な特許侵害リスクの検証に重点を置き、LLMを活用することで、より効率的かつ網羅的な特許調査が可能となるか検討しました。本取り組みが特許調査業務の効率化と品質向上に寄与することを期待しています。

システムプロントは以下に通りになります。

あなたは特許を比較するAIです。提案内容と既存特許の情報を与えるので比較して、
類似しているかと侵害の恐れがあるかを考えてください。

特許侵害について例を提示します。下記の文章を参考にしてください。

本特許権は、特許請求の範囲において、以下のとおり技術的範囲が定められています。

お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、
伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、
焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を
実施するステーキの提供システムであって、上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備えることを特徴とする、
ステーキの提供システム。

これを構成要件に分節すると、以下のとおりとなると考えられます。

A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、
B お客様からステーキの量を伺うステップと、
C 伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、
D カットした肉を焼くステップと、
E 焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施する
ステーキの提供システムであって、
F 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
G 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
H 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備えることを特徴とする、
ステーキの提供システム。

第三者が以上のA~Hの全てを充足するステーキ店を経営した場合、本特許権を侵害することとなります。
反対に、たとえば、上記F「上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札」
を利用しない形態のステーキ店を経営した場合、他のA~E、G、Hを充足していたとしても、
本特許権の文言侵害とはならないと考えられます。

以下の出力例を参考にしてください。まず最初に結論を簡潔に述べてください。
user
# 提案
これは提案です

# 既存特許
これは既存特許です。

system
## 結論
類似度は低いです。侵害の恐れも低いです。
理由・・・・

これは、特許比較タスクに特化したシステムプロンプトで、提案内容と既存特許の情報を与えると、類似性と侵害の可能性について考察するよう指示しています。
特に重要なポイントは、特許侵害の判断基準として示された以下の部分です。

「第三者が以上のA~Hの全てを充足するステーキ店を経営した場合、本特許権を侵害することとなります。
反対に、たとえば、上記F「上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札」を利用しない形態のステーキ店を経営した場合、他のA~E、G、Hを充足していたとしても、本特許権の文言侵害とはならないと考えられます。」

これは、特許請求項のすべての構成要件を充足した場合に特許侵害となるが、一つでも欠けていれば文言侵害にはならないことを示しています。
下記の記事を参考に株式会社ペッパーフードの「いきなり!ステーキ」の特許権の事例の解説内容をプロンプトに含めています。

検証1(類似する特許を比較)

既存の特許から一部書き換えたものを提案に含め検証を行いました。
検証に使ったプロンプトは下記の通りです。太文字にしているのが書き換えた箇所になります。

# 提案
【請求項1】 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むことを特徴とする、ステーキの提供方法。
【請求項2】 上記お客様を案内したテーブルには、テーブル番号を記載した札があり、該札を持ってカットステージまでお客様に移動して頂き、該カットステージにおいて上記ステーキの量を伺うことを特徴とする、請求項1に記載のステーキの提供方法。

# 既存の特許
【請求項1】 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むことを特徴とする、ステーキの提供方法。
【請求項2】 上記お客様を案内したテーブルには、お客様名を記載した札があり、該札を持ってカットステージまでお客様に移動して頂き、該カットステージにおいて上記ステーキの量を伺うことを特徴とする、請求項1に記載のステーキの提供方法。

検証結果(GPT-4)

上記のシステムプロンプトを与えてGPTsを作り、プロンプトを与えて検証をしました。

## 結論
類似度は非常に高いです。しかし、侵害の恐れについては微妙な差異があるため、詳細な分析が必要です。

## 理由
提案された内容と既存の特許との間には、以下のような類似点と相違点があります。

### 類似点
- 両方の請求項1は、お客様を立食形式のテーブルに案内するステップ、お客様からステーキの量を伺うステップ、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ、カットした肉を焼くステップ、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップを含むステーキの提供方法について述べています。これは、基本的なステップにおいて全く同じです。

### 相違点
- 請求項2の主要な相違点は、テーブルに置かれる札に関するものです。提案された特許では、テーブル番号を記載した札があると述べていますが、既存の特許ではお客様名を記載した札があると述べています。これは、テーブルの識別方法に関する微細な差異を示していますが、ステーキの提供方法の核心的なプロセスに影響を与えるものではありません。

### 侵害の可能性について
侵害の恐れは、テーブルを識別する札の内容に関する相違点に依存します。この差異は、特許の保護範囲を解釈する上で重要な要素となり得ます。特許法では、請求項の文言に基づいて保護範囲が決定されるため、テーブル識別手段における「テーブル番号」と「お客様名」の使用は、特許侵害の判断において重要な差異となり得ます。しかし、全体の方法論が非常に類似しているため、特許法の専門家によるさらなる詳細な分析が必要です。

総じて、提案された特許と既存の特許は非常に類似していますが、侵害のリスクを完全に排除するためには、請求項2に記載されたテーブル識別手段の差異が重要なポイントとなります。専門家の意見を求めることをお勧めします。

類似度は高いと出力しつつも、しっかりと提案と既存の差異について指摘することができています。侵害のリスクについては、おそらくGPT-4のポリシーに触れてるためか、断言はせずに専門家による分析を促す文章になっています。

検証結果(Claude3)

次にClaude3 Opusで検証してみました。

## 結論

提案特許と既存特許は高い類似性があり、提案特許が既存特許を侵害する可能性が高いと考えられます。

## 理由

1. 両特許の請求項1は、ステーキの提供方法について同一の手順を含んでいます。具体的には、お客様を立食形式のテーブルに案内するステップ、お客様からステーキの量を伺うステップ、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ、カットした肉を焼くステップ、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップが共通しています。

2. 両特許の請求項2も、お客様を案内したテーブルに札を置き、その札を持ってカットステージまでお客様に移動してもらい、カットステージでステーキの量を伺うという点で共通しています。

3. 唯一の相違点は、提案特許ではテーブル番号を記載した札を使用するのに対し、既存特許ではお客様名を記載した札を使用する点です。しかし、この相違点は、札に記載する情報の違いに過ぎず、技術的には同一の手段(札の使用)を用いていると考えられます。

以上より、提案特許は既存特許と高い類似性があり、既存特許の権利範囲に属する可能性が高いため、提案特許が既存特許を侵害するリスクが高いと判断されます。

類似度が高いというGPT-4と同じ結論を下しつつ、侵害する可能性も高いを断言しているのがGPT-4との違いになります。相違点についてもしっかりと言及ができています。

検証2 (同一の特許を比較)

請求項が同一の特許を提案してみます。請求項の内容は検証1の既存特許の内容と同等です。

検証結果(GPT-4)

## 結論
類似度は非常に高いです。侵害の恐れが非常に高いと考えられます。

理由:
提案された内容と既存の特許内容は、請求項1と請求項2の記載においてほぼ同一の内容を含んでいます。提案における「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップ」、「お客様からステーキの量を伺うステップ」、「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ」、「カットした肉を焼くステップ」、「焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップ」というプロセスは、既存の特許と全く同じ手順を示しています。さらに、請求項2においても「お客様名を記載した札があり、該札を持ってカットステージまでお客様に移動して頂き、該カットステージにおいてステーキの量を伺う」というステップも既存の特許内容と一致しています。

既存の特許と提案された内容の間で新規性や進歩性が認められる差異が見受けられないため、提案されたステーキの提供方法は既存の特許の技術的範囲内に位置していると判断され、特許侵害のリスクが非常に高いと評価されます。新しい提案を行う場合は、既存の特許技術とは明確に区別されるような独自の特徴または改善点を盛り込む必要があります。

類似度と侵害の恐れが非常に高いという結論で、提案方法と既存の特許の差異がないことも言及することができてます。


検証結果(Claude3)

## 結論

提案特許と既存特許は同一であり、提案特許が既存特許を侵害する可能性が極めて高いです。

## 理由

1. 両特許の請求項1は、ステーキの提供方法について全く同一の手順を含んでいます。お客様を立食形式のテーブルに案内するステップ、お客様からステーキの量を伺うステップ、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ、カットした肉を焼くステップ、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップが完全に一致しています。

2. 両特許の請求項2も、お客様を案内したテーブルにお客様名を記載した札を置き、その札を持ってカットステージまでお客様に移動してもらい、カットステージでステーキの量を伺うという点で完全に一致しています。

提案特許と既存特許の請求項1および請求項2が完全に同一であることから、提案特許は既存特許の権利範囲に属し、提案特許が既存特許を侵害する可能性が極めて高いと判断されます。提案特許の実施には、既存特許権者の許諾が必要になると考えられます。

概ねGPT-4と同じような結果になっており、結論で提案特許と既存特許が同一であることに言及しています。

検証3 (大きく異なる特許を比較)

請求項の内容が大きく異なる特許を提案してみます。
提案する特許は下記の通りで、ゲームに関する特許になります。内容はClaude3に考えてもらいました。

# 提案
【請求項1】
ゲームサーバにより管理されるゲームにおいて、複数のプレイヤーキャラクターが同一のマップ上に存在し、各プレイヤーキャラクターが他のプレイヤーキャラクターと対戦するステップと、対戦の結果に基づいて、各プレイヤーキャラクターに経験値を付与するステップと、付与された経験値に基づいて、各プレイヤーキャラクターのレベルを更新するステップと、を含むことを特徴とする、オンライン対戦ゲームの制御方法。
【請求項2】
各プレイヤーキャラクターは、対戦前に装備アイテムを選択することができ、選択された装備アイテムに応じて、各プレイヤーキャラクターの能力値が変動し、変動後の能力値に基づいて、対戦が行われることを特徴とする、
請求項1に記載のオンライン対戦ゲームの制御方法。

# 既存の特許
【請求項1】 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むことを特徴とする、ステーキの提供方法。
【請求項2】 上記お客様を案内したテーブルには、お客様名を記載した札があり、該札を持ってカットステージまでお客様に移動して頂き、該カットステージにおいて上記ステーキの量を伺うことを特徴とする、請求項1に記載のステーキの提供方法。

検証結果(GPT-4)

## 結論
類似度は非常に低いです。侵害の恐れも非常に低いです。

理由:
提案された内容(オンライン対戦ゲームの制御方法)と既存の特許(ステーキの提供方法)は、技術分野が全く異なります。提案内容はオンラインゲーム内でのプレイヤーキャラクターの対戦、経験値の獲得とレベルアップ、および装備アイテムによる能力値の変動に関するものであり、これらの要素はゲーム開発とゲームプレイの管理に関連しています。一方、既存の特許は、物理的な場所でのステーキの提供方法に関連しており、顧客の案内、ステーキの量の尋ね方、肉のカットと調理、および提供のプロセスに焦点を当てています。

これら二つの特許の間には、技術的範囲や目的において類似点が見当たらないため、提案されたオンライン対戦ゲームの制御方法が既存のステーキ提供方法に関する特許を侵害する可能性はありません。したがって、提案は既存の特許とは異なる技術領域に属しており、侵害のリスクは考慮する必要がないと判断されます。

類似点が見当たらず、侵害のリスクも考慮する必要がない出力しており、期待通りの結果になりました。

検証結果(Claude3)

## 結論

提案特許と既存特許は全く異なる技術分野に属しており、類似性は見られません。したがって、提案特許が既存特許を侵害する可能性は極めて低いと考えられます。

## 理由

1. 提案特許はオンライン対戦ゲームの制御方法に関するものである一方、既存特許はステーキの提供方法に関するものです。両者は技術分野が全く異なります。

2. 提案特許の請求項1は、ゲームサーバによる管理、複数のプレイヤーキャラクターの対戦、経験値の付与、レベルの更新といったオンラインゲームに特有の手順を含んでいます。一方、既存特許の請求項1は、お客様の案内、ステーキの量の確認、肉のカット、調理、配膳といったステーキ提供に特有の手順を含んでいます。両者の手順に共通点は見られません。

3. 提案特許の請求項2は、プレイヤーキャラクターによる装備アイテムの選択と、それに伴う能力値の変動を特徴としています。一方、既存特許の請求項2は、お客様名を記載した札の使用と、それを用いたステーキの量の確認を特徴としています。両者に関連性は見られません。

以上より、提案特許と既存特許は技術分野、請求項の内容ともに全く異なるため、提案特許が既存特許を侵害する可能性は極めて低いと判断されます。

こちらの結果も両者に関連性は見られない、侵害のする可能性は極めて低いと出力されており、期待通りの結果になっています。

まとめ

今回の検証結果をまとめと以下のようになります。

  1. 類似する特許を比較した場合、GPT-4とClaude3はともに類似度が高いと判断。侵害の可能性についてGPT-4は断言を避けたのに対し、Claude3は侵害の可能性が高いと明確に述べる

  2. 同一の特許を比較した場合、GPT-4とClaude3はともに類似度と侵害の可能性が非常に高いと判断。両者とも提案方法と既存特許に差異がないことを指摘

  3. 大きく異なる特許を比較した場合、GPT-4とClaude3はともに類似性は低く、侵害の可能性も極めて低いと判断しました。両者が全く異なる技術分野に属することを理由に挙げました。

これらの結果から、GPT-4とClaude3はともに特許の類似性と侵害可能性の判断において一定の能力を示したと言えます。一方で、侵害可能性の断言についてはモデルによって差が見られました。

大規模言語モデル(LLM)を活用することにより、特許調査業務における時間と労力の大幅な削減、及び品質の向上が期待されます。最終的な意思決定は人間が行う必要がありますが、LLMを補助ツールとして使用することは大いに有益ではないでしょうか。

最後に

QunaSysでは、今回の特許比較を含め、LLM(大規模言語モデル)の活用に関する継続的な調査及び開発を進めております。また、受託案件についても承っておりますので、ご興味のある方は以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。