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書店ガール・碧野圭

書店ガール・碧野圭・PHP文芸文庫(2015年4月28日第1版第28刷)を読んだ。稲森いづみと渡辺麻友の出演で2015年にテレビドラマ化されたことでも有名な、書店が舞台の小説である。書店ガールはシリーズ化され、第7作目で完結。今回読んだのは、その1作目である。


ストーリーは、6月のある日、小幡伸光と北村亜紀の結婚披露パーティーから始まる。伸光は大手出版社の一ッ星出版のコミック編集者、亜紀は大手書店のペガサス書房の店員である。二人の出会いは1年ほど前である。ペガサス書房で漫画家のサイン会があり、伸光は担当編集者として来ていて、そのときが初対面である。それから半年後、二人は付き合った。そのとき亜紀は、同僚の三田と別れたばかりだった。それで亜紀は女性店員たちから、乗り換えが早い女、と思われてしまっている。

オンチなのに亜紀は、新郎とデュエット曲を披露することになり、恥をかいてしまった。そのあと、披露パーティーの最後には、ブーケ。亜紀は、副店長の理子のことが気に食わないので、理子のほうには投げてやらなかったのだが、なんと理子が受け取る形となった。

そのあと、亜紀は理子からの祝儀袋を怒りの気持ちで突き返してやると、理子もブーケを突き返してきた。祝儀袋とブーケは、そんなタイミングに現れた書店4階フロア長の辻井がもらうことになった(笑)。

翌朝、理子が店に出ると、さっそく女性店員たちが、前日の理子と亜紀の対決の話題でにぎわっていた。

新婚旅行で一週間の休みをとった亜紀。帰国した翌日に店に出て、溜まった仕事をしていると、一ッ星出版の営業部次長の柴田から電話があり、結婚パーティーに行けなかったのでお祝いのものを書店に亜紀宛てにして送った、という。届いていないか確かめに休憩室に入ると、ごみ箱に、亜紀がみんなのために持ってきたお土産のお菓子の箱が捨てられているのが目に入った。拾い上げてみると、中身が手付かずのままだ。休憩室を出たところでアルバイトの熊沢に会った。探し物のことを話すと、今朝副店長が包みを持ってゴミ置き場にいたのを見た、と熊沢はいう。副店長はふだん掃除などしないのでおかしい。そう思い、亜紀がゴミ置き場に行ってみると、自分宛ての小包を見つけた。クリスタルのグラスがふたつ、割れて捨てられていた……。


さて。「書店ガール」で書店の勉強をしよう!、である。当然この小説には、書店に関する知識があれこれ書かれているのだから、学ばない手はない。


42ページ「棚の本と本の間はつめこんで入れてはだめ」。本屋を巡っていると、本を一冊でも棚に多く並べようとして、ぎゅうぎゅう詰めにしているときがあるが、たしかに抜きとりにくく、本の表紙を破らないかこわくて、抜くのをやめてしまうものだ。理想の並べ方、というか、これは基本中の基本だと思う。

旅行から帰ってきた亜紀には手付かずのコミックが大量に残されていた、という場面がある。ここを読んであっと思った。僕ら客は新刊は仕入れたら必ず本屋が即座に店に出すようにしているのだと思っていたが、必ずそうとも限らないのか。人手が足りないなど書店の事情で出されないでバックヤードに眠っていることもあるのかもしれないな、と。まあ考えてみりゃそんなこと、あって当然なんだけどね。

このような会話がある「過剰なPOPは品がないんですって」「頭古ーい。いまや書店POPは常識だってのに」。僕も書店POPについては好ましく思っていなかったりする。品がないと思っているわけでも頭が古ーいのでもなく、あれはけっこう手にぶつかり怪我をしやすいぞ。

ペガサス書房一号店の地、吉祥寺を扱った作品を集めて店の各フロアで吉祥寺特集を展開する、というシーンがある。その特集のために古い雑誌を取り置いておいた、という方法が書かれていた。売れ残った雑誌は早々に返本されるもの、と僕は思っていたが、そうか、特集なんかのために取っておくこともできるのだなと感心した。本屋は他の小売業と比べて仕入れも返本もシステマチックな縛りがあり現場自由がないイメージを感じていたが、そういう自由もうまくきかせられるんだな、と。

同シーンでは、「漫画ではこういう特集を組むのは珍しい」という記述もある。僕も、本屋巡りが昔からの趣味で幾多も特集コーナーを見てきたが、小説はあれど漫画でそんなコーナーを見たことはない。吉祥寺店のそのコーナーは好評を得る。漫画をなにかのテーマで組むというのはいいアイデアだと思う。多くの本屋でやるといいと思うし、版元も作品を絶版扱いにせず、本屋のアイデアに対応して、注文があれば、古かろうがなんでも刷ればいいとおもう。


以上、学んだり、思ったりしたことを、僕はいろいろ書いてみた。このように、『書店ガール』は勉強になる本だし、なによりこの本自体が、書店や出版のことについていろんな意見、考えを集めるツールにもなりうるようなのだ。そこにはさまざまな意見、考えの相違もあろうが、かまわない。なぜなら、そこで読者のみんなに共通しているのは、「本のより良い未来をつくりたい」という切なる思いだろうから。


★ ブックストア・ウォーズ・碧野圭・新潮社・2007年10月刊行。書店ガール(ブックストア・ガールズを改題)・PHP文芸文庫・2012年3月29日第1版第1刷刊行。

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