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女學生奇譚・川瀬七緒

川瀬七緒の『女學生奇譚』徳間文庫(2019年7月15日初刷)という小説を読んでみた。こんな話。


ある日。フリーライターの八坂駿は、火野正夫編集長に呼び出され、仕事の依頼を受けた。ある女性が、古本に挟まれた「この本を読んではいけない……」で始まる警告文が書かれた紙を見つけた。本は彼女の兄の家にあったもので、兄は謎の失踪をしている。それはこの警告を破って読んだせいではないか、と彼女は思っている。今回の仕事の依頼は、彼女と会い、謎を探り、記事にしてくれ、というものであった。

さっそく八坂は、いつもペアを組む、長身で薄い体のカメラマン、篠宮由香里とともに、喫茶店で女性と待ち合わせた。竹里あやめ、二十七歳。あやめは日系二世、いまはアメリカに住み、環境団体で活動している、という。両親もアメリカで仕事をしている。兄がいることは大人になってから知った。母親が再婚のため父親が異なる兄とは、ほとんどがインターネットのライブチャットでの付き合いだった。が、連絡が取れなくなったので、心配になって兄の家に行ってみた。そして、おかしな警告文が挟まれた本を見つけたのだった。

タイトルは「女學生奇譚」。著書名はなし。小説としてはめずらしい菊版サイズ。昭和三年発行。最後のページにはしおりが挟まれており、二百円と値段がボールペンで書かれていた。

恐れ知らずの性格の八坂は、本をあずかり、謎を解くため、さっそく読んでいくことにした……。


そこから読者は、八坂といっしょに、「女學生奇譚」を読んでいくことになる。「一日目」から「三十日目」までの節で書かれていて、200ページ超の本。

語り手の女性は佐也子という、女流作家に憧れているような、十七歳の女学生。少女雑誌「令嬢の園」の投稿により、名を知られるようになった。「柊の會」の年長者である。が、いまは文壇への夢は閉ざされてしまった。経済的に裕福な家庭に育ち、有名私立の高等学校に通うが、いまは学校に行かないで、家族とも暮らしていない。学校でモダンガールとなかよくなり、密かに「エス」の関係でもあったが、もう一年も会っていない。佐也子はこれをすべて書き終えたら死ななければならない定めである。などのことが、「一日目」の、古めかしく、感傷的な文章からわかる。なんか田山花袋の「蒲団」の芳子のような文章だなぁ。

『女學生奇譚』は、その後続けて「二日目」を載せず読ませないで、現代のパートに戻る。「一日目」だけで「女學生奇譚」の世界に引き込まれ、僕は、続くのんきな(?)ヘンタイ撮影会など放っておいて、飛ばし読みしたくなった。が、先へとページをめくってみても「二日目」はなく、次はいきなり約五十ページ先の「十二日目」となるので、残念。なので、そのまま小説を順追って読むことにした。


で、兄の部屋の調査などを経て、読むことになった「十二日目」。「あのお方」なる者によって、佐也子ら女学生がある屋敷の座敷牢に閉じ込められている。それには、エスの関係にあったモダンガールが関与している。ここから出るときは、身を売られるとき。いまこうして書いている文章は本になるが、あのお方の厳しい検閲を経なければいけない。などのことがわかり、だいぶみえてきた。が、なぜにこれを読んではいけないのかは依然わからない。もしかしてこれ、読んだら男どもは、危険を冒してでもとらわれの美女を救い出したくなるからか、そんな気起こさせるからか、なんて想像したくもなったが、まさかねぇ。書かれてから時が超過しすぎているし、関係者はもう生きていなかったりしそうだし……。


このように魅力溢れる作中作は、「三十日」分ある設定なのだが、作中で読むことができるのは、その一部となっている。一節読むごとに「なんだこれ」と八坂と同じせりふをつぶやきたかった、そこは残念である。ただ、『女學生奇譚』は、最後まで読むと、続編を期待させる終わり方をしている、なので「女學生奇譚」は来たる続編で残りの部分も読める日がくるかもしれない。


☆ 女學生奇譚・川瀬七緒・徳間書店・単行本・2016年6月刊行。徳間文庫・2019年7月15日初刷。


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