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ぼくの秘密の家庭教師④

「野比、もしもまた熱が出たら、お母さんに電話してね。それから、お弁当はレンジでチンして温めて食べるのよ。それから・・・」
「お母さん大丈夫だよ。心配しないで。もし何かあったらすぐに電話するし、ほら、このとおりやるべきことをぼくなりにメモしているから。」
ぼくは早くお母さんもお父さんに出かけてほしくて、昨日寝る前に今日一日の計画表を作っておいたのだ。ぼくにしてはナイスアイディアだといえる。
「おいおい、大げさだなあ。野比、ゆっくり休んでいるんだぞ。」
「はいはい。おとうさんはいってらっしゃい。とにかく野比、これまで計画通りにできたことないからお母さんは心配しているの!
それから最後に一番大切な約束よ。ゲームばかりやっちゃダメよ。風邪ひいて学校休むんだからね。」
(チッチッチッ!)ぼくは心の中で(今日はゲームなんかやんないよーだ。もっと楽しみなことがあるんだから)と言いながら、
「お母さん、ほら、遅刻しちゃうよ。いってらっしゃい。気を付けてね。」
 やっとお母さんもお仕事に行った。もう誰にも邪魔されることはない。夕方までのなが~い時間を五兄弟で過ごせるんだ。寝てる暇なんてあるわけない!ぼくは急いで兄弟の待つリビングに走っていった。
 我が家は四頭の犬を飼っているけれど、ゲージは一つもない。リビングに四頭それぞれのドッグベッドをおいて寝床、そしてリビングの隅っこにトイレシートを敷いてトイレの場所としていた。普段、お留守番は家の中どこでも移動は自由。いうなれば我が家が四頭のゲージともいえるんだ。
 ワクワクドキドキ、リビングに入るとぼくの興奮をよそに四頭はドッグベッドに入って、二度寝に興じていた。なんてことだ。ぼくはこんなに楽しみで興奮しているのに、みんなはどうして二度寝なんてできるの?どういう神経しているのさ。
「ねえ、クイミ、ジッチ、ジュナ、ウニヨン!起きてよ。お父さんもお母さんも仕事に行って、ぼくらだけになったんだよ。早く遊
ぼうよ。」
パジャマのまんまのぼくが、ソファの上に飛び乗り大声で言うとジッチがあくびをしながら、
「ゴロクは何年おれたちと暮らしてきたんだ?」
昨日の夜は嬉しくて、寝付けないくらい楽しみにしていたぼくは肩透かしをくらった気持ちになった。するとジュナがぼくを手招きしてそばにくるように促した。
「あのねゴロク。ぼくたちいつも何時に朝ごはん食べているか知ってる?」
「うん。六時半でしょ。」
ぼくは自信たっぷりに答える。
「そう。そして今は七時十五分だよね。朝ごはんを食べてまだ四十五分しか経っていないんだよ。ぼくたちは二時間くらいたたないと
思いっきり遊ぶことができないんだ。お腹を痛めてしまうからね。だから、毎日この時間は二度寝をしながらお腹を休めてるんだ。」
そういえば、お父さんが「ご飯あげたばかりにはおもちゃを見せたらいけないよ」って言っていたなあ。そういうことだったのか。
「遊ぶことはできないけど、おしゃべりならできるよ。」
 クイミは静かな寝息をたて、ジッチはベロをだして気持ちよさそうに眠っていた。ジュナは小さな声で、
「ジッチ兄ちゃんは怒ってないよ。ジッチ兄ちゃんはぼくたち群れの頼れるお兄ちゃんなんだから。ねえ、ゴロク、ぼくとおしゃべりしようか?ウニヨンもおいで。」
ジュナのベッドにウニヨンともぐりこむと、ジュナとウニヨンの匂いがした。(へぇ~肉球のにおいってそれぞれ違うんだ)とぼくは初めて気づいた。
「ジュナはどうして美味しお粥さんを作ることができるの?どうやって作っているの?ぼくたちがいない時に料理とかやってたりするの?」
ぼくは矢継ぎ早に質問をしていった。だって、聞きたいことが山ほどあるんだもの。すると、
「ふふふふ、ねえゴロク見て。ウニヨン、もう寝ちゃったよ。ホントにウニヨンは体は一番大きいのにやっぱり末っ子のかわいさが抜けないね。でも、ゴロクも家族になってこの家に来た頃はウニヨンに負けないくらいかわいかったんだよ。」
「ふ~ん。ジュナ、で、ぼくの質問の答えは?」
「あ~、はいはい。あのねゴロク。ぼくはゴロクがうらやましいんだ。やろうと思ったら何でもできるじゃないか。ぼくは料理ももっとやりたいし、ゴロクのように本もたくさん読んでみたい。あのお粥はおかんが見ていたテレビの料理番組を真似したんだ。それに、ゴロクたちがいないときには料理なんて作ったことないよ。実はあのお粥がぼくの作った初めての料理なんだ。ゴロクのためだけの料理さ。」
ぼくのためだけの料理、ぼくのためだけの料理。ぼくは心の中で何度も呟いてみた。何度つぶやいてもうれしい響きが広がった。
そして、ジュナの優しいお話とウニヨンのぬくもりで、ぼくもいつの間にか心地よい二度寝に入っていった。

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