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ぼくの秘密の家庭教師②

三年生の三学期。ないないずくしのぼくは劣等感に押しつぶされていた。
 ないないずくっしっていうのは、「やる気もない、根気もない」そして、お母さんやお父さんからの「信用もない」っていうことなんだ。
「野比、何なの?このノートは!字は乱暴だし、毎日同じ漢字練習 ばっかりじゃない。この家庭学習はただの手の運動ね!」
お母さんが夕ご飯の準備しながらの、毎日恒例「ながら説教」が始まった。
「先生は何にも言わないし・・・・。」
「何小さな声で言ってんの。ご飯ができるまでの間にやり直しなさい。ホントやる気がないんだから。」
「わかったよ・・・。」
実を言うとぼくは何にもわかっていなかった。わかろうという気さえない。お母さんがうるさいからちょっとだけえんぴつを持って、手の運動を更に加えることにするんだ。
「あぁ~。また、やってる真似だけ。そんなんだから野比は信用ないんだよ。口に出すんならちゃんとやりなさいよ。わかったんならさっさとやっちゃいなさい。」
お母さんは何でもお見通し。やんなっちゃうよ。
「お前たちはいいなあ。好きなことだけやってりゃいいもんな。」
一番上のクイミはぼくに背を向けて料理中のお母さんの手に集中している。二番目のジッチはボールをそばにおいてぼくを誘っている。そして三番目のジュナは「ながら説教」をしているお母さんの口調が恐くて遠くから様子を伺っている。そして末っ子のウニヨンはぼくの足元で尻尾を振って笑っている。ぼくには兄妹はいないけれど、四頭の犬がいるんだ。みんな男の子。犬に愚痴ってもしょうがないことはわかっているんだけど、お母さんの「ながら説教」の時にはいつだって、四頭の犬に愚痴るんだ。もちろん独り言のようなものだよ。そりゃお母さんに文句言ったら何倍にもなってかえってくるし、そして、お父さんにまで叱られることになるから、ぼくは独り言のように四頭の犬に愚痴るんだ。

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